第二十五話 伴出、間に合うか
薄暗闇の中で走る者達は周囲の雰囲気がおかしいことに気づいていた。
町全体画どこかおびえているのだ。
まだ眠っている者がほとんどであるはずなのに、張り詰めた空気が町を締め上げている。
「いるナ」
セイカには気配でわかった。町を兵士が哨戒している。それもおそらくはセルディーの者だ。
「どういたしますか?」
シンが慎重に尋ねる。結局ムツとシンのコンビもここまでついてきていた。恩義からだった。
「この事態、おそらくはご子息を待ち構えてのことかと」
ムツにもわかっていた。これは引き込み、通謀の類である。それを統率者が行っているのだからどうしようもない。
「ここにセルディー家嫡男パトリック様とパトリシア様がおられる。邪魔だてはさせン!」
厄介なことではあるが、セルディーはもはや武力によって親子で正統性を奪い合わなければならなくなってしまっていた。
「セイカ、よく聞いて!」
走りながらパトリシアが叫んだ。
見てみるとパトリシアとパトリックはほっかむりをして顔を隠し始めている。
「何事デス!?」
「私達のことは誰にも言わないで!」
「事情があるんだ義母様のことで! 我々はあの人を責めるつもりはないんだ!」
「なんと!?」
「これは自分たちだけで敵を討とうとしたことにも関係しているの!」
「······承知しまシタ! 委細は後ほど! 当面お二人のことは『りゅういち』と『りゅうじ』とでもお呼びを」
「まあ! ダウンタウン熱血物語(1989年)ですわね! でもどうせなら『とらいち』と『とらじ』の方が好き······」
「熱血格闘伝説(1992年)もいいですネ! しかしそうなると双頭竜という二つ名となんにもかからなくなりますナ! ガハハ!」
「いやなんでもいいよ!」
そんなこんなわさわさしていうちに石畳に響く足音に兵が気付き駆けつけてきた。
路地の奥に防具を身に着けた戦士が数名。
「待たれいサンジオー殿! これはセルディーの仕事であるぞ!」
セイカには見覚えがある。セルディー家の護衛をしている古馴染みであった。
「何者かが攻めてきたものとお見受けシタ! 我が指南役門下一同も参じヨウ!」
足を止めたセイカには考えがあった。
「無用である! でしゃばるな!」
「サンジオーはセルディーに恩義あり! まかり通るのみ!」
常識外の大戦斧を振りかざす。
警告ではあるが脅しではない。
「サア敵はいずこか?」
その言葉を聞いて一番前でセイカ達を制止していた戦士の一人が少し頷いた。
「敵ではない無礼者! クラッテンハイム殿が招かれた客人である! 古代の宝物に詳しい方々で、奥方様の治療には代々伝わる宝物をお見せするのがよかろうと来ていただいたのだ!」
どこかから説明乙! と聞こえてきそうであったが、これはまさしく説明なのだった。
要するに町中に配置されたセルディーの手の者の士気は限りなく低かったのである。
「どうだわかったか!?」
「宝物? つまりあの塔デスか······あそこにある宝物はいかなる者に対しても部外秘! それは代々王家より受けた勅令であり国禁にも匹敵スル! なおのこと見過ごせなくなった!」
このやりとりは戦士達が裏から協力しようとしているということである。情報をくれており、セイカの意志を確認していたのだ。
「······この奥にある塔で合ってマスね?」
セイカがぽつり呟く。
説明戦士にその言葉が聞こえたの頷くのが見えた。
「ならばここで討つのみ!」
鞘から剣を抜いた説明剣士だが、そのまま動かない。
「······えーと、ヨシ!」
セイカは地面に斧を叩きつけた。
ドシンという音が響く。
「······」
沈黙。セイカも動かない。
「······あっ、アレか! ウワーッ!!」
説明おじさんは少しして納得してからぶっ倒れた。斧で地面をえぐり破片を飛ばす技をセイカが持っていることを思い出したからだ。
他の戦士も注意深く周囲を確認しながらゆっくりと地面に寝そべるのだった。
「我が家の者ながらなんてダイコンなのかしら·····」
セイカの後ろから聞こえてきたその声がパトリシアのものであることを気づいたので説明紳士は赤面した。




