第二十四話 伴出、逃げる
「まて、待って! 待ってくれ……」
ぜいぜいと息を切らせたサワキが懇願する。
一同はルプスの麓を走ってコンデイトの町への戻っている途中である。
裏道と崖のような道を駆け下りることで時間を短縮することができたが、途中で怪我しなかっただけ幸運な道のりだった。当然体力は限界である。
それでもまだ町は遠く、道はさらに険しい。
「すまないがサワキちゃん、もっと急いでクレ」
「サワキくん頑張ってくださいにゃ」
とはいえ、限界なのはサワキだけだった。セルディー家の双子も含めてみんな元気である。
「ほらサワキちゃん、勇者ならもう少しシャキッとしたまえ」
「ええい! 走ったら危ないんだぞ! それにそんなに急いでもし大名行列とかにぶち当たったら無礼討ちになるだろ!」
「このアリイアに参勤交代はありませんにゃ」
「こ、これでも気持ちだけは焦ってるんだよ! リバイスって名前の敵を出したら巷に仮面ラ○ダーリバイスなんてのが出てきて名前かぶりしてるじゃないかってなってしかももうそれもそのうちに終わるぐらい時間が空いてだな······」
「そんなこと誰も聞いてませんにゃ!?」
「う、うるさい! ろくすっぽ読まれもしない小説を続けるのには根性がいるんだよ! 根性、必中、魂、ひらめき、熱血(F)! SPが足りないんだよ!!」
「なんの話をしてるんだい!?」
「急いでくれこのクソ勇者畜生貴族」
日が明けるまでもう幾許もないだろう。ラストファイターコンビが急ぐよう促す。
「戦というものは大抵明け方にはじめられるものだからネ······」
セイカがまだ暗い世界の中で崖の先に見え始めたコンデイトを見つめる。
「もう二度とあの町を戦火に巻き込むわけにはいかない」
「たしか、コンデイトは元城砦都市だったっけ?」
サワキが息をきらせながら質問する。
気温がすさまじく低いらしく息が白い。おそらく一日で一番寒い時間だろう。
あたりはうっすらと雪景色となっていた。
ルプス山の麓は崖が遠く街を囲うようになっている。崖の下にはコンデイトからは奥まったところに位置する塔のようなものが静かに立っていた。
「つい最近の話ですにゃ」
サワキはルーシーの全身をゆっくり見渡すと荷物をゴソゴソとさぐりしだした。
「そうなのか?」
「ミーのいたアカデミーも巻き込まれたんだ。多くの生徒が巻き込まれたよ」
「······ミーシャ以外のみんなは先に行ってくれないか? 体力がもたないんだ」
「あ、ああ。だけど······」
セルディーの双子が訝しげにサワキを見る。
しかしラストファイターのコンビとセイカは双子を説得し先に駆け出した。
・ ・ ・
暗がりに遠く消えていく皆の背を見ながらサワキは決意を固めていた。
「悲しいですにゃ、まるで二十三の瞳ですにゃ」
「なんで奇数なんだよ」
サワキが白い粉を手にしルーシーに近づく。
「なんですかにゃ?」
無言のままサワキがその粉をルーシーにかけた。
「な、なにするんですかにゃ!?」
「このままじゃ時間が足りないと思った方がいい」
「はぁ」
「セルディーの二人が命がけでここにいたのを我々は邪魔した。その責任をとるべきだろう?」
「そうですにゃ、そう······」
ルーシーの肩に置かれたサワキの手に力が込められる。
「さ、サワキくん?」
「すまんミーシャ!」
サワキは思い切りルーシーの着ている毛皮のコートをはいだ。
「にゃ、にゃにを!!」
肢体があらわになるルーシー。肌面積の大きい服装なのはそういう普段着だからなのだが、こうされると妙に恥ずかしい! そしてなにより寒い!
「お、お戯れ〜!」
ルーシーがなよなよと地面に横たわる。
雪が冷たくて仕方ないがそういう流れを望まれているのならばそうした方がいいだろう。ルーシーはそれなりに大人だった。
少し待つがいつまでたってもサワキが襲ってこないのでチラリと見てみると、サワキはなにやら毛皮をいじっている。
「なにしてるミーシャ! 急げ!」
木の枝と紐で毛皮はなにやら船のような形に固められ、サワキの手に引っ張られていた。毛皮を散歩させてるような形である。
「ハァ!?」
サワキは毛皮を引きずりながら先へ先へと進みだした。
「そっちは逆ですにゃ! 崖を登る形になってますにゃ!」
ルーシーの声を無視してサワキは進む。
ぽかんとしていたルーシーだったが、少ししてふとあることが思い浮かんだ。
「あー! 逃げるんですかにゃ! 最低ですにゃ!」
腹を立て、遠くなっていくサワキの後ろ姿に悪態をつく。
止まりそうにないサワキに苛立ちを隠せない。皆を追おうとサワキの反対方向に足を少し進めたが、悲しくて、どうにも納得がいかなくてルーシーは踵を返した。
「······ボクには追いかける義務がありますにゃ! サワキくん待つにゃー!」




