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第十九話 伴出、震える

「なるほど」

 風車小屋でセイカと落ち合ったサワキとルーシーは得られた情報をもとに状況を整理していた。

「ヨモギ夫人は子息を可能ならば籠絡して味方につけたいと見えるな」

「当然だろうネ、現にこうして夫人の行動を良しとしない人間がここにいる。セルディーを乗っ取るにしても正当性というものが必要なのサ」

「どう取り繕うんだ? セルディーはずいぶんな旧家のはず。爵位は高くなくとも横の繋がりは強いだろう」

「うむ。セルディーは王家にも顔が利く、いくらシノファリオが名家とはいえことが知れれば騒動になる」

「騒動にしてしまえばいいんじゃないですかにゃ? 王様と知り合いなら悪いようにはしにゃいでしょう」

「いや、知られたら十中八九セルディーはとり潰しだな」

「な、なぜですにゃ!?」

「顔が利くってことは発言力があるってことで、王ってものはそれを煙たがるもんなの、たとえ友人や味方でもね。自分以外みんな弱い状況が理想だから」

「でもそれだと国家の運営に支障が出ませんかにゃ、統治にはよくても諸外国に対抗できませんにゃ」

「封建社会ってのはそういうもんなんだよ、諸侯が臣従しているうちはいいけどいつ謀反を起こすかわからないっていう疑いを捨てきれないの。そしていざ外敵が現れたら臣下と相殺させて、弱った双方の上前をはねる」

「それじゃ領民はいつまでたっても豊かに暮らせませんにゃ!」

「……賢い子猫ちゃんダネ、貴族達よりよっぽど国というものをわかっているヨ」

「ともかくそういう理由で秘密裏にかつ迅速に解決しないといけないんだよ」

「早速なんだけど、ミー達だけでこの地図の場所を探索しに行こうじゃないか」

「偵察ってやつですにゃ?」

「あの子達にはもう伝えてある。夜の間に様子を見ておきたい。もし"パーたん"が事実なら確認でき次第撤退する。いいね?」


 ・ ・ ・ 


 数刻の後、北ルプスの麓といえる大きな道に差し掛かる場所で夜の世界に溶け込む三人がいた。

「準備いいみたいだネ」

 ルーシーはもわもわのコートらしきものをまとっていた。彼女の普段の服装は露出が激しいいわゆる肌色が多い状態である。かなり角度のある競泳水着のような服で、その絶対的に絶望的な絶句するほどの絶壁には穴まで開いている始末だ。北ルプス周辺の気温では猫といえどそのままではかなり厳しかっただろう。

 しかし問題はサワキである。サワキも比較的着込んでいるのだがやはりかなり寒いらしくずっと震えていた。

「うー、パームトップウォーカーになった気分だ……」

「そこまで震えてませんにゃ」

「普通の道に見えるのにこんなに寒いのな」

「ルプス山の冷たい空気が急速に降りてくる場所でネ、広くてなだらかな道なんだけどよほどでないとここを使う人間はいないのサ」

「そんなに寒いならボクを抱っこしてもいいんですにゃよ」

「コンノトヒロ先生の絵みたいにバインバインになれば考えるよ」

「無茶言うにゃ」

 ブーたれるルーシーを尻目に、動いていた方が暖まるとサワキは歩みを進め始めた。

 夜の山道の暗さというとはサワキのような現代人にはかなり酷である。

 近くは見えない遠くは見える。厳密には空だけはぼんやりと明るい。街灯のない夜の闇は天空よりも地上の方を色濃く染め上げるのである。空を背景にシルエットを見ながら闇に慣れたわずかな視界をもとに歩くのだ。

 本来ならばランタンでもあればいいのだが偵察にはいささか厳しい。人員がいればそれなりの範囲を警戒できるので小さな火ならあるいは灯せるのだが。

「地図によるとそろそろ例の場所が近いネ。少し休憩しよう」

「じゃあ腹ごしらえでもしますにゃ、はいサワキ君お茶と缶詰めですにゃ」

「ありが……あのね、泥を水に溶かしたものはお茶とはいいません」

「泥茶ですにゃ」

「ありそうに言うなよ。あとこの缶詰めなに? 肉の匂いがすごいんだけど」

「ペディグリーチャムですにゃ」

「なんで猫にドッグフード食わせられなきゃならないんだよ!」

「しっ! 二人とも静かに」

 セイカが注意を促し周囲を気にしだした。

 夜は無音ではない、ありとあらゆる音が際立つ世界だ。何かがいればその音が発生源を形作る、音で見る世界なのである。

「子猫ちゃん、あっちに誰かいないかい?」

 そして、ルーシーは夜目がきく。

 セイカとルーシーの二人が暗闇の中で動く何者かを捉えた。

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