第十七話 伴出、ばらす
その部屋は平和な屋敷の中ではかなりものものしい雰囲気を放っていた。
見張りを立てて常に辺りをうかがい、ひそひそと言葉を交わす。
知られてはならない性格の集まりなのである。
「そういうことで巻き込まれてもらえるカナ? ことの成就の暁にはこのセルディーとの橋渡し役を引き受けよう」
「他に宛もないし協力するのはいいんだけどさ、あまりに時間がかかるとちょっと困るな」
「大丈夫ダヨ、子息を救い出せれば必ずこの家の者は子息に味方する。それに協力してくれるなら異世界のお宝を進呈しよう」
「ふむ」
「銃だ」
「また銃か」
「前の銃みたいなものですかにゃ? 使えるものならいい戦力になりそうですにゃ」
「火薬や弾が入手できるかにもよるけどな」
「ただの銃じゃない、非常に未来的なデザインと気品を持った素晴らしいつくりの銃だ。きっとこれからの冒険の役に立つ」
「そんなにいいものなのか?」
「見せよう、これがそのアイテムだ。ミーの見立てではこれはとんでもない破壊力を持った武器ダネ」
セイカが取り出してきたのは黒い箱だった。しかしそれはただの箱ではない。まさしくサワキの世界のもので、プラスチックでできたものであった。
それは展開し、形を変え、グリップと銃身のようなものを持ち、いくつもの機能を備えたツールとなったのである。
「いやこれ学研ボーイズコマンダーじゃないか! どこで手にいれたんだよマジで! 武器でもなんでもないし別にいらねえよ!」
不毛なやりとりの横でルーシーが騎士達に猫じゃらしで遊ばれながら話を聞いていた。
「ふーん……一つだけ聞いていいかな?」
ボーイズコマンダーを触りながら少し雰囲気の変わったセイカが聞く。
「これは異世界から来たもので間違いないネ? 我が家でもそう伝わっていた」
「そう、オレのいた世界の物だ。かなり昔のもんだぞ」
「そうか……伝承は伝承、ただのおとぎ話に過ぎないとは思っていたけれどネ」
「ああ、そいつは武器じゃない」
「違う、そっちのことじゃないヨ、これが異世界の物だっていうことの方サ」
「あ、なるほどですにゃ」
ピタリとじゃれるのをやめてルーシーが会話に入る。
「キミは……異世界から来たのか?」
「カマかけられたんですにゃ、セイカさんやりますにゃ!」
「どうなんだい?」
どこか冷徹そうな表情で詰め寄るセイカ。
一触即発の空気がピリピリと部屋に満ちる。
「そうだよ」
「おや?」
「オレは異世界から来たんだ」
「サワキ君、いいんですかにゃ?」
「隠してるけど隠してないからいいよ、信じてもらえないしおかしな奴と思われるから言ってなかっただけだもん」
「……そうか」
なんとなくセイカの表情が柔らかくなって緊張が解けたようだった。
「待ってください、彼らはいったい何者です? 異世界とは?」
見習い騎士が少しばかり困惑した声で割ってはいってきた。
「それでなくても我らの秘密をそのような者に話して」
「大事な計画です、信用できる者だけで行うべきです」
いきなり現れたサワキに疑いの眼差しを持つのは当前である。
「信用か……確かにそうだネ」
セイカもわかっていたことである。一筋縄で認めてもらえるものではない。しかし、サワキには奥の手がある。
「つっても困るぞ、身の証を立てるものなんか持ってないしな」
「ですにゃ」
「いや、持っているだろう?」
「なにを?」
「オティの剣さ」
「あー、ああ」
「オティ?」
「勇者オティのことですか?」
「まさか彼が?」
「うん。そう、彼こそは勇者オティなんだ」
騒然しいくつもの質問をする騎士達であったが、そこをセイカがうまくまとめてくれた。
「諸国を蛮勇しているのサ」
セイカはサワキの目的をそう説明した。
セイカはサジフによって捕らえられている。その腕力と指南役であるという肩書きからして相当の武人であると思われるセイカだ、リバイスや魔王についてうすうす勘づいているのかもしれないとサワキは感じた。
・ ・ ・
セルディー家奪還を目指す彼らに受け入れられたサワキであったが、そこで少し厄介なことを頼まれるのであった。
「情報収集?」
「そう、ご子息の居場所はおおまかだがわかっている。北にあるルプス山だ。しかし、敵の規模などはわかっていないんだ。そこで市位で噂程度のものでいいので情報を集めてもらいたいんだ。お家騒動なのを知られるわけにはいかないから騎士は動きにくくてネ」
「そんなものか」
「明日の夕方に合流しよう、この屋敷ではなく町はずれにある風車小屋がいいな。今夜は町にある宿屋を使ってくれ、資金を渡しておこう」
……そのようなやりとりをしたのは昼頃で、コンデイトの街中に出て一通り話を聞きながら歩き回り、今は日がそろそろ傾き始める時間となっていた。
あまり進まない情報収集に飽きてきたころだ。そろそろ休むことを考えようとサワキとルーシーは資金を確認をしていた。
「サワキ君大変ですにゃ! セイカさんから貰ったお金五十万ネイもありますにゃ!」
お財布を任されているルーシーが小声で騒ぐ。
「うーん、ネイの価値がわかんないからピンとこないな」
「1ネイ1円ですにゃ! 日本円にして50万円ですにゃ!」
「よく円がわかるな」
「さすが貴族様ですにゃ~」
「そうね……」
サワキは少し考えてからある提案をルーシーに行った。
「部屋をとってからまた少しバラバラに情報収集をしよう」
さらに、10万ネイは共通の旅の資金とし、残りを折半することにした。
「ボクに大金渡してどうするんですかにゃ? 猫に小判ですにゃ」
なるほどと少し笑ったが、いいから持っておけとだけと押し付けた。
宿の確保と食事を終えた後、サワキは一人街中を歩いた。
このコンデイトの町並みはそこそこに整っており、十分に発達しているように見えた。
魔法産業なるものがもたらす風景は不思議なもので、科学的に発達しているにも関わらず素朴で牧歌的な気配をいささかも損なっていないように見えた。これは、魔法科学が大規模な環境の整備を必要とせずにインフラを整えることを可能にするもののため、ミニチュアサイズ化した自然の恵みを人々の暮らに直接もたらしているからである。
サワキがルーシーと金を山分けしたのは、ある理由で一人の時間がほしかったからであった。
いくつかの店を渡り歩き、サワキはようやく最後の店にたどりついた。
エントランスに入るとそこは薄暗く、独特の怪しい気配と香りに満ちた空間が待っていた。
少しばかり緊張しながらサワキは歩みを進める。




