第十二話 伴出、チート能力を発揮す
「それはどうかな!」
叫ぶと、サワキは両腕を大きく広げてサジフに向き合った。
「サワキ君!」
魔法の重力から解き放たれたルーシーは思わず叫んでいた。しかし無情にもサワキは魔法の中に消えていく。
「……へ?」
誰もが消えていったと思った。
「へっ、さらに"計算通り"!」
サワキはそのまま立っており、それどころか振りかぶった拳をサジフに思い切り振り下ろしていた。
鈍くて重い音が生々しく響いてサジフはものすごい勢いでしりもちをつく。そして鼻を押さえたままサワキを見上げた。
「まざか……」
「嘘だろ」
「直撃したはず」
「まざがぎざま……」
「ああ、たぶんそのまさかだ」
「魔法を切り裂くどころか、魔法そのものが効かないというのかあぁ!!」
へたりとその場に座り込むルーシー。サワキはそれを見て少し気まずそうにクスリと笑った。
「大丈夫だ、ミーシャ」
ルーシーは赤紫の瞳を滲ませて複雑そうな表情で一言答える。
「うう、もう! ボクの名前はルーシーですにゃ!」
サジフはふらふらと立ち上がりながら怒った様子で叫んだ。
「なんでそんなことができる!? 約束が違うぞ! 剣の意味は!?」
「いいやむしろお約束だね」
「なんだと!」
「異世界に来たらチート能力が備わってるもんなんだよ、いまどきはな」
「……!!」
「もしくはマイナー能力無双ね」
「異世界……そういうことか! オティ、貴様は!」
「ああ、このアリイアとは違う世界から来た」
ムツとシンはお互いに顔を合わせて目をぱちくりさせているし、ルーシーは小首をかしげている。ここでサワキの言ったことを信じたのは敵であるサジフのみであった。
「おのれおのれおのれぇ!」
サジフの乱れようは尋常でない。
「なにをそこまで怒り、焦る?」
「サジフ、おまえのことだ、どうせまたろくでもない思惑に手を貸しているんだろう?」
「そして首が回らなくなっている。失敗すれば後がない博打のような計画に乗ったな」
「うるさい! おまえらになにがわかる! ……いや、確かに焦りすぎだな」
サジフはふと落ち着きを取り戻し、懐からなにかを取り出した。
「ふぅ。魔法が本当に効かないとして、それで終いじゃない。こいつを使えばいいだけの話だったな」
それは手のひらサイズの宝石だった。
「そうとも、修正者の力を使えば貴様なぞ!」
「……なんだ、あれは」
「サワキ君!」
ルーシーの投げた刀をしっかりと手にし、刃を向けるサワキ。
「そこまでだ、『土葬』」
石が輝きを見せたかと思うと、一瞬にしてサジフが消え去った。そして、サジフの消えた辺りを見回す一人の人間が何もない空間からひょっこり現れた。
「!」
「なんだ、こいつどこから!?」
全身をポンチョで隠したその人間がこちらを向く。しかしその顔は黒く塗り潰されておりまるで見えない。しかし……
「やあ、サワキ=バンデ、新たな時代の勇者オティ」
聞こえてくる幼い少女のような声には聞き覚えがあった。
「こいつは……」
「サワキ殿こいつだ! あの銃を我々に渡した奴だ! そうかあのときの男の方の声はサジフのものだったのか!」
「ファファファ、その様子だと失敗したようでマオな」
「ん?」
「今の戦いでわかった通り、異世界の者は魔の力を受け付けぬマオな。魔法が基盤となりつつあるこのアリイアでこやつを確実にしとめたければこやつの世界の武器を使うのが一番でマオ」
「貴様、目的はなんだ? 土葬とは、リバイスとはなんだ?」
「ねえ」
「僕達を騙してまでサワキ殿を排除したかった理由はなんだい?」
「ちょっと」
「フシャー!」
「ねえねえ」
「ファファファ、それはお主らの知ったことではないでマオ。とりあえずの目的は果たしたマオ、オティの力を試すという目的はマオ」
「にゃんですって! サワキ君を試すですって!」
「いや、あのさあ」
「フォーファファファ! 今はまだ時ではないマオ。しかし、近いうちに必ずサワキ=バンデには消えてもらうマオ」
「おいってばよ!」
「なんじゃ、やかましいマオ」
「おまえ魔王だろ」
「……」
「…………」
「……………………」
「ななななななななななななななななに言ってるマオ! マオは魔王じゃないマオよ! そんなわけないマオ!」
「マオって名乗ってるのか、魔王だけに。まんますぎるだろ。ミーシャ、オティの倒した魔王ってなんて名前だ?」
「たしか死王ゴルフィクスですにゃ」
「おいゴルフィクス、どうせサジフは四天王的なアレだろ、さしずめスカルミリョーネだな」
「な、なんのことマオ! ぜんぜん違うマオですけど!」
「あの石で強大なモンスターに変身するんだな?」
「知りませんマオー!」
「あと水葬と風葬と火葬がいるな」
「ナナナナー! ナナナナー! 知りませんすいませーん!」
「よりによってジョイマンとかなんだこいつ~!」
「あーあー、もう帰りますマオー、マオは忙しいマオー」
「待てやゴルフィクス!」
「あー聞こえませんマオー! 今日耳日曜マオー!」
「うわこいつおもんな!」
そうこうしているうちにマオと名乗るネタバレ魔王、死の王ゴルフィクスはいずこかへと消えていった。そして部屋の結界は解かれ、不穏な気配もなくなり、とりあえずは解決となったのである。
「……あー、なんかアレだな」
「ああ、アレだったな」
「だね」
「ですにゃ」
「テンポ悪いだけだったな」
思っていても口にしてはいけない一言であった。




