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第十一話 伴出、チート魔法を食らう

「たのむぞ、オレ……」

 サワキがなにやら呪文のようになにごとかを自分に言い聞かせている。大丈夫だとかできるだとか、そういう風な内容だ。

 ルーシーはそれを見て、サワキが自分を鼓舞しているものだと思った。不安に感じたが、やれるだけやるしかない。

「サワキ君しっかりしてくださいにゃ!」

「猫ちゃん、我々がしかける。サワキ殿を守るんだ」

 シンがビリヤードでもするような角度で槍を構える。

「ククク……」

 なにが愉快なのか笑うサジフ。隙とみてムツは力強く弓をひいた。

「シッ!」

 ムツの動きに合わせてシンが出る。シンの動きに合わせてムツが射る。

 瞬間、爆風が部屋に満ちて、槍も弓も人も全部壁に向かって弾き飛ばされた。

「無駄」

 サジフの声。

「んぐぅ……風、か……? たしか、シューティングエアだかいう人をも吹き飛ばす風の魔法が……」

「いや、なにか別のものだ……」

「なにか、地面から来たような変な気分ですにゃ」

「そう、いまのは大地の反発力、そして重力の操作さ。名前すらない魔法の途中段階だよ」

 さらりと言ってのけるサジフ。それは見たことも聞いたこともない魔法のあり方だった。 

「魔法の……」

「レベルじゃ……」

「ないにゃ……」

 どうしようもなかった。あんなものを軽く使える相手だ。攻めようがないのである。今の魔法を使い続けられるだけでも簡単に揉みくちゃにされてしまうだろう。

「この強力な結界内じゃ助けも呼べない。攻めようもない。敵である俺様は明らかにまだまだ余裕を残している。絶望的だ。でも、こうして――」

 サジフが指差す先にサワキがいた。ほどの重力操作でも微動だにせず、しっかりと刀を構えて立っていたのだ。

「――立つ者がいる」

 皆は驚いた。なにがどうなっているのか。

 刀身を輝かせながらサワキは不器用に笑ってみせた。

「なるほどな」

 サジフもニヤリとしてみせた。

「ほう、やはり自身でも気づいていたか」

「ああ」

「ふふん、それでいい」

 先ほどの衝撃に似た震えが部屋に起きる。しかしそれは周囲に吐き出されているものではない、サジフの手元に力が集まっているのだ。

「先ほどの力をしっかりと魔法にしたものだ。名はホルダーグラビティ。質量あるものは皆ペシャンコさ」

 空間の歪み、景色の歪み。集中した魔力が物理現象を変える。

「さあ、失敗したら全員死ぬぞ……! 見せてみろ、勇者の力!」

 低い音とともに放たれる魔法。

「はあああっ! でやあっ!」

 そして……

「ほう」

 魔法は……

「な、なにがおこったんですかにゃ?」

 発動しなかった。

「よしっ、"計算通り"!」

「シン、見えた?」

「見えたが、なにがなにやら。あのオティの剣が()()()()()()ようにしか見えなかったぞ」

 たしかにそのように見えるものだった。ホルダーグラビティなる魔法が放たれてサワキへと向かった。発動すれば周囲を潰す重力の渦をひきおこす球体状にまとまった力場である。サワキはそれに刀をおもむろに振り下ろしたのである。すると、ぬるりとその魔法の塊が切れて四散したのだ。

「そう、正解だ。今彼は俺様の魔法を斬ったのさ。伝承のままだよ、『勇者オティは魔法をも切り裂く』。オティの剣にはそれができるんだ」

「す、すごいですにゃ! サワキ君は本当に勇者オティだったんですにゃ!」

「ならこの勝負」

「サワキ殿の勝ちだ!」

 すでに状況はサワキ対サジフの一騎討ちである。

「それは、どうか、なっ!」

 サジフが強く足を鳴らした。すると、ふわりと部屋の空気が軽くなった。いや、軽くなったのは空気ではない。ありとあらゆるものが宙に浮いたのである。重力操作によるものであった。

 ルーシーもムツもシンも、急に床がなくなったかのような感覚とともに空中浮遊きだして身の自由が利かなくなった。

「死ねっ!」

 魔力でできた刃が飛ぶ。

「しまった!」

 三人は少し離れている。三方向への攻撃は同時には防げない。サワキは振り返りオティの剣を放り投げ、三人のいる辺りの魔法を斬った。

「こっちも"計算通り"、終わりだ」

 そして、魔法の応用により反発力を駆使し疾風のごとき速さでサワキの後ろをとったサジフは、手にした重力の波を今まさに放とうとしている。サワキがその光景を目にしたとき、魔法の力で視界がいっぱいとなった。

 自身満々のサジフの瞳。オティの、サワキの目的と秘密を知りつつ、その上で裏をとる。完全に勝利を確信した者の顔だった。

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