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第一話 伴出、現る

 街をとぼとぼと制服の男が歩いている。なにも特徴はない。いや、特徴的な部分はあるが、あえて触れまい。

 「ん?」

 誰かに呼ばれた気がして男は立ち止まった。

 振り返ってみるが人影はない。

「たしかに、今……」

 道を少しもどり、路地裏の方を覗いてみる。すると、少し奥に店が見えた。占い屋台のようである。

「え? なに? 来い?」

 店の人が呼んでいるようだ。やたら声が小さい。

「なんだよ……」

 無視してもよかったのだが、なぜだが妙に気になり、男は路地裏へと入っていった。

 ゴミをよける。

 汚物をまたぐ。

 黒猫をさける。

 パイプをくぐる。

 そこまでしてでも行かねばならないという不思議な使命感があった。


「いらっしゃいませ」

 屋台から蚊の鳴くほどの声が聞こえた。女占い師がつぶやいたのだ。

「あの、えーと、ここは?」

 要領を得ない質問だが仕方がない。なにせ情報がないのだ。

「あなた、悩みがありますね?」

 占い師のしたりとした声。

「いやァ、まあ」

「どんな悩みです?」

「そりゃ、勉強とか将来とか」

「他には? そういう一般的な悩みではないものがおありでは?」

「んー、と言うと?」

「いやいや、あるでしょ? 自覚」

「はい? まったく心当たりないですけど」

「いやいや、いやいやいやいや!」

 占い師の声が大きくなり、身を乗り出す。

「ない、ですけど。一般的模範的学生ですので」

「ど、こ、が、よ! 鷹やん! 隠してるやん! 爪隠してるやん! 隠してるけどはみ出てるやん!」

「いや、一向にわからないですけど」



「いやいや!! ハゲとるがな!!! がな!!!!」



 ようやく占い師の声がはっきりと聞こえた。思った以上に若い。

 そして、彼女の発言こそ、この男、沢木(さわき)伴出(ばんで)最大の特徴である。

 サワキの頭部はおでこから頭頂部にかけての御御髪(おみぐし)が干ばつの危機だったのだ。

 なお、世界の森林面積は約40億ヘクタールだが、2000年から2010年まで間に年間1300万ヘクタールの森林が失われている。森林破壊は深刻である。


「待って! ちょっと待ってよ!」

 そして、この暴言を許すサワキではなかった。即座に踵を返す。

「ちょ、待てよ! 解決できるの! 私ならその悩み、解決できるの!」

 白い装束に赤みのかかった髪をした女占い師がなぜかキムタクの真似をしつつ取り繕う。

 サワキの足が止まった。 

「いま、なんと?」

「私ならばあなたの墾田(こんでん)を永年に私財に差し上げられると言ったのです!」

わなわなと体を震わせるサワキ。

「そう、緑化活動はまだ間に合うのです! あなたはまだグリーンジャイアントになれるのです! ホゥホゥホーウ!」

「父親の薄毛薬ナイショで使ってるの見て見ないフリされてるのにか! エロ本は机の上に出されるのにこっちはなんにも言われないんだぞ! 気づいてるはずなのに! ざけんな!」

「いやキレられても……それでね、私、異巫女(いみこ)っていうの」

「イミコ?」

 異巫女と名乗った女は大きく息をつき、いかにももったいぶってから言葉を吐いた。


「ええ。こことは違う世界……その名もダイ・アリイアから来た神の使いよ!」


ここにサワキの運命が動き出した。ただし、多分だがその運命は世界を左右したりはしないだろう。

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