捨てられた伯爵令嬢は、自由に生きることにした。
私はフォルモント伯爵家の四女で、上に二人の兄と一人の姉、そして下に妹と弟が一人ずついる。
でも実は、私は他の兄弟と母親が違うんだ。私の母親は、平民出身の冒険者だったらしい。
父は母を愛してはいたものの、身分の違いで正妻としては認められず――それでも諦められなかった末に、私が生まれたのだそうだ。
それで、そんな私の存在は、正妻となった貴族の姫君にしてみれば気に入らなかったらしい。
親のそういう感情は子供にも伝わって、見えない所で色々と嫌がらせを受けていた。
父がいない時に、私の食事だけスプーンやフォークがなかったり。描いていた絵を、絵の具でぐちゃぐちゃにされたり。殴られるとか、髪を引っ張られるとか、そういう事がなかったけれど、なかなか精神にくる嫌がらせをされていた。
そんな嫌がらせの末。三階にある部屋に閉じ込められた私は、何とか脱出しようと、窓から外に出た。
その時に、足を滑らせて落下し――――意識不明になった。
その間、私は夢を見ていた。
空には飛行機と言う鉄の鳥が飛び、人々は自動車という鉄の馬にのっている世界の夢だ。
こんな世界もあるのかと、私は遊んだり、学んだり、あちこち歩き回った。
全てが今まで生きてきた世界と違った。賑やかで、騒々しくて――もちろん嫌なこともあったけれど、日々が目まぐるしく動いて行く世界だ。
テレビ、という鉄の箱を使って見たアニメや、ゲーム機、という不思議な遊戯盤を使って遊ぶゲームも楽しかった。
正直、夢の世界が楽しくて、毎日が充実していて――――元の世界の事なんて、忘れそうになっていた時。
私の前に、全身が光っている少年が現れた。
「あらま、君、こっちの人じゃないね」
少年は目を瞬いて私を見て、そんな事を言った。そうしてポケットから手帳を取り出すと、パラパラとめくり、やがてある所で目を止めた。
手帳には『神様用、見ちゃダメ!』と書かれているのが妙に印象的だった。
「あー! あー! ごめんねごめんね! 君、アルティナだよね! 見つけたぁー良かったぁー! すぐに戻してあげるからね、ほんとごめんね! ごめんねぇ!」
少年は謝りながら、両手を振った。すると、楽しかった世界がモヤの向こうに消えて行く。
戻さなくても……なんて思った私の意識は、そのままスウ、と消えて行った。
次に私の意識が覚醒したのは、見慣れた現実の世界だった。
目が覚めた時にはがっかりしたが、それでも夢の内容は良く覚えている。楽しくて、ワクワクした夢だった。
私はそれを母に話したくて、部屋を出たのだが――――そこで私を見て「お嬢様が気が付かれた!」と驚くメイドから、母が亡くなっていた事を聞かされた。
何でも、私は半年も眠ったままだったらしい。
私が目覚めた事と連絡を受けた父は、直ぐに駆けつけてくれた。
涙を流しながら「良かった」と抱きしめてくれる父から、私は母の事を聞く。
母は、私が倒れた事と、家に迎え入れられたからの環境の違い、そして正妻や母を良く思わない者達からの嫌がらせのストレスの末、体調を崩して亡くなったらしい。
嘘だ、と思った。自分の目で見るまでは信じないと言った私を、父は母の墓の前に連れて行ってくれた。
屋敷から離れた、遠くの花園。そこにぽつんと母の名前が書かれた墓標が立てられている。言葉が出なかった。不思議と涙が出なかったのは、ショックが大きすぎたせいもあるのだと思う。
父に「母の形見」だと渡された母の手帳を握りしめ、私はしばらく呆然と、母の墓を見つめていた。
◇ ◇ ◇
それから、正妻からの嫌がらせは、私に全力で降りかかってきた。
今までは子供達からの嫌がらせだけだったが、それに輪を掛けて酷くなった。
だが私は夢の世界で、年単位でたっぷり過ごしたせいか、大分図太くなったと思う。夢の世界で学んだ『ビジネススマイル』とやらで、嫌がらせを全力でスルー。
まぁ、それでも受け切れないものもあったんだけどね。
正妻のやり方自体は、彼女の子供達と良く似ていたから、ああ血がつながっているなって別の意味で感心した。真似したくはないけれど。
母に対する正妻の嫌がらせは、私も何度も見て来た。そしてどうして母にやり返さないのか、と聞くと、
「まぁね、何だかんだで愛してたからねぇ。一発殴ってやりゃあ良かったんだろうけど、相手のフィールドでそれやったら負けっしょ」
と言っていた。父も良く、冒険者時代の母は格好良かったんだぞ、と言っていた。母が望んでいないなら、私も復讐なんて真似はしないと決めた。
とても格好良い母だった。子供心にも、父が母に惹かれた理由が良く分かったものだ。……まぁ、正直、父のどこに母が惹かれたのかは分からないけれど。
さてそんな父だが、母が亡くなってから輪を掛けて仕事に没頭するようになり、あまり家に戻らなくなった。
父は正妻が母にしていた事を知って、余計に愛想が尽きたらしい。……でも、この状況で私みたいな子供を一人置いておくのは無責任だとは思うよ。
その証拠に、本来受けさせて貰えるはずの教育もなくなった。父が私につけてくれた家庭教師を、正妻が勝手に解雇したらしい。一緒に、私の部屋の勉強用の本も捨てられた。
まぁ捨てられてから、こっそり拾って持ち帰って、勝手に勉強していたんだけど。ゴミ捨て場には新聞も捨てられていたので、せっかくなのでとこれも拝借した。
見つかると後が面倒だから、バレないように細工もばっちりしたけどね。
嫌がらせはされていたけれど、食事だけは一応、貰う事は出来た。私が死んで、父からこれ以上、悪く思われたくはないらしい。
「平民の子が、食べさせて貰えるだけありがたいと思いなさい」
なんて事を言われたけれど……まぁ、確かに自分で稼いだお金で貰っているものでもないので、しょうがない。
でも量がね、明らかに少なくて。お腹が鳴ると、兄弟たちに馬鹿にされるから、兄弟たちが来ない屋敷の端っこに、小さな畑を作る事にした。
大事なのは見つからない事、そして諦めない心である。
生で食べられる野菜をせっせと栽培していたら、使用人に見つかった。これは正妻にバラされるかな、と思っていたら逆で、彼女たちは私を不憫に思って、こっそり食べ物を持ってきてくれるようになった。正妻や、彼女の子供達に知られたら、大変なのに。
「私は大丈夫だから、そんな事しないでいいよ」
「私たちが大丈夫じゃないから、したいんですよ」
そう言って、少し涙ぐみながら頭を撫でてくれた。優しい人達だった。
彼女達は母の事も知っていて、それでも助ける事が出来なかった事を、謝ってくれた。
使用人と言う立場では、何かを言うのは難しいだろうし、もし機嫌を損ねたら命を奪われる可能性だってある。
だから出来ないのは、仕方のない事だ。それでも彼女達は、何度も何度も謝ってくれた。
……そんな事を言って貰えたのは、思って貰えたのは、初めてだった。
◇ ◇ ◇
そんな生活を続けて、私は十歳になった頃。私は家族ととある町へ行った。視察という名目の、家族旅行だ。
正妻の実家からの苦情で、父がしぶしぶ……と言った感じだったが、私は久しぶりに父と会えたので嬉しかった。
父の顔は大分やつれていて、目の下の隈が酷い。仕事はしているようだけど、健康的な生活をしているようには見えなかった。
……しかも、旅行の最中も、父親は仕事で呼び出され、不在となったのだ。父の体調も心配だが、それ以上にこの状況はまずい、と直感的に思っていた。
「今日は勉強のために、少し奥まで行きましょう」
そう言った正妻の顔は、今まで見た事のない類の笑顔を貼り付けていた。
……マズイ。これは絶対にマズイ奴だ。
そうは思ったが、前後左右を正妻と兄弟たちにガッチリ挟まれてしまったため、逃げるわけにもいかず。
そうして連れて行かれは先は――――歓楽街だった。
その街の歓楽街は、今まで見て来た屋敷や、その周辺の雰囲気とはだいぶ違う。
猥雑さ、というのだろうか。いかがわしいお店の看板も幾つか見えたが、いつか見た夢の世界と多少似たところもあったので、何となく懐かしさも感じていた。
―――――のだが。
それでというか、やはりというか。
私はその歓楽街に、物の見事に置き去りにされたのである。
急に馬車が止まったと思ったら、歓楽街の路地裏にポーン、とまるでゴミでも出すかのように捨てられたのだ。
その時の正妻と兄弟たちの笑顔ったらない。楽しくて、嬉しくて、たまらないという顔をしていた。
「お前のような子供は、汚い路地裏がお似合いよ」
「二度と貴族だなんて名乗るんじゃないぞ、薄汚い平民が」
そんな捨て台詞を残して、馬車は走り去っていった。
……いや、まぁ、うん。
嫌われているなとは思ったけれど、正直、そこまで憎まれているとは思わなかった。
ああ、しかし、でもどうしよう。歓楽街の路地裏に置き去りなんて、ずいぶん思い切りの良い事をされたものだ。
「うわーマジかー……」
夢の中で覚えた言葉が思わず口をついて出る。捨てられた事に、少なからずショックを受けた事に、さらにショックを受けた。
こんな場所に置き去りなのだ、彼女たちは私が売り飛ばされるか、口で言うには憚れるような目に合わされるか、死ぬかすれば良いと思ったのだろう。
父が知ったらどう思うか――――まぁ、仕事ばかりしているから、私がいない事に気付くのもいつになるかは分からないけれど。
◇ ◇ ◇
それから数日経ったが、運が良い事に私は、正妻たちが期待していたような事にはまだ会っていない。
歓楽街の路地裏なんて怖いイメージがあったが、思ったよりも人が来ない。誰かが来ても見つからないように隠れてやり過ごしていた。
屋敷で過ごした十年は、意外と無駄ではなかったようで。私は気配を察知するスキルと、身を隠すスキルだけは、しっかり磨かれている。
まぁ、でも、それだけだ。正直、私は少し舐めていた。幾ら見つからないように隠れても、腹はすくものだ。
……本当は、自分で学んだ事があれば、生きて行く事は何とかなると思っていた。
魚の釣り方、食べられる薬草――そういうのを自力で学んで、いつか一人で生きて行く時が来ても、大丈夫だと思っていたのだ。
でも本で学んだ事を実践するとなると、そう上手くはいかなかった。
人気のなくなった歓楽街の川で魚を取ろうとしても上手くいかず、食べられる薬草は街の外にしかなく。
――――私は初めて、ゴミ箱を漁って食べ物を探した。
包み紙の中に残ったパンや、野菜のクズ、ビンに入った僅かな飲み水。そういうのを飲んで生きながらえて、私は昔、正妻が言っていたように、食べさせて貰えるだけでありがたかったのだと、今になった自覚した。そしてどれだけ自分が恵まれた環境にいた事に気が付いた。
貴族だからと着させられた高い服は、気付けばボロボロで汚れている。
惨めとは思わなかった。ただただ自分が情けなくて、私はひくり、と喉を鳴らした。
お腹が空いた。体が痛い。食べていないから手も足も重い。
苦しいのか、悲しいのか、悔しいのか――――ただ辛い、という感情が喉の奥からこみあげてきて、気が付いたら私は嗚咽を上げていた。
目からはボロボロと涙が落ちる。身体は冷えているのに、顔だけが熱くて。呼吸がままならないくらい、私は泣いた。
泣いて、泣いて。どのくらい時間が経っただろう。
ようやく涙が止まった腫れぼったい目をこすりながら、川の水で顔を洗う。水面には、空に浮かんだ丸い月が映っていた。
「…………夢の中は、良かったなぁ」
そんな言葉が、口をついて出た。あちらの世界は楽しくて、もちろん嫌な事はあったけど、自由だった。
「…………自由?」
ふと、言葉に引っ掛かりを感じて、私は目を瞬く。そして口の中で、何度か『自由』と呟いてみた。
自由……自由か。そう言えば、今の状況もある意味自由と言えるのかもしれない。
今まで屋敷の中だけで生きて来たから、その中で自分なりに生きてきた。僅かな抜け目を探して自分の自由を手で掴んだ。
その時と比べると、今はどうだ。
今の私には何も制限はない。出来る事は限られているけれど――でも、屋敷の中にいた時のような息苦しいものは何もない。
これは――――もしかしたら、自由という奴なのだろうか。
食べ物もなくて、右も左も分からなくて、不安だらけだけど。分かっている不安より、分からない不安の方がマシだ。
初めて自分で選べる自由だ。死にさえしなければ、これは案外、悲観する事ではないのではなかろうか。
私は改めて、川に映った自分の顔を見る。
数日碌に食べていないからやつれているけれど、でも、まだ生きている。まだ死にそうな顔はしていない。
まだ私は、大丈夫だ。
そう思ったら、少し元気が出てきた私は、胸からお守り代わりに隠し持っていた母の手帳を取り出した。
何もかも取り上げられたけれど、これだけは絶対に渡すまいと、どんな時も持ち歩いていたものだ。
母は父と結婚する前は冒険者をやっていた。この手帳には、母が冒険者時代に書き溜めた色々が残っている。
手帳の表には、冒険者たちの紋章である『枝をくわえた鉄の鳥』が描かれていた。
『与えられるだけではなく、自らの手で掴みとり、そして与えよ』
その紋章には、そんな意味が込められているのだと、母に聞いた事がある。
私は、ずっと与えらればかりだった。だから今度は自分の手で掴んで、そしてそれを、誰かに分け与えられるようになろう。
あの屋敷で、使用人の皆が私に優しくしてくれたように。
「……よし!」
私はパン、と手で顔を叩き、気合を入れるた。
とにかく、やってみよう。
◇ ◇ ◇
心機一転、気持ちを新たにした私は、その翌、これからの事を考えた。
まず必要なのは食事と、お金、それから身だしなみを整える事である。人は中身だと言うけれど、第一印象だって大事なのだ。
まずは服を売って、古着を買おう。結構汚れているけれど、素材自体は良い物だし……洗えば何とかなると思う。
ただ川の水で洗って、乾くまで下着、というのも風邪を引きそうだったので、私はそのまま古着屋を探した。
路地裏からあまり出たことがなかったので分からなかったが、昼間の歓楽街は夜に見た時とは違って、普通の町に見えた。
何だか新鮮で、ついついあちこちに目が映る。ついでにあちこちから美味しそうな香りも漂って来て、お腹を刺激された。
「…………そう言えば、お腹すいたなぁ」
服を買い取って貰えたら、古着を買って、それからまずご飯を食べよう。
そう思いながら歩いていると、視線を感じた。ふと見れば、近くを歩く冒険者たちや町の人から、注目を浴びている……ような気がする。
何だろう、と思って、気が付いた。
……そりゃあ確かに、薄汚れているけれど高そうな服を着た子供が、町を歩いていたら気になるよね。アンバランスさ、というか。
周りから私はどう映っているのか、少し心配になった。
貴族の子供――――には見えないと思う。ならば何だろう、どこかから逃げ出した子供とか、もしくは盗んだ服を来た泥棒……?
いや、いやいや、だんだんと考えが悪い方へ悪い方へと変化している。
とりあえず早く古着屋を探して着替えを手に入れよう。そう思って速度を上げて速足で歩き出した。
――――のだが。
速度を上げて間もなく、私の前を塞ぐように、強面のお兄さんたちが現れた。
お兄さんたちはジロジロと私を見下ろしながら、
「おい、そんなナリで何してんだい、お嬢ちゃんよ」
なんて声を掛けてた。ひく、と私は自分の顔が引きつるのを感じた。
これは、まずい。まずい気がする。もしかしたら私は売り飛ばされるかもしれない。
そんな風に思って、応えられずにいると、
「ばっかイーグル、お前、何怖がらせてんだよ!」
と、お兄さんの一人が、私に話しかけてきたお兄さんの頭をゴツンと叩いた。
イーグルと呼ばれたお兄さんは、不満そうな顔で、
「はあ!? 別に怖がらせてねーだろ!? ……ねぇよな?」
なんて私に聞いてくる。……ごめんなさい、怖かったです。
「あーあー、ほらお前、顔怖ぇんだからよ。見ろよ、涙目になってんじゃん。ごめんね、お嬢ちゃん」
「…………悪かったよ」
イーグルさんはムッとした顔のまま、そう謝ってくれた。
……あれ? もしかして、見た目ほど怖い人たちじゃない……?
「あの、いえ、私こそごめんなさい。びっくりしただけです」
「そ、そう? それならいいんだけど……」
私が頭を下げると、イーグルさんは目を瞬いて、指で頬をかいた。すると幾分表情が柔らかくなる。
「お嬢ちゃん、こんな所で何してんだ? 迷子か?」
「えっと……私、服を買い取ってくれるところを、探していたんです」
迷子、と言われると迷子かもしれないが、そこは明確に答えずに私はそう言った。嘘は吐いていない。
するとイーグルさんは腕を組んで、考えるように少し首を傾げた。
「服かぁ……服なら、メルベイユの道具屋でいいんじゃないか?」
「あー、そうだな。あそこなら買い取ってくれるんじゃね?」
おお、どうやら服を買い取ってくれるお店があるらしい。
目的の店があると分かった私は嬉しくなって、
「あの! その店はどこにありますか? 私、服を買い取ってもらって、服を買いたいんです」
と拳を握ってそう言った。言っている事がめちゃくちゃに聞こえるかもしれないが、本気である。
お兄さんたちは目を瞬くと「それなら――」と方角を指差そうとしてくれた。
その時、
――――ぐう。
……唐突に、私にお腹が鳴った。
やけに大きく鳴ってしまったお腹を、私は慌てて手で押さえる。
まともに食べていないところに、美味しそうな香りだ。私のお腹は正直であった。
カーッと顔が熱くなっていると、イーグルさんたちは噴き出す。あう、笑われているぅ……。
「まぁ、先に飯じゃね?」
「あ、あははは……いえ、あの、手持ちがないので、まずは服を売ります」
私がそう言うと、イーグルさんは「いやいや」と手を振った。
「飯だろ。一食くらいおごってやるよ」
「えっ、いえ、あの、そういうわけには……」
「子供は素直に受け取っとけ。まぁ、気になるっつーんなら、服を売った後に払ってくれれば良いからさ」
な、とイーグルさんは言う。
いいのだろうか、と私が思案していると、ひょいと問答無用で脇に抱えられた。
慌ててジタバタと暴れてみるが、私程度の力ではびくともしない。
「はーい、飯屋に一名様ごあんなーい」
そう言って、私は食堂に運ばれた。
◇ ◇ ◇
連れていかれたのは、昔ながらという言葉が相応しいような、落ち着いた場所だった。
『ガスパーの酒場』と外に看板に書いてあるのが見えた。
酒場とは書いてあるものの、昼間は普通の食堂らしい。時間が早いので、まだまだお客さん少ないが、店自体は開いているようだった。
「あら何よイーグル、早いじゃない」
私たちを見つけると、ウェイトレスのお姉さんが近づいてきた。そして私を見て目を丸くする。
「どうしたのこの子? もしかしてあんた達の誰かの……」
「違うから。何か通りで腹を空かせていたから、連れてきた」
「あら、そうなの。こんにちは、お嬢ちゃん。お名前は?」
ウェイトレスのお姉さんは、イーグルさんの脇に抱えた私に視線を合わせると、にこりと微笑む。
綺麗なお姉さんに微笑まれると、ドキドキしてくるね。
「アルティナと言います」
「そう、アルティナちゃんね。あたしはマリー、ここのウェイトレスよ。アルティナちゃん、ご飯何が食べたい?」
「その……高くないのをお願いします」
私がそう言うと、マリーさんは目を瞬いて、イーグルさんを見上げる。
「って言っているけれど、どうなのかしらイーグル?」
「小さいのに、ずいぶん遠慮するんだよな。まー適当に、色々出しちゃって。俺たちも食べるしさ」
「分かったわ。それじゃあ、アルティナちゃん、待っていてね」
マリーさんは私に頭を撫でると、厨房の方へと向かって行った。
私がその後ろ姿を見ていると、そのままイーグルさんに運ばれて、席に座らせられる。
……あ、椅子とか、テーブルとか綺麗だな。私、こんな格好だけど、お店を汚してしまわないだろうか。
そんな事を思っていたが、マリーさんもイーグルさんたちも気にしていない様子だ。
……いいのかな?
「そう言えばアルティナ――――だっけ? お前、何でそんなにボロボロなんだ?」
おおう、確信が来た。何でって聞かれて、話ちゃっても大丈夫なのかな?
イーグルさんだけじゃなく、他のお兄さんもじっと私を見ている。
……う、ううん、とりあえず、当たり障りなく答えよう。
「えっと、その……この間、捨てられまして」
「は?」
イーグルさんたちの目が点になる。
分かる、分かるよ、意味が分からないよね。自分の事だけど、私も最初、戸惑ったもの。
「捨てられたって……親にか?」
「はい。と言っても、継母、ですけれど」
正直、正妻を一度も母と思った事はないし、同居人のような感覚であったけれど。
母が亡くなってからは、そう手続きをされた。なので書類上は、私はあの人の子供になっている。
私が捨てられたと聞いたイーグルさんの目は、同情するようなものに変わった。
「そうか……酷ぇ目にあったなぁ」
そう言って、イーグルさんは私の頭を撫でてくれた。
その手が屋敷の使用人の皆の手の優しさと似ていて、少しだけ寂しくなる。
……あの人たちは大丈夫だっただろうか。
「……継母かぁ。そう言えば、アルティナちゃん、見たところは薄汚れてっけど、良い服着てるよなぁ」
「一応、それなりに裕福でした」
貴族だからね。そこまで話しても良いか迷ったけれど、何となく大丈夫そうな気がしたので、私は答える。
するとお兄さんたちが、
「マジで、身代金請求しちゃえる?」
なんて、冗談めかして言った。たぶん、私を励まそうとした言葉だろう。
私は思わず笑ってしまった。
「いえ、ビタ一文出さないんじゃないですかね」
「えぇ……マジかよ……ところでビタイチモンって何」
「お前に出す金はねぇって奴ですかね」
「えぇ……マジかよ……」
私がそう返すと、逆にお兄さんたちがショックを受けた顔になった。
……あ、しまった。軽い感じで返そうと思ったら、選んだ話題がまずかったみたい。
申し訳ない事をしたと思っているとイーグルさんが、
「っていうか、払わなくても払えるだけの金はあるんだな」
と空気を変えるように言ってくれた。
私が「そうですね」と頷くと、イーグルさんはびしり、立てた指を私の鼻先に突きつける。
「お前、それ他所では言うなよ。ガチで攫われるぞ」
「でもビタ一文出ませんよ、身代金」
「出ないと死ぬコースじゃねぇか」
「それは勘弁して欲しいです」
「ならホイホイそんな話するんじゃないぞ」
……聞いたくせに。
でも確かに、ホイホイする話ではないよね。
「……まぁ、で、俺らは話さねぇけどよ。ちなみに興味本位で聞くけど、どこ生まれ?」
「身代金は出ませんし、死ぬのは嫌です」
「しねぇし、させねぇよ。一応元締めとも付き合い長ぇから、その辺りは注意しといてやる」
「マジですか」
「マジだ」
何だかお世話になりっぱなしだなぁ。
そんな事を思っていると、イーグルさんは周りのお客さんを見回して、
「おーい、てめーら、こいつに何かしたら元締めに言って、傭兵雇って追いかけまわすからな!」
と言ってくれた。周りのお客さんも「ひでぇ」とは言っているものの、顔は笑っている。
イーグルさんも言った後はニッと笑いかけているし、どうやらそう言う事をする人たちではないって信用しているみたいだ。
……歓楽街には怖いイメージがあったけど、ここは案外、そうでもないのかもしれない。
「で? 聞いてもいいか?」
「あ、はい。私はフォルモント伯爵家の四女です」
「ブフォ!」
正直に答えたら、イーグルさん達が揃って噴いた。ついでに周りのお客さんもである。
私が目を丸くしていると、イーグルさんは袖で口元を拭う。
「いや、いやいやいや、フォルモント伯爵家ってお前……」
「まぁ、証明するものは特にございやせんが」
「その口調からして信じられんわ」
呆れ顔のお兄さんたちに曖昧に笑い返していると、ふとイーグルさんが何かを考えている事に気が付く。
「…………お前、さっき継母がどうのって言っていたよな?」
「はい」
「フォルモント伯爵家で、継母で……あれ? いや、待て。待て待て、それじゃお前の母親は?」
「元々平民です。冒険者だったらしいんですが、それで正妻親子とあまり折り合いが良くなくて」
「冒険者?」
イーグルさんがポカンとした顔になる。もしかしたら、冒険者っていう所を疑っているのかな。
そう思って、私は懐から母の手帳を取り出し、見せた。
「あ、あった。これですこれ。母の手帳です」
「この手帳……ちなみに、母ちゃんの名前は?」
「フォルティナです」
「《蒼月》のフォルティナか!」
イーグルさんがガタン、と席を立ってそう言った。何だか格好良い二つ名が来たぞ。
母の二つ名は知らないけど、フォルティナ、という名前は合っている。
「母をご存じなんですか?」
「ご存じも何も……何度か仕事を一緒にした事はあったけどよ」
それから、イーグルさんは力が抜けたように椅子に座り込んだ。
「はぁ……言われて見れば確かに、顔立ちが似てるわ。髪の色はあのクソヤロウのだけどよ」
「え、マジか、フォルティナ姉さんの子供か」
「フォルティナ姉さんがいるのに、何で子供が捨てられてるの」
「母は死にました」
「は?」
「え?」
ぎょっとした顔のイーグルさんたちに、私は母の事を話す。
貴族である父と惹かれあって結婚した事。でも平民であったため、正妻としては迎え入れられなかった事。正妻親子との折り合いが悪くて嫌がらせをされていた事。そして――――その結果、体調を崩して亡くなった事。
長い話になった。
話しているうちに、食事を持ってきてくれたマリーさんも加わって、気が付いたら皆が大泣きしていた。
「うおおおおおお姉さああああああああん!」
「ふざけんじゃねぇぇぇぇぇ!」
「くっそあのやろぉぉぉぉぉぉちゃんと娘守れよぉぉぉぉぉぉ!」
イーグルさんやマリーさんたちは、どうやら母の知り合いだったようだ。
皆が母のために、そして私のために泣いてくれている。
優しいなぁ……なんて思っていたら、気が付いたら私の目からも涙が落ちてきた。
皆が泣いてくれるから、私もつられて泣けて来たのだ。
苦しくて泣いていた昨日とは違う。
ああ、これは――――私は、嬉しいんだ。
「よし、お前、ここで暮らせ!」
「空き家あったよな?」
「ああ、夜逃げした奴の家あるぞ!」
泣きやんだころ、イーグルさんたちはそんな事を言った。
一部不穏な言葉が聞こえたが、だが、嬉しい。
「それじゃ、家賃が安い方で……」
「家賃なんていらねぇよ」
「お言葉に甘えたいのですが、お言葉に甘えたらダメになりそうなので、そこはとってください。あ、でも、あの、今持ちあわせがほとんどないので、支払いは少し待って頂けると」
そこはきっちりしないとだ。自分が与えられてばかりだったから、それではダメだと気付いたばかりだもの。
だからそう言ったのだけど、何故かまたぶわっと泣かれてしまった。
「じゃあ家賃はそのままな、ゆっくりでいいから払ってくれ」
おお……住む場所まで。私は「ありがとうございます!」とお礼を言った。すると、しばらく黙っていたお腹が、ぐう、と鳴る。
それを皮切りに皆が笑い出した。
…………何だか最後はちょっと恥ずかしかったけど、本当にこの町、優しい人ばかりなんだな。
◇ ◇ ◇
そうして住む場所も出来て、服も手に入れて、少し落ち着いた頃。
私はイーグルさんたちのすすめで、歓楽街の元締めさんを訪ねた。
元締めさんも母の事を知っていて、イーグルさんから私の事情も聞いているようだった。
困った事があれば相談してくれ、とありがたいお言葉を頂いたので、
「どこかで働けませんか?」
と私は聞いた。すると元締めさんからは、簡単な仕事を幾つか回して貰える事になった。
古着を売って少し残ったお金と合わせれば、少しずつだけど家賃を払えるよになったので嬉しい。
イーグルさんやマリーさんたちに助けて貰ってばかりで、まだまだ全然だけど、何とかやっていけそうな気がする。
――――そう思っていた矢先。
フォルモント伯爵である父が、町に来たと元締めさんから連絡があった。
何でも、泣きながら自分を探しているところを、不審に思った町の人たちに保護されたらしい。
父よ……何をやっているんだ……。
「どうする? 会いたくねぇなら、そのまま追い返すぞ」
「あ、いえ……父は、私を捨てたわけではない、と思いますので。一度会ってみます」
元締めさんや、イーグルさんたちはあまり良い顔はしなかった。
母の話をした時に泣いて怒ってくれたあたり、たぶん父に対する憤りが強いのだろう。
……だけど、一度はちゃんと、話をしなければ。私も父の事は嫌いではないから。
そうしてイーグルさんたちに連れられていったのは、ガスパーの酒場だった。
父の前には、フライパンを持って仁王立ちしているマリーさんの姿があった。
……ま、マリーさん、顔が怖い……。あんなに怒っているマリーさんを見るのは初めてだ。
恐る恐る私が近づくと、足音に気が付いて、父がこちらを見た。
「アルティナ!」
父は目をこれでもかというくらい見開いて、私の方へ駆け寄ってくる。そして思い切り抱きしめられた。
こういう風に抱きしめられるの、そう言えば半年くらい目が覚めなかった時以来だなぁ。
そんな事をぼんやりと思った。
「ああ、アルティナ、すまなかった。本当に、すまなかった……! 私がいなかったばかりに、お前に辛い思いを……!」
父は泣きながら私にそう謝ってくれた。
久しぶりに見る父は、前よりも痩せ細って見えた。げっそり、という言葉が相応しいくらいに。
「すまなかった。もうお前に辛い思いはさせない。だから私と一緒に家に帰ろう、アルティナ」
父はそう言って、私の肩に手を置いた。
家に、帰る。……また、あの人達がいる家に、帰らなければならないの?
そう思って、私は一瞬、固まった。
するとそれが伝わったのだろう、イーグルさんとマリーさんが、怖い顔で父から私を引き離した。
「な、何をするんだ!」
「お前、ふざけるんじゃねぇぞ。誰のせいでこうなったって思ってんだ!」
ぶるぶると怒りに震えながら、イーグルさんはそう言ってくれた。
マリーさんも頷いて、父の鼻先にフライパンを突き出す。
「そうよ。そもそも帰るって言ったって、あんたの正妻さんとやらは、どうしたのよ」
「そ、それは……」
父は言い淀んだ。イーグルさんとマリーさんの目がつり上がる。
……ああ、うん、この調子だと家にいるんだろうなぁ。
私が嫌だな、と思っていると、後ろの扉から元締めさんが遅れて入って来た。
「お前ら、少し落ち着け」
「だがよ、元締め!」
「いいから。……お初にお目りかかります、フォルモント伯爵。この町の元締めをやっております、ランドルフと申します」
元締めさんはそう言うと、父に向かって頭を下げた。
「お子さんを心配する気持ちは、痛いほど分かります。けれどね、連れ帰るにしたって、そいつはちょっと順序が違うでしょう」
「順序……?」
「アルティナは、伯爵の奥様によって、この町に置き去りにされました。その奥様がいらっしゃる屋敷へ戻れと言うのならば、また同じことが起こるかもしれない。今度はもっと、酷い事になるかもしれません」
元締めさんは静かにそう話す。父は――――だんだんと、悲しそうに眉毛が下がって来た。
「私としましては、何も変化が無い状態で帰すというのは、認めたくなりません。ですが、これはアルティナの問題です。ですからまず、アルティナの意見を聞いてやったらどうでしょう」
そう言うと、元締めさんは私を見た。
選べ、と言っているのだろう。決して強制的ではなく、私の意志を尊重してくれる元締めさんの優しさが嬉しかった。
イーグルさんやマリーさん、そして父の視線が集まる。皆それぞれに、私の事を心配してくれているというのが痛いほど分かった。
この町で、本当に私は――幸運だったと思う。
私は唇を湿らせると、父を見上げた。父は何か言いたげだったが、私の言葉を待ってくれている。
自分で自由に生きようと、決めたのだ。だから――何を言うのも自由で、それは私の責任。
「父様」
「ああ」
「私は、この町にいたいです。この町の方々が迷惑でなければ、ここで過ごしたいです」
そしてそう言った。
父は苦しそうな顔で目を閉じて、イーグルさんやマリーさんたちの顔がホッとしたものになる。
言った。言ってしまった。言ってスッキリした気持ちと同時に、心が痛く感じる。だが、言ったのは私だ。決めたのも、私だ。
「父様、私は父様の事が好きです。正直に言うと、母様が父様のどこに惹かれたのかは、今も分かりません。でも――――私は母様を愛してくれている、父様が好きです」
途中、酷い事を言っている自覚はあった。だが嘘ではない。全部、本当に思っている事だ。
でも、今言わなければきっと、もう二度と言う機会などないだうから、私は言葉を止めるつもりはない。
「でも――――ごめんなさい。私は、あの家には戻りたくありません」
私がそう言うと、父は目を開けた。そしてボロボロと涙をこぼす。
……父は、こんなに涙もろい人だったんだな。そして、きっとたぶん――――そんなに強くない人。そしてとても優しい人だ。
私は母を強くて格好良い人だと思っていたけれど、でも――だからきっと、母は父を好きになったんだろうな、と思った。
「…………分かった。お前がそう言うならば、もう、無理には言わない」
父はそう言うと、ためらいがちに私の頬に手を伸ばした。ほっそりとした手から、じわりと熱が伝わってくる。
「でも……でも、もし。もし……戻りたい、と思ったら」
そこまで言いかけて、父は首を横に振る。
そして再び私を見た目は、前より少しだけ、力が籠っているように見えた。
「戻りたいと思えるように、出来たら。――――そうしたら、もう一度、会いに来ても良いかい?」
そしてそう言った。
……本当に?
もう二度と会えない覚悟で言ったから、父の言葉や予想外だった。
私が思わず頷こうとすると、
「せめて正妻親子を何とかしろ」
と、イーグルさんが割って入って来た。
「大体、あんたが好きでもないのに体裁気にして結婚したんでしょ。子供たくさん作っといて、そりゃないわよ」
マリーさんからは大分、生々しいお話が出た。
元締めさんが「子供の前でするなよ」何て呟いている。
だが最初の頃に比べると、幾分、皆の雰囲気が和らいでいるように思えた。
「……よく、分かっています」
父はマリーさんの言葉に頷くと、そのまま深く頭を下げた。
イーグルさんやマリーさん、元締めさんまでぎょっと驚いた顔になる。
貴族から頭を下げられるなんて、思わなかったのだろう。
だが父はそんな事など気にせず、
「どうか娘を――――アルティナを、よろしくお願いします」
と、言ってくれた。
……父様。
父の言葉に、元締めさんはしっかり頷くと、
「ええ、もちろんです」
と答えてくれた。
父はその言葉を聞くと顔を上げ、それから私の頭を遠慮がちに撫でると、名残惜しそうにガスパーの酒場を出て行った。
その背中を見送っていると、
「…………アルティナ。本当に、良かったんだな?」
と、イーグルさんが声を掛けてくれた。心配そうな眼差しに、私は頷く。
「はい。……私、母さんみたいになりたいって、決めたんです。このまま屋敷に戻ったら、そうなれないって分かったから。だから、私はここにいます。……ここにいて良いですか?」
私がそう聞くと、イーグルさんも、マリーさんも、元締めさんも、皆笑って頷いてくれた。
良かった。……良かった、私、ここにいて良いって。
そう言って貰えた事が嬉しくて、視界がぼやけ出す。ああ、本当に、優しい人ばかりだ。
そう考えて、私は思い出した。屋敷の使用人の皆の事だ。
使用人の皆が元気でいるか、聞くのを忘れていた。
ど、どうしよう。今から追いかけて聞いたら、おかしいかな? 空気読めって言われるかな?
「どうした?」
私があたふたし始めると、何事かとイーグルさんが首を傾げた。
「いえ、あの、屋敷で良くしてくれた使用人の皆の事を聞き忘れまして」
「……………」
私がそう言うと、イーグルさんたちは目を瞬く。
それから直ぐに、ふっと笑い出した。わ、笑う所ではないと思う。
「別に、良いんじゃね? 今から追いかけて聞けばさ」
「い、良いのかな……」
「良んじゃないの。伯爵様、未練たらたらだったし……追いかけたら喜ぶと思うわよ」
「いや待てよマリー。そうしたらそのまま連れて行かれるかもしれねーだろ」
「なら一緒に行けばいいじゃないの。連れていかれそうになったら、ぶっ飛ばしてやればいいのよ」
そう言うと、マリーさんは私の手を取った。
私が見上げると、マリーさんはニコッと笑う。気が付けば「あーもー」とイーグルさんも隣に経つ。
いいのかな、と思って、元締めさんを振り返ると、
「おう、行って来い。飯までには戻れよ」
と言ってくれた。
……良いみたい。
何だかまた嬉しくなって、顔が自然と笑顔になる。
私は元締めさんたちに「行ってきます!」と手を振って、マリーさんとイーグルさんと一緒に走り出したのだった。




