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聖女様を甘やかしたい! ただし勇者、お前はダメだ  作者: 戸津 秋太
三章 勇者の過去と強まる想い

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八十一話 ギリアンの思惑

 当人の人となりはどうあれ、魔獣を倒して回る勇者ギリアンには人望が集まる。

 ましてこの自警団に所属する者たちは、武勇に自信を持ち、そしてその力をこのネスト村で暮らす人たちを守るために使おうというのだから、当然その筆頭であるギリアンに対しては崇拝にも近い敬意を抱いている。


 そんなギリアンが割って入ってきたかと思えば、一見なんの力もなさそうに見えるベイルと相対していたゴルドに「お前では勝てない」と言ったのだから当然彼らの間で困惑が湧き上がる。


 ゴルドは自警団の中でも上位に位置する武勇の持ち主。

 少人数での探索の際は、必ずリーダーになるほどの男だ。

 そしてそのことはギリアンも知っているはず。


 ゴルドは一瞬面食らったように固まってから、苦笑交じりに片手を竦めるようにしてあげた。


「ギリアン様、突然何を仰います。俺が戦いも知らないようなこんな男に負けると? ははっ、あなたらしくない冗談だ」

「僕の言葉が冗談だと思っているうちは、真実のままだろうよ。いいから下がっておきたまえ。彼らは僕が呼んだんだ」

「っ、ギリアン様が……?」


 ギリアンの言葉でゴルドの脳裏に先ほどのベイルの言葉が蘇った。

 すなわち、ギリアンなら自分たちのことを知っているという発言。


 そんなわけがないと一蹴したが、他でもないギリアン自身がそれが事実であると言ってのけた。

 一体どういう関係なのか。


 ゴルドは彼の言葉に従って一歩下がりながらも、鋭い眼光をベイルに向ける。

 一方、ギリアンはベイルたちに話しかけた。


「すまないな、待たせてしまったようだ」

「……その割には楽しそうだな。てっきり、俺たちのことは周知されていると思っていたんだが」


 愉悦した笑みを浮かべるギリアンを、ベイルは半眼で睨み付ける。


「ネスト村の団員は他の自警団と比べても数が多くてね。どうやらまだ上の人間にしか話が通っていないようだ。入団試験を受けていればそういうことも起こらないが。とはいえ、この僕が推薦したんだ。君たちは晴れて自警団の仲間入りだとも、安心してくれていい」

「……そうは見えないけどな」


 面白がっているギリアンに対して、ベイルは周囲をチラッと見やって渋面を作る。

 ギリアンの話を聞いてもなお、自警団員たちは疑惑の視線を向けている。


 彼らの心境はよくわかる。


 一見戦えそうに見えない者たちが、なぜか勇者ギリアンの推薦を得て自警団に入ったのだから。

 外部の人間であるベイルでも容易に想像できたのだ。

 ギリアンであれば、なおのこと。


 事実、彼はこの光景を予期していたかのように飄々とした態度で周囲を見渡し、とってつけたようにゴルドをジロリと睨む。


「僕の推薦を信じられないのかな?」

「っ、そういう問題ではありません。いくらギリアン様のご紹介といえど、団員になったからにはこの先共に魔獣討伐に赴くこともあります。その時に、こんな素性も実力も知らない者たちに背中を預けられないと言っているのです」


 ゴルドの言葉に、団員たちも頷いてみせる。

 中にはただ単にギリアンと親しげに話すベイルたちを疎んでいるだけの者もいるだろうが、ともかくこの場ではゴルドの言葉が団員たちの総意だ。


 ギリアンは「ふむ、君たちの話にも一理ある」とわざとらしく同意して見せた後、顎に手を添えて何かを考える振りをし始めた。

 そうして、あらかじめ用意していたかのようにすんなりと提案して見せた。


「では、こうしよう――」


     ◆


「一体どういうつもりだ」


 ギリアンの提案を自警団の面々は受け入れる形となり、その準備を行っている間、ベイルは一人でいるギリアンに責めるように問い詰めた。

 それを、ギリアンは涼しい顔で受け流す。


「どういうつもりとは?」

「とぼけるな。あんたならこうなることは予想できたはずだ。それを避けることも」

「無論、予想はできたとも。しかし、回避はできなかったな。ここは良くも悪くも力が求められる。そういう場所では口で言うよりも力を示す方が手っ取り早い。そうだろう? むしろ、そういう機会を円滑に設けたことに感謝してほしいものだ」

「…………」


 ギリアンの言に、ベイルは押し黙る。


 ギリアンの提案とは、今からベイルたちに入団試験を受けさせるというもの。

 彼の推薦によってベイルたちの自警団への加入は確定しているものの、団員たちに納得させるためには同じく入団試験をこなすのがいいだろうというものだ。


 そしてその入団試験とは、団員と一対一で決闘を行うというもの。

 勝敗は合否に関係なく、ただ使えると思われれば合格となる。

 無論、非戦闘要員であるルナは彼女の癒やしの力を実際に使うことが求められる。


 とはいえ、ギリアンの話を聞いてもベイルの中でいまだ納得できないことがあった。


「……それなら、あらかじめ入団試験を行うように手配してくれればよかったんじゃないのか」

「その通りだな。だが、僕が何も手配しておかなかったことで、君にとってメリットが生まれたじゃないか」

「メリット?」

「そうとも。団員たちの注目を集められた。これで君が試験においてその力を示せば、稀人たる彼女への関心もいくらか分散されるんじゃないかい?」

「まさか、そのために……」


 ベイルは目を見開いた。


 確かに、この村での生活を始めてからベイルが懸念していたことは、村人たちの関心を一身に浴びてルナが負担に思ってしまうことだ。

 優しい彼女のことだから彼女自身はそれを負担だとは思わないだろうが、とはいえ精神的な負担は本人の自覚の有無にかかわらず生じてしまう。


 ……ギリアンの言うように、団員たちの関心が一挙に集まったこの状況で自分が団員を圧倒すれば、あるいはルナの負担を減らすことに繋がるかもしれない。


「すまなかった」


 冷静に考えれば、ギリアンの提案はベイルにとって有り難いものだった。

 そうとも知らず責めてしまったことを謝罪する。


 その謝罪を、ギリアンは大仰な態度で受け取った後、ニッと口角を上げた。


「ということで、だ。君の相手はこの僕がしてあげよう。光栄に思うといい」

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