七十八話 水着選び
翌日。陽が天上に昇りきるよりも少し早い時間に海まで来たベイルたちは目的の人物を探していた。
その目的の人物とは、言わずもがなギリアンのことである。
砂浜で何やらワイワイとパラソルを設置したりしている集団が見える。
その中に、ギリアンの姿があった。
「早いな、約束の時間にはまだあるだろ」
ザッザッと砂を踏みしめながら近付いたベイルはギリアンに声をかける。
彼のことだ、待たせると怒り出すかもしれないとベイルたちは時間に余裕を持って来たのだ。
ベイルの声に顔を上げたギリアンは、にやりと笑みを浮かべた。
「君たちが海が初めてと言うからな。色々と準備しておこうと思ったのさ」
「――――」
照り付ける秋の陽光のせいかいつも以上に輝いて見えるギリアンに、ベイルは小さく頭を下げる。
少し遅れて二人の元に辿り着いたルナとティアは、それぞれギリアンたちに挨拶を交わした後、ルナは周りをキョロキョロと見回した。
「皆さん、一体何の準備をされているんですか?」
「秋とはいえ、日差しはいまだに強いからな。日除けの傘を差したりしているんだよ。……それよりも、君たちは一度あそこに行って水着を借りてくるといい」
「水着、ですか」
「昨日ベイルが言っていた、水に入っても濡れない服のことだよ。まぁ、些か誇張はあるが」
ギリアンが指差した方には一軒の木造の建物がある。
看板には、『海の家』と刻まれている。
ひとまず、ギリアンの指示通りベイルたちはその海の家へと向かった。
◆ ◆
「聖女様たち、大丈夫だろうか……」
いつも着ている服とは少し違った感触の水着に身を包んだベイルは、海の家の外でルナたちが戻るのを待っていた。
今のベイルの装いは、黒を基調とした水着に紺色のラッシュパーカーを羽織っている。
こうしてルナを待っている間も、海の家から続々と水着に着替えた男女が出てくる。
中には露出の高い装いをした女性もいて、妙にドギマギしてしまう。
(聖女様があんな水着を着て来たら絶対に着替えさせよう)
密かな決意を胸にしながらもう少しの間待っていると、背後から声がかけられた。
「ベイル」
「ティア……」
振り返ると、そこには少し恥ずかしそうにこちらを見上げてくるティアの姿があった。
赤を基調とした花柄の入ったワンピース型の水着は、彼女の華奢で小柄な体躯を浮かび上がらせる。
水着とは対照的に揺れる彼女の青い髪が、とても映えて見えた。
「な、何……?」
黙って見つめていたからか、ティアが身動ぎをしながらか細い声を発した。
慌ててベイルも口を開く。
「すごく似合ってるぞ。自分で選んだのか?」
「ううん、店員の人があなたはこれがいいって」
「そうか」
ティアの水着姿にドギマギしていると言うわけではないが、いつもと装いの違う彼女に何を話せばいいのかわからず、自然と口数が減ってしまう。
ティアはティアで、いつもの彼女らしくない。
「ん、そういえば聖女様は?」
「更衣室は一緒にでたよ。……あ、いた」
ティアが見ている方に視線を向けると、海の家の扉に体を隠して、顔だけをこちらに覗かせているルナの姿があった。
いつも被っているフードがないのが、とても新鮮に見える。
「聖女様、どうかされましたか?」
一向にこちらに来ようとせず、口元をギュッと引き結んでいるルナに、ベイルは首を傾げながら問いかける。
それでも、「そ、そのぅ……」とハッキリしない態度でその場を動こうとしないルナに業を煮やしたのか、ティアが「ここまで来てうじうじしないっ」と早足で駆け寄った。
「っ、ティ、ティアさん!?」
ティアに腕を掴まれ、引っ張り出される。
神官として鍛えているティアの腕力に抗えるはずもなく、まもなくルナの体がベイルの前へと晒された。
「――――」
思わず、言葉を失った。
フリルをあしらった白ビキニが覆う体躯は豊かに実り、女性らしい艶やかさと幼さが同居して変な危うさがある。
青色のパレオからは一切日に焼けていないしなやかな白い脚が伸びている。
何より、髪をポニーテールに結んでいるためか、ルナの顔が普段以上にハッキリと見える。
「べ、ベイルくん……?」
もじもじと身をよじったせいで、予想よりも大きな双丘の存在がより強調される。
このまま見続けるとやばいと、ベイルはなんとか顔を逸らした。
「……ベイル、私の時と反応が違う」
ティアが不満げな声を上げた。
うるさいと内心で思いながら、熱くなった顔を手で覆う。
そして、困惑した様子で不安げに小首を傾げているルナに今一度視線を戻した。
「……っ、これ、着てください。あまり陽に体を晒しすぎると良くないですから」
急いでラッシュパーカーを脱ぎ、少し乱暴にルナに手渡す。
当惑して手元でパーカーを弄ぶルナに背を向けて、ベイルは大きく息を吐き出した。
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現代ラブコメです。
よろしくお願いします。
【タイトル】彼氏ができた初恋の幼馴染の妹が最近やたら絡んでくる。
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