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聖女様を甘やかしたい! ただし勇者、お前はダメだ  作者: 戸津 秋太
三章 勇者の過去と強まる想い

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七十六話 散策

 それぞれの部屋を決め、ダイニングで残りの保存食を昼食代わりに摂ったベイルたちは、早速ネスト村を散策すべく家の外へと繰り出していた。


 北部一体を囲うように山脈が広がり、そして南部には海が広がっている。

 村自体は楕円形に広がっており、ベイルたちに与えられた家は丁度その中心辺りに位置する。


 数年前に盗賊団の襲撃を受け壊滅的な被害を受けたネスト村だが、その家屋がすべて倒壊したわけではない。

 ネスト村の中心部には、斑ではあるものの襲撃を乗り越えていまだ存在する古い建物や広場などもある。

 昔からこの村に住んでいる人たちが多い区画らしく、自分たちがこの場所に馴染めるだろうかという一抹の不満がベイルの中で湧き上がる。


 それは、右隣に並んで歩くルナも同じだったらしい。


 キョロキョロと辺りを見渡して、親しげに会話している村人たちを見て不安げにポツリと零した。


「……皆さんと仲良くなれるでしょうか」


 フードを目深に被り直したルナに、ベイルはふぅと表情を緩める。


「聖女様なら大丈夫ですよ。ノーティス村でも、そうだったでしょう?」


 村に移住してから一年も経たないうちに、ルナは村にとって欠かせない存在になっていた。

 それは彼女の得意な力――異能の影響も大きいが、何よりも彼女の優しい心根が村人たちにも伝わったからだろう。


 彼女を嫌う人間がいるとは、ベイルにはとても思えない。


 そうは言ってもルナはまだ不安らしく、「だといいんですが……」と小さく呟く。

 そんな彼女に、ベイルは真っ直ぐ言い放った。


「大丈夫です。何があっても、俺がついていますから」

「……っ、はい!」


 ベイルの言葉にパッと顔を上げたルナは一瞬驚いたような表情を浮かべてから、満面の笑顔を咲かせた。


「――!」


 あらん限りの笑顔を間近で向けられたベイルは、一瞬にして顔が熱くなるのを覚えた。

 口元を抑えて、ルナから顔を背ける。


 その先――左隣に並び、ジト目でこちらを見上げていたティアと視線があった。


「……なんだ」



 自分の心の内が見透かされたような感覚を覚えて、ベイルは照れ隠しとして無愛想に声を発する。

「別に。……ベイルって、変なところで大胆だなって思っただけ。ううん、大胆って言うよりも、バカなだけなのかも」

「どうしていきなりバカにされないといけないんだ」

「それがわからないから、ベイルはバカなんだよ」

「……?」


 ティアの言っていることの意味がわからずに、ベイルは眉根を寄せた。


 ともかくとして、新天地に来たばかりでルナも、もちろんティアだって不安なはずだ。

 自分が不安になっている場合ではないと、気を引き締める。


 北の方へ抜けると、そこは露店や出店で賑わっていた。

 山を越えて届いた食品や日用品、雑貨などが売られていて、とても活気づいている。

 近く、ここに色々と買い出しに来ようとベイルたちは心に決める。


 そのまま西の方へ向かうと、ここは丁度拡張されているエリアらしく、木材を肩に担いだ大工たちが忙しなく行き交い、骨組みが露出した家々が立ち並んでいる。

 今からこの村に移住する人たちの大半は、恐らくこの辺りに居を構えることになるだろう。


「ギリアンさんはここを辺境の地とおっしゃっていましたけど、凄く活気づいていますね」


 中央へ戻り、東の区画を目指しながら、ルナはどこか圧倒された様子で話す。

 それに、ベイルは頷き返した。


「この辺りは山が多くて、人が住めるような平地が少ないですからね。自然と人が集まるんでしょう」

「勇者ギリアンの故郷って言うのも影響しているのかも。ほら」


 会話に入りながら、ティアは前方を指差した。

 見ると、そこは筋骨隆々とした体躯の持ち主が幾人も集まっている。


 そこは丁度、中央区画から外れた、東側。

 物の行き来が盛んだった北側や大工や職人たちが集い、新たな建物を建築していた西側と違い、この東側には戦士らしき者らが集まっている様子だ。

 そして彼らが取り囲んでいるのは――鈍色の鎧を纏ったギリアンだった。


 少しの間、離れたところから彼らを眺めていると、不意にギリアンがこちらに気付いたらしく、取り囲む戦士たちに一言二言言葉を交わしてからベイルたちの下へと歩み寄ってきた。


「見たところ、村を散策しているといったところかな?」

「ああ。……あんたは何をしているんだ?」

「この辺りは自警団の詰め所があってね。僕もこの村にいる間は一応その団員の一人だから、顔を出していたわけだ」

「なるほど、通りでたくましい人たちが集まっているわけだ」


 戦士たちも、自警団の団員、もしくは志願者といったところか。


 勇者ギリアンの話は国中に、いや、世界中に広まっている。

 そんな彼が現れたとしたら、まして武に携わる者からすれば握手ぐらい交わしたくなるだろう。


「まったく、人気者は辛いものだね」


 金色の髪を軽く払いながら、とても辛そうには見えない態度でギリアンが言ってのける。

 そういえばこういう人間だったなと、今更ながらに思い出した。


「……ふむ。ところで君たちは、もう村は回り終えたのかな?」

「海の方にはまだ言っていないんです。これから向かおうと思っていて」


 ルナが答えると、ギリアンは「海か……」と噛みしめるように呟くと、僅かに目を細め、視線を海がある方へと向ける。

 ここからは建物に遮られて見えない海を、しかしギリアンは少しの間そうして眺めると、ベイルたちの方へ向き直った。


「よし、僕も同伴するとしよう」

7月26日発売の月刊コンプエース9月号から、「聖女様を甘やかしたい!」のコミカライズ連載がスタートされる運びとなりました!

是非是非、お手に取ってみてください。

詳細は活動報告をご覧くださいませ。


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