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聖女様を甘やかしたい! ただし勇者、お前はダメだ  作者: 戸津 秋太
二章 剥奪と離反

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六十九話 互いの関係

「私が、そんなことを……?」


 信じられないといった様子で、ルナは首を傾げた。


 あれからベイルはフレディとの戦いの最中に自分たちの身に起こったことを説明した。

 すなわち、フレディの凶刃を防ぐ光が自分たちを包み込んだこと。

 そしてその光が、恐らくはルナ様の力であるということ。


 半信半疑のルナに、ベイルは再度確認する。


「本当に何も覚えていないんですか?」

「……はい。確かに私は、ベイルくんの傷を治そうと力を使いました。ですが、傷が深すぎて私の力では治らなくて。……覚えているのはそこまでです」

「…………」


 ルナの返答に、ベイルは顎に手を当てて考えこむ。


 あの場には自分とフレディと、そしてルナしかいなかった。

 深手を負って意識を失っていたベイルや、フレディがあの力を行使したとは考えにくい。


 その結果として、消去法であの力はルナの本来の力が引き出されたものと捉えていた。

 だが、もしかしたらそれは勘違いなのでは?


(いや、それはないか)


 自分の傷が治っていたことも考えると、やはりあの不思議な力はルナのものであると考えるのが自然だ。

 問題はその力がどういうものなのかだが、術者自身がその記憶をなくしているのでは調べようがない。


 ベイルがそんなことを考えていると、ルナは自分の手をボーッと見つめながら「そうですか。私に、そんな力が……」と呟いていた。


「嬉しいです」

「嬉しい、ですか?」


 突然のルナの言葉に、思わずベイルは聞き返していた。

 ルナはにこやかな表情で頷く。


「はい。私はベイルくんに守ってもらってばかりなので、ベイルくんを守ることができてよかったです。……でも、私は力を使ったことも、その使い方も覚えていないんですけどね」


 舌をチロッとだけ出して、これじゃあ意味がないですよねとルナは苦笑する。

 少し悔しそうに笑いながらそう話すルナを、ベイルは複雑な面持ちで見つめる。


 真実を知ったルナが自分のことを失望するやもしれないとベイルは思っていた。

 それは仕方ないと、守り切ることができなかった自分の落ち度だと覚悟していた。


 けれど、返ってきた言葉はやはり彼女らしい、優しいもので。

 そのことが、何よりもベイルの胸を締め付ける。


 暗いベイルの表情に、ルナは微笑しながらそっと彼の手の上に自分の手を乗せた。


「ベイルくん。優しいベイルくんのことですから、今ベイルくんが何を考えているのか、なんとなくわかります」

「……俺は、聖女様を必ず守ると誓いました。聖女様はそれを、信じてくれたのに。俺は……ッ」


 ギリアンが言ったように、結果的にはルナを守り切ることができたのだろう。


 しかし、ルナの力がなければ今の結果には辿り着かなかった。

 あの草原でベイルは無様に死に、そしてルナはフレディによって神殿へ連れ戻される。


 ギリアンは結果が全てだと言った。

 確かにその通りだ。


 自分は結果として、ルナを守り切ることはできなかったのだから。


 いつの間にか気を抜いてしまっていたのだろう。

 この平穏な日常に慣れ親しみすぎたせいで。


 優しいルナのことだ。そんなことは気にしないかもしれない。

 けれどベイルにとっては許しがたいことだ。

 ルナに合わせる顔がないと思うほどに。


 いつの間にか俯いていたベイルの耳に、「ベイルくん」と優しい声が響き渡る。


「私はベイルくんなら守ってくれると信じて神殿を出ることを決めたわけではありませんよ」

「……?」

「確かに、以前に湖の畔でそんなことを話はしました。ベイルくんなら私を守ってくれると。……でも、ティアさんと出会って気付いたんです。ただ守られるだけだとダメだって」


 ルナの声音に、徐々に強さが宿る。芯のある、強い声だ。


「私は、ベイルくんと一緒だから神殿を出ることにしたんです。だから、私にもベイルくんを守らせてください。もし本当に、私にそんな力が宿っているのなら。……私は、ベイルくんと支え合える関係になりたいと思っています」

「聖女様……」


 ルナの言葉、一言一言が胸の中に入り込んでくる。

 うっかり、何もかもを忘れて甘えてしまいそうになる。


「それに、ベイルくんは私を守ってくれました。ベイルくんの言いつけを勝手に破って現れた私を、大怪我を負ってまで庇って……。だから、ベイルくんは自分を責める必要なんてないんです。いいえ、むしろ私の方が責められるべきなんです。私があの場に行かなければ、ベイルくんは何も気にせずに戦えたんですから」

「聖女様は悪くないです。あそこにフレディが現れることなんて、想像できないですからっ」

「なら、ベイルくんも自分を責めないでください。でないと私、きっと自分を許せなくなります」

「…………」


 爛々と光る碧眼が、ジッとこちらを見据えてくる。

 その視線を真正面から受け止めて、ベイルはやがて「わかりました」と言っていた。


「あー、いい雰囲気の所悪いんだが、少しいいかい?」

「――ッ」


 いつの間にか開かれていたドアの外に立つギリアンが、わざとらしく咳払いをしてから二人に声を掛けてきた。


 ベイルたちはビクッと肩をふるわせると、居住まいを正しながらギリアンの方を見る。

 ギリアンは二人の用意が整ったことを確認すると、ティアを引き連れて室内へ足を踏み入れた。

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