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聖女様を甘やかしたい! ただし勇者、お前はダメだ  作者: 戸津 秋太
二章 剥奪と離反

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六十七話 話したいこと

 突然現れたギリアン一行と共に村に戻り、ルナとティアをそれぞれの部屋のベッドに寝かせた後、ベイルたちは応接室にて対面していた。


「改めて、ティアを助けてくれたこと、本当に感謝する」


 ソファに腰を落ち着かせてすぐに、ベイルはギリアンに向けて頭を下げた。


 山の中で下級神官たちに襲われていたティアの顛末に関しては、教会に戻るまでの間に一通り話は聞いている。

 ギリアンがいなければ、ティアは助からなかっただろう。


 ベイルの謝意に、しかしギリアンは首を横に振った。


「先ほども言っただろう。下級神官(あれ)を倒したのはそれが僕の任務だったからだと。そしてあの青髪の少女を助けたのは、彼女が無抵抗だったからだ。君に感謝されるいわれはない」

「それでも、だ」


 沈痛な面持ちで呟くベイルに、ギリアンはため息を零す。


「ひどい面だ。まぁ、僕が言えた義理ではないが」


 ふっと自嘲の笑みを刻むギリアン。

 以前北部の山脈に巣くう魔獣を討伐した折りに、仲間を助けようとした挙げ句に自分が魔獣の手にかかったことを思い出した。


「君の戦いを一から見ていたわけではないから何があったのかは知らないが、彼女――ルナが気を失っていたことからおおよその見当はつく。だが、結果的に君たちは助かったんだ。むしろ誇っていいと思うがね」

「そういう問題じゃない」

「……そういう問題だよ。過程がどうあれ、結果が全てだ。取り返しのつかない結果出ないだけ、君は僕よりも幾分かマシだ」


 そういえば、と。

 ギリアンの言葉を聞いて、彼がかつて口にした独白をベイルは思い出していた。


 自分にとってのルナと同じように、ギリアンにもかつて、他の何を犠牲にしてでも守りたいという存在がいた。

 しかし、守れなかった。


 その結果と比べると、確かに今の自分の後悔は些細なことなのかもしれない。


「……ああ、そうだな」


 だから、ベイルは小さく頷いていた。

 これ以上彼の前で後悔しているのは、ギリアンに対する侮辱のように感じられたから。


 そんなベイルに、ギリアンはふっと表情を和らげた。

 慈愛と、そして憐憫に満ちた眼差しを向ける。


「さて、本題に入ろう」


 急にギリアンの声に重みが増し、ベイルは全身に僅かに緊張を奔らせる。

 彼のいう本題が何か、なんとなく察しがついている。


「ティアのことか」


 共和国の勇者であるギリアンにとって、教皇国の神官は敵だ。

 そしてギリアンがティアを発見した時、彼女は神官服を身に纏っていた。

 であれば、彼がティアの身柄を求めるのは当然のことだ。


 果たして、ギリアンは曖昧な表情で僅かに顎を引く。


「それもある。だが、それは本題ではない。……ああ折角だ、そちらから話そう。知っての通り、僕の任務は共和国に不当に侵入した者の拿捕、もしくは排除だ」


 ベイルは頷く。

 その話はすでに聞いている。


 だからこそ、ギリアンは教皇国の神官であるティアの身柄を求めるはずだ。

 そう確信していたからこそ、ギリアンが次に放った言葉にベイルは呆気にとられた。


「……だがまあ、肝心の侵入者は全て(・・)殺してしまった。教皇国に関する情報を聞き出せればよかったのだが、仕方ない」

「っ、ギリアン、それは……ッ」


 身を乗り出したベイルを、ギリアンは手で制す。


「一つだけ忠告しておくとしよう。ベイル、人一人が守れるものはたかがしれている。守るものを増やせば増やすほどに、失うものも多くなる。……それを、忘れないことだな」

「……ああ」


 ギリアンの言葉が、痛いほど胸に刺さる。

 そのことを、ベイルは今し方痛感したばかりだった。


 だから――。


 長い沈黙の後、不意にギリアンは天井を仰いだ。


「ところで、君たちのことだが――」


 ◆ ◆


 一日が、あっという間だった気がする。

 気付けば窓の外の空は赤くなっていた。


 ベイルは視線を窓の外から、再び目の前のベッドへ戻す。

 すー、すーと、ルナが規則正しい寝息を発しながら眠っていた。


 ギリアンとの話を終えてから、ベイルはずっとルナの傍らに付き添っている。


 その時、部屋のドアがゆっくりと開かれた。

 視線を向けると、そこには体の至る所が包帯で巻かれたティアの姿があった。


「ティア、起きたのかっ。体は大丈夫か?」

「……うん」


 ガタリと椅子を半ば蹴飛ばすようにして立ち上がったベイルに反して、ティアはばつが悪そうに顔を伏せた。

 ベイルを騙して密かに神殿に帰ろうとした挙げ句、その道中で下級神官たちに負けたことを気にしているのだろう。


「私、その……」


 何かを言おうとして、しかし言葉が出ずに黙り込む。

 そんなティアに、ベイルは表情を緩め、努めて優しい声音で話す。


「お前の気持ちは嬉しい。だが、お前を犠牲にして送る生活を聖女様は絶対に喜ばない。……俺もな」

「……うん」


 申し訳なさそうに、けれど嬉しそうにティアは頬を緩めた。

 それからすぐにベッドの上で眠るルナを見る。


「ルナは?」

「今までも、怪我人の治療を多く受け持った日は疲労で眠ることがあったからな。……たぶん、力を使いすぎただけだろう」

「そう、よかった」


 そこで会話が途切れる。


 ベイルにしてもティアにしても、話すことはまだある。

 けれど、ルナが眠っている状況で話し出せるものでもなかった。


 ベイルは逡巡し、そしてギュッと拳を握り、ティアの目を真っ直ぐに見つめた。


「聖女様が起きたら話したいことがある」

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