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聖女様を甘やかしたい! ただし勇者、お前はダメだ  作者: 戸津 秋太
二章 剥奪と離反

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六十六話 限界

 ベイルとフレディ、二人が肉薄するよりも先に、互いが放った神技が激突する。


 鎖や槍、そして剣を象った神技の激突は、先ほどまでは拮抗したものだった。

 しかし今、ベイルの神技がフレディのそれを圧倒していた。


「クソォッ!!」


 悔し紛れに当たり散らすのはフレディだ。

 自分の放った神技はベイルの神技によって撃ち落とされ、逆にベイルの放った神技を撃ち落とせずにいる。


 互いに特級神官。

 第一天神官(ヴィロン)第六天神官(マコン)


 多少の力量差はあれど、手も足も出ないほどの差はない。

 事実、先ほどまでとは互いの神技が拮抗し、決め手に欠けていた。


 それが、何故。


「ちぃっ――!」


 必死にベイルの放った神技を躱しながら、フレディは周囲に視線をやる。

 そしてその眼差しが一点を捉える。


 気を失ったまま地面に横たわっているルナだ。


 力量に明確な差が生じてしまった以上、認めたくは無いがフレディの勝算は彼女の存在以外にない。

 現に先ほども失敗に終わったとはいえベイルに致命傷を与えるに至った。


 今度こそ――。


「させるかっ」

「……ッ」


 ルナの下へ向かおうとしたフレディの前に、立ちはだかるようにベイルが割って入る。

 振り下ろされた剣に一瞬反応が遅れ、フレディの右腕を浅く掠めた。


 傷口を押さえながら忌々しげに顔を歪めて哮る。


「お前ぇ! 力を隠していやがったな! 舐めた真似しやがって……!」

「隠してなんかいない。あの状況で隠している理由なんてないだろ」

「んなわけがあるかぁ! だったら何故俺の神技が通用しないッ!」

「……さあな」


 激昂するフレディの問いに、ベイルは無愛想に返す。


 心当たりがないというわけではない。

 しかしそれをわざわざ教えてやるほど、ベイルは優しくはなかった。


「くそがぁ!」


 力任せに膨大な数の神技を放つフレディ。

 並の人間であれば、それこそ下級神官が相手であれば数で押し切ることのできるその攻撃を、しかしベイルは迎撃しきる。


 神技は無尽蔵に使えるものでは決してない。

 個人によって神技単体の強さや使える量に違いがあるからこそ、神官の間には階級というものが存在している。

 そして戦いが始まってからというもの、フレディは圧倒的な物量でねじ伏せようと全力で神技を放ち続けている。


 ならば、当然限界が訪れる。

 それが今というだけの話だ。


 特級神官であったフレディには自身の神技が防がれ続けるという経験が不足している。

 対してそのことを知るベイルは最初から殆ど防戦に徹している。


 加えて、――ルナの力。


 意識を失っていた間にベイルが負った傷の一切が消えていたのみならず、気力も体力も万全のものになっていた。

 つまり、フレディの戦闘による疲労も疲弊もなかったことになっているのだ。


「くそっ、くそっ、くそぉおおお!! 何故この俺が、お前なんかにぃ!!」


 罵詈雑言を浴びせながらも、フレディはどうにかベイルの攻撃を逃れ、ルナを盾にしようと動き回る。

 だが、ベイルがその行く手を阻む。


 力量では完全にベイルに軍配があがるが、先ほどまでとは違い今度はフレディが逃げに徹している分、またしても決め手に欠ける。


「おい、なんだ逃げるのかぁ!」


 空での戦闘をやめ、フレディと距離を取るように地面に降り立ったベイル。

 そんなベイルを挑発するようにフレディが叫ぶが、ベイルは「いや」と短く否定する。


「折角教えてもらったんだ、使わせてもらわないとな」


 言いながら、地面に手を触れる。

 ベイルの手の先に溢れた白い光が地中に溶けて消えたかと思うと、次の瞬間に地面が音を立てて変貌する。


 まるで獣の牙のように、空に漂うフレディへ向けて襲いかかった。


「喰らうかよぉ!!」


 対してフレディもそれに対抗する。

 大気を万象支配により掌握し、襲い来る土の牙に向けて放つ。


 端から見れば生き物のように動く土の山が、しかし見えない何かによって押し潰されているかのような異様な光景。


 大気と大地の激突の拮抗状態はすぐに崩れ、土の濁流がフレディを飲み込む。

 フレディを捉えた土はそのまま地面へと強引に引き寄せる。


 中でもがいているのか、ところどころに綻びが生まれるが、周囲を漂う土が補強する。

 直後には、元の平坦な地面へと戻っていた。


 ゆっくりと体を起こし、フレディが生き埋めとなった地面をジッと見つめる。

 そこに油断はない。


 この程度ではまだ(・・)死ぬはずがないと、ベイルは確信していた。


「うごぁあああああッッッ!!」


 その予感通り、突如地面が舞い上がり、その中から土塗れのフレディが姿を現す。

 両肩を激しく上下させ、息苦しそうに呼吸するフレディはベイルの姿を捉えて叫んだ。


「舐めるなぁ! この神技を知ったのは俺の方が先なんだ! 今日まで辺境で女欲しさに戦いを放棄したお前なんかに負けて堪るかぁ!!」

「いいや、もう終わりだ」


 地を蹴る。

 上空でこちらを見下ろすフレディの胸元に、一瞬で飛び込む。


「――はぁ!? おい、どうして……!」


 ベイルの剣を防ごうと、当然フレディも神技を発動する。

 が、右手の剣は生み出してすぐに宙に溶けるように消え、同時に神技によって宙に浮いていたフレディの体が重力に引かれて落下していく。


 がら空きの胸に剣の切っ先を向けながら、ベイルは冷厳とした声音で呟いた。


「神に見放されたな」

「ベイルゥゥッッッ――!!!!!」


 呪詛のようなフレディの叫びは、心臓を貫かれると同時に消え去る。

 貫いた白剣を引き抜くと、フレディの体は今度こそ地面へと落ちていった。


 ドシャリという音。

 最早ピクリとも動かない肉塊を見下ろしてから、ベイルは剣を消し、慌ててルナの下へと飛翔する。


「……よかった、怪我はない」


 ルナをそっと抱き起こし、怪我がないことと息をしていることを確認し、ベイルはホッと表情を緩める。

 しかしすぐに引き締めると焦燥の声を零した。


「急いでティアを助けないと」


 望みは薄い。

 神技を失った少女が長時間生き延びられるほど、神官は甘くない。


 だが、それでも諦めるわけにはいかない。


「どうやら、決着がついたようだね」

「ッ、どうしてあんたがここに、――ティア!?」


 遠くから声がして、ベイルは慌ててそちらを見る。

 そこには鈍色の鎧を纏う勇者と、そして、彼の背後に控える男に背負われるティアの姿があった。

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