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聖女様を甘やかしたい! ただし勇者、お前はダメだ  作者: 戸津 秋太
二章 剥奪と離反

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六十五話 二度目のチャンス

「……?」


 全身を包む温もりに、ベイルの意識は蘇った。


 気を失う直前に腹部に奔っていた激痛の一切が消えていることを不思議に思いながら、ゆっくりと目を開く。

 開かれた視界に飛び込んできたのは、純白だった。


 ――ルナの髪だ。


 意識がはっきりするにつれて、彼女が自分に覆い被さっていることに気付く。


「聖女、様……?」


 恐る恐る声をかけるのと、周りの状況に意識が及ぶのは殆ど同じだった。


「なんだ、これは……ッ」


 暖かな光がベイルとルナを覆うように、球状に宙を舞っている。

 その光の向こう側で、フレディがこちらに剣を振り下ろしている。


「――!」


 思考が一気にクリアになる。

 意識を失っているルナを抱きかかえたまま、ベイルはフレディを睨む。


「おい、なんだよこれぇっ!!!」


 しかしフレディはベイルが意識を取り戻したことに気付く様子もなく、何度も剣を打ち付ける。

 だが、何度繰り返しても白剣は光に阻まれている。


 いや、正確には剣が光を貫いたかと思えば、その直後には剣が光の壁の外側へと押し戻されている。


「っ、傷が……」


 不意に自分の体を見ると、先ほどフレディによって貫かれたはずの胸には一切の傷がない。


 それだけじゃない。

 いやに体が軽い。

 体力も気力も、全てが充溢している。


「――ッ! ベイル、お前何をしたぁぁあああ!! こんな神技、俺は知らない!!!」


 ようやくベイルに気付いたフレディが吠える。

 だが、ベイルは何もしていない。


 考えられるとすれば――。


(聖女様の、力……?)


 ルナの力は傷を癒やすものであり、他者の攻撃を防ぐような防御能力はない。

 稀人が有する力は先天的なもので、後に新たな力に目覚めるなどという事例は一切ない。


 ……だが、ごく稀に先天的に有している力のごく僅かしか扱えておらず、後に正しい力の使い方を知ることはある。

 あるいはルナの場合、それに該当するやもしれない。


 彼女の真の力がどういうものであるのか、この状況を前にしてもベイルには予想がつかない。


 一つだけ確かなことは、フレディの攻撃はどうあがいてもルナたちには届かない。

 届かなかったことになっている。


「くそ、くそっ、くそおおおおお!!!!」


 最早泣きじゃくる子どものように乱暴に剣を振り下ろしてくるフレディ。

 しかし何度繰り返しても、剣が光を貫いたと思うと同時に剣が外にはじき出されている。


 大怪我を一瞬にして治し、さらには敵の攻撃を防ぐこの力は一体……?


(いや、今はそんなことを考えている場合じゃないな)


 ベイルが体内を巡る力に意識を向けると同時に、周囲を舞っていた光がおさまる。

 どうやら力が切れたらしい。


 その光景にフレディは再びその相貌に笑みを宿すと、白剣を上段に構えた。


「ハッ、驚かせやがって!! さっさと消えやがれぇ!! ――ッ!」


 ルナを抱きかかえて無防備なベイルへ向けて、フレディが剣を振り下ろす。

 が、その途中でいきなり背後へと跳躍した。


「ちっ」


 ベイルが小さく舌打ちを零す。


 見ると、フレディが立っていた地面から幾本もの白く光る槍が突き出していた。

 油断しきった今の状況ならば仕留められると思っていたが、流石にそこまでは甘くないらしい。


 突き出した槍の山を見て、フレディは眉間に皺を寄せる。


「おいおい、さっきまで死に体だった奴が粋がるんじゃねえぞ。まさか傷が治ったから勝てるとでも思ってんじゃねえだろうな。勘違いするなよ、状況は何も変わってねえ。お前はその荷物を抱えて俺とやりあわねえといけねえんだぜ」


 ルナを守りながら戦って、俺に勝てるわけがないと、フレディが告げる。

 結局先ほどと同じことの繰り返しだと。


「黙れよ」

「……っ」


 ベイルの口からこぼれ落ちた声は、とてつもなく低かった。

 ルナを自身の上着で包み、そっと地面に寝かせながらベイルはゆらりと立ち上がる。


 ベイルから放たれる雰囲気が先ほどまでとは比べものにならないほどに鋭い。

 思わず、フレディは一歩後ずさっていた。


(……腹が立つ)


 ベイルの胸中で、どす黒い激情が渦を巻いている。


 腹が立つ。

 ルナを殺そうとした目の前の男に。


 何より、ルナを守り切れなかった自分自身に、――腹が立つ。

 ルナの力がなければ自分はあのままフレディに殺され、そしてルナは教皇国に連れ戻されていただろう。


 ――ふざけるな。


 何が彼女を守るだ。

 いくらルナが現れることを予想できなかったとしても、それでも守り抜かなければならなかった。


 二度は無い。

 本来であれば一度すら無く、しかしルナに貰った二度目のチャンス。


 状況はフレディの言うとおり、確かに厳しい。

 後ろにルナがいることに変わりはなく、しかも今度は気を失っている。


 だが、もう二度と繰り返すわけにはいかない。


「――殺してやる」


 ひどく底冷えした眼差し。

 それを受けたフレディはごくりと喉を鳴らし、そしてすぐにハッと笑みを刻む。


 自分が今完全に怯んでしまっていた事実を消し飛ばすかのように、声を振り立てた。


「調子に乗ってんじゃねぇ!!」


 互いに地を蹴る。

 踏み出した瞬間に超速に達した二人の剣戟は、大気を戦慄かせた。

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