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聖女様を甘やかしたい! ただし勇者、お前はダメだ  作者: 戸津 秋太
二章 剥奪と離反

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六十三話 万象支配

「……ベイルくん」


 しんと静まりかえった礼拝堂を、ルナの呟きが反響した。

 ティアを連れ戻すために出て行ったベイルを見送ったルナは礼拝堂の長椅子に腰掛け、帰りを待っていた。


 急いで連れ戻そうとベイルに告げたルナは、自身もまたティアの捜索を始めようとした。

 しかし、途中で倒れてはことだからと教会に留まるようにベイルに言われてしまったのだ。


 確かにそう言われては返す言葉も無いが、一刻を争うという時に一人留守番というのも落ち着かない。

 というよりも、今となっては遅れてでもついていった方がよかったのではとも思っている。


「ベイルくんはいつも一人で行ってしまうんですから……」


 唇を尖らせながら呟く。

 勿論彼が自分のことを気遣ってくれていることはわかるが、とはいえ不満でも言わないと落ち着かない。


 暫くベイルの悪口を呟きながら足をプラプラとしていたルナだったが、やがて疲れたように長椅子に横になった。


 なんだかんだであまり眠れていない。

 とはいえ、ベイル一人で探しに行かせている間に自分が寝るのは申し訳なくて出来ないし、何より二人が心配だ。


 ボーッと礼拝堂のステンドグラスを眺める。


「っ、今のは……?」


 不意に、嫌な予感が全身を駆け巡り、ルナは反射的に上体を起こしていた。

 気のせいと思うにはハッキリとした何かが、警鐘を鳴らしていた。


「もしかして、ベイルくんに何か……?」


 そんな可能性が脳裏をよぎった瞬間には、ルナは教会を飛び出していた。


 ◆ ◆


「……ふんっ」


 黄金の剣に胸を貫かれ、絶命した下級神官たちを見下ろしながら、ギリアンは心底不快そうに鼻を鳴らした。


 そのまま気を失って倒れているティアに近付くと、口元に手をかざす。

 僅かに息があることを確認しているギリアンの背後から声が掛けられた。


「お見事です、ギリアン様」


 山の中一体に散らばっていたギリアンの仲間たちだ。

 その声にギリアンは首を振りながら返す。


「褒められるほどのことじゃない。こいつらに、そんな価値はなかった」

「いかがいたしましょう」

「ひとまず、急いでノーティス村に向かうとしよう。聞くところによると、第六天神官(マコン)が一足先に向かったらしい。……でもまあ、あそこには彼がいるから心配は無用だろうがね」

「その少女はいかがいたします? 見たところ、仲間のようですが」


 ティアを見つめながら、男が問う。

 ギリアンはしばし悩む素振りを見せると、立ち上がりながら言った。


「重要な捕虜だ。丁重に扱え」

「はっ」


 命令し終えたギリアンはノーティス村が位置する方向を見つめながら、目を細め、僅かに口の端を吊り上げた。


「それにしても、ここまで場所を特定されたということか。……さて、君はどこまで守り切れるかな」


 ◆ ◆


 フレディの繰り出した謎の神技によって地中に閉じ込められたベイルは、なんとか自身の神技によって周囲に空間を作り出していた。


 自身を取り囲むように白剣を展開し、襲い来る土の濁流を押しとどめる。

 一進一退を繰り返しながら、ベイルは焦りを覚えていた。


 まだ地上ではフレディの哄笑が聞こえるが、いつルナのもとへ向かうかわからない。

 それまでに一刻も早く地上へ抜け出さなければならない。


 創世神と接続することによって使える超常の力、神技。

 それらはこれまで、無いものを生み出すものや、聖域(サンクチュアリ)のように、現象や物体を拒むことで一切を排除する絶対領域を創り出すようなものでしかない。


 しかし今、フレディはそのいずれとも違う現象を引き起こした。


 地面に直接干渉し、地割れを起こし、敵を生き埋めにする神技。

 少なくともそんな神技をベイルは知らない。


 だが、フレディの言うとおり自分が辺境の地で神技の研鑽を怠っている間に神殿の人間は日々神技の研究に勤しんでいたのだろう。

 そして、フレディはその上で勝ちを確信している。


 当然だ。新たに生み出された神技というのはそう簡単に会得できるものではない。

 新たな神技は戦いの中で偶発的に生み出されることもあるが、大抵は教皇が神官たちに教え授けるものだ。


 だが――。


「地面を操る、か」


 ポツリと呟いて、ベイルは目を閉じた。


 出来るはずだ。

 フレディが出来たのだから。


 襲い来る土の濁流に手を添える。

 思い描くのは、自分が地面を意のままに操る姿。

 ベイルの体から光が溢れ出し、暗い地中を照らす。


 そして、


「ハァァァアアアアッッ!!!」


 ベイルの叫び声に呼応するかのように、地面が再びうねり出す。

 ベイルを生き埋めにせんと襲い来るのでは無く、その逆、ベイルを地表へ解放せんと。


 一筋の光が差し込み、それは徐々に確かなものとなっていく。

 開かれた穴へ向けてベイルは飛翔した。


「……! バカな!」


 外の眩しさに目を細めるベイルをよそに、仰天するフレディの声。


 ベイルが地中を抜き出すと、土は重力に引かれて地面へと戻っていく。

 草花が吹き飛び、土色となった地面にベイルは着地した。


「どういうことだ……! この辺境の地で暮らしていたお前が、どうしてこの技を使える!」

「この技?」

「万象支配だ! この技は、半年前に教皇様から授かったばかり! 少なくともお前は知らないはずだ! なのにどうして……!」


 狂ったように頭を掻き乱すフレディに、ベイルは言葉を返す。


「万象支配なんて大層な名前は知らないが、俺はお前よりも神技について知っている。ただそれだけのことだ」

「……ッ!」


 歯を食いしばり、睨み付けてくるフレディ。

 だが、不意にきょとんとした表情を浮かべると、ニヤリと表情を歪める。


 彼の視線が自分ではなく、その後ろを捉えていることに気付き、ベイルはちらりと背後に視線をやった。


「……! 聖女様!?」


 その視線の先。

 二人がいる場所からは遠く離れた、しかし肉眼で補足できる場所に、息を荒らげて肩を上下させるルナの姿があった。

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