語彙放棄
憩いの浜辺を失った僕等は
緩やかな憧憬に身を委ねる場所もなく
困惑の砂粒の中に
懊悩の砂粒の中に
悲嘆の砂粒の中に
埋もれているよ
美しい言葉さえ冒されてしまう
鋭い鉛色の理性によって
研ぎ澄まされた白刃によって
恍惚と愛情で絡みついた『こころ』が
膾のように刻まれてしまうよ
この体
解体されてしまうよ
僕等の言葉が陳腐になったのは
いつからだろう
僕等は尖って痛い砂粒の中
逃れ難い苦しみの中にいるよ
逃げるように生きている
痛む体は足手まといで
魂だけ抜けてしまおう
それから脳も捨ててしまおう
痛みを生み出す器官は不要だ
僕等は恍惚だけになる
難しく表現する知能も要らない
ただ爆発するような快感の中
炸裂するような大笑の中
悦びさえ心に在れば良い
そのために
言葉は捨てていくよ
『こころ』を解体する道具なんて
捨ててしまうよ
ただ今の感情を言い示すための
最低限の言葉だけで良いよ