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受胎

 久々に彼女と外を歩いたと思う、景色がまるで違うように見えた。明るい、ひたすらに。道に転がっているごみや石ころでさえも彼女との話題に貢献してくれている。彼女との時間は飽きることはない。彼女といるのが楽しいからとか、新鮮だからとか、そんな陳腐な理由ではなく、もっとあいまいで、抽象的な理由で僕は彼女といる時間を楽しめていた。


 デート、高校生の時この言葉の響きにどれほど心を躍らせたことだろう。女の子と話すこと自体珍しかった僕にとってその言葉は僕に魔法をかけたかのように僕を浮かした。高校生の頃はお金の制限も厳しかったし、そこまで遠くに行けたわけではないからあまり行くところは新鮮とはいいがたかったが、彼女といるという大きな要素が世界を変えた。今だってそうだ。いつも仕事に行くのに使っていた道のはずなのに、僕は初めて歩いているかのような気分になる。周りを見回して、彼女との話題に使えそうなものはないかと探す。何とも言えない面白さが僕を満足させた。


「どこに行こうか?」

「んふふ~。実は今日のためにいろんなチケットを用意しておいたのですよ!」


 彼女はそういって得意げに笑った。褒めて褒めてといわんばかりの明るい顔に僕は押し負けた。手を伸ばして頭を撫でる、彼女は恥ずかしそうに首をすくめながらも、目線はしっかり僕の目を見つめ続けていた。


――あらら、うふふ。

――まあまあ、ふふふ。


「…ねえ。」

「あ…うん、ごめん…。」

「ううん…。」

 こうして公の場でいちゃつくのは恥ずかしい、いつまでたっても慣れない。電車に乗ろうものなら手もつなげない。よく見るカップルのしていることは良いとは思うものの、自分ではしようと思えない。

 こうしていると、まだ結婚していなかった時のデートの記憶が出てくる。あの時はまだ、手をつなぐとか意識したこともなかったっけ。お互いに初めての恋人、どうしていいのかなんてわからなかったから。



 そうして僕らは一日中外で過ごすことに決めた。たまにはいいじゃないか、こんな生活も。彼女さえ良ければこれから機会があればまたしてもいいと思える。今回は彼女の希望にしたがってしまっているが、つぎはちゃんと自分がリードできるように努めたい。

 水族館にまず行った。彼女は水族館は初めてだったようで、終始魚に興奮していた。周りから距離を置かれる程度には。わざわざ白イルカのショーが見られる時間を選んだらしく、見ごたえのあるものが見えた。彼女は目が輝いたまま一向にその輝きは澱まなかった。

 ランチを適当な場所で食し、次に遊園地に向かった。午前に水族館、午後に遊園地はかなり体力的に難易度が高い、少なくとも僕にとっては。だが彼女はすごく楽しみにしていたようで、今日は一日振り回された。いつか投げ出されるんじゃないかというくらいには暴れまわっていた。


 もう夜も更けてきたころ、そろそろ帰ろうかと彼女に言うと、彼女はなぜかうつむいた。


「…。」

「…?どうしたの?」

「え、えーと…最後にあそこ、寄りませんか?」


 彼女が指さした先には、色々な装飾を施された建物。その名前は何とも言いにくい名前で、俗に言うラブホテルであった。一瞬びっくりして目を丸くして彼女を見返した。彼女は俯いて顔を赤くするだけであんまり聞かないでくれといった感じだった。彼女の許容メーターは振り切ってしまったようだ。


――そうして僕らは…。


 

 それから二か月あったある日のこと、僕はいつも通り勉強を進めていたが、リビングで大きな音がして、すぐさま向かった。すると調子が悪そうな彼女が倒れており、一体どうしたことかと思ったが、一方彼女はなぜか覚悟は決まった、みたいな顔を浮かべている。


「えと…あの…、妊娠しました!!」

「…へ?」


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