終焉
「パパー!!」
「おお、どうした?」
「お風呂わいたよー!ぴーってなった!」
「そうか、じゃあ入ろうか。」
「うん!」
月日は立ち、娘はもう四歳になった。娘も彼女の遺伝子を受け継いでいるため、体の様子には人一倍気を使っていた。担当医からも一か月に一回の検査に来るように言われ、休むことなく通っていた。娘も大きくなって、子供らしく走り回る元気な娘に育った。それでいてとても心優しいとてもいい子に育った。もしかしたら彼女がこっそり降りてきて娘に色々言ってるのかもしれないと疑いたくなってしまう。
僕は今は弁護士事務所に勤めており、よく仕事月定期に入ったりするので、その時には義両親に頼まなくてはならないので少し申し訳ない。でも、なにより娘が寂しそうな顔をするのがどうしても気になって、仕事をしているときは気が気でないときがある。仕事から帰ったらまず娘を抱きしめてキスをしよう、そう決めて家になるべく早く帰る。大変ではあるが、今は毎日が幸せでしかたない。こんな日常を彼女は望んでいたのかな、そう思うとなんとなく涙があふれてしまう。
寝る時は娘が寝静まるのを待ってから寝ることにしている。二人で隣り合わせで寝るし、娘は僕の腕枕で寝たがるので寝顔はいつも見ている。安心しきった表情にはどんなに緊張した面立ちで僕がいても顔が緩まされてしまうので困ったものだ。
――こんな日常こそ、僕が望んでいたものなのかな…。彼女がいないけど、僕は幸せなのかな…。
娘もそろそろ五歳になるという時期に、病院から急に呼び出しの電話があった。娘は連れてこないほうが良い、といわれてびっくりした。よほどのことがあったのか、今になってまさか…。不安だった、でも期待もしていた。何もない、何もないかもしれないじゃないかと。でも僕の気持ちは甘かった。
「あと一か月の命です…。」
―そんなはずはない!!
僕は暴れた。こんなに元気なんだぞ、冗談はやめてくれ。ふざけるな、今までの検査で何をしていたんだ。どうにかできないのか、と。
「申し訳ありません…。」
医者に謝られる、その行為の持つ意味がどんなに絶望的かわかった。
家に帰る。何も見えないまま、家に向かう。どう話せばいいんだ、どうすればいいんだ。体はこれからどんどん弱っていくらしい、そして眠るように死ぬんだと。
娘の入園式が見れない。
娘の入学式が見えない。
娘が友達と遊べない。
娘と旅行に行けない。
娘の夫が見れない。
これからあったはずの娘の未来が垣間見えては消えていく。それは幻想だ、おこりえないことなんだと、僕に言い聞かせるかのように。僕は泣いた。声を上げて泣いた。自分の無力さに泣いた。今まで頑張ってきて得たものは一体何だったんだと自分に聞いた。
―免許。
―そんなものいるかっ!!返せよ!命を!未来を返せ!!
もう、何も僕には残っていない。




