Prologue
思えば浅はかであった。考えたことをすぐに言葉にしてしまうのは本当に悪い癖だ。今までこの癖のせいで不自由したことこそなかったのは、自分がの周りの人が美しかったからであろう。そんな中で僕は一つの悪意と純粋に気づき、思いのままを話してしまった。父が浮気していたのだ。
ある日学校から早めに帰った僕は、車庫から出てくる父とあと一人の若い女性を見かけた。おそらく仕事の関係者であろうと思い、特に気にもせずそのまま一直線に玄関に歩いたが、視界の中で、二人の体が重なった。あまりにも不用心ではないか、堂々とし過ぎではないかと思うほどに二人は隠す素振りを見せなかった。よほどばれない自信があったのだろう。父はいつもならまだ仕事で家にはいないはずだ、母もパートに出かけている。僕はたまたま今日は学校が早く終わって帰ってきた。
父とその女性の詳しい関係性は不明であったものの、僕はもう高校生になっていたので二人の行為がどういうものかくらい見当がついた。しかも車庫から出てきたのは、車で『そういう行為』を行っていたということであろうか。なるほど、父と母はそれぞれ別の車を所有しているのでばれにくいし、自宅で『そういう行為』をしていては匂いや髪の毛でさえ疑惑を産む可能性がある。
あまりに計画的で、卑劣な行為に僕はいてもたってもいられなかった。かといって父に直接話を付けるというのは中々難しい。なので僕は自分の正義をなすための最初の行動として母に報告することを選んだ。
数日後、母と僕の休みがかぶり、父は仕事という千載一遇の機会がやってきた。僕は母にどう報告しようかと興奮し、自分の正義は美しく正しい、歪みのないものだと自信を持っていた。しかし意気揚々と報告した時の母の反応は、僕の望んだものと違っていた。確かに、悲しい表情はすると思っていた。母も父を愛していたから結婚したのだから。しかし、母のその時の表情は怒りに染まっていた。それも、僕に対してだ。
母は知っていたらしい。知っていて黙っていた、無視していたといっていた。父がそういう人だとわかっていた、でも現実から目を背け、自分の幸せのためにそのままにしていた。母は父といることが幸せだった、ただそれだけだった。だから無視した、何もかもを忘れ、知らないことで不幸から逃れようとした。それを僕は、母を無理やり現実に向き合わせることで破綻させてしまったのだ。
結果、父と母は離婚した。父は出ていき、母もいつの間にかいなくなっていた。僕はどうしていいのかわからなかった。僕のしたことは間違っていたのだろうか、それを理解するには僕はまだ若輩すぎたのかもしれない。
僕は死を決意し、一駅はなれたきれいな花畑へ向かった。そこは誰の私有地でもなく、ただ自然が保存されているだけの場所であった。きれいな場所だった。父と母と小さい頃に行ったのをよく覚えている。色とりどりの花々が咲き誇り、涼しげな風で花弁が踊るように宙を舞っている。お客さんいらっしゃい、私たちの踊りを見てよ、といわんばかりに花弁は激しく飛び交う。僕はそれをじっと見つめていた。ごめんよ僕は君たちの踊りがどのように素晴らしいか評価なんてできないんだ。
――あの…、すいません。
僕が風の中で目を閉じようとしているところに、彼女は現れた。彼女の姿は、天使を想像させた。背中には白銀の翼があり、広げることで風を起こし羽を散らせる。神々しく、瞳の透き通った彼女だった。この出会いが、今後、僕の人生を大きく方向転換させることとなった。
――花、好きなんですか?
――ええ、とってもね。




