第6話:不審者の相手は疲れる……って、アレ、事態が俺の知らぬまに進行してる気がすんだが
「セイは……」
「魔封じの枷をつけられてるだけ。むしろ扱われ方としては上等な方だと思うぜい」
「あれが、なのか!?」
不衛生な環境。束縛された手足。
「殺されてもなければ拷問もされていない……ま、拷問はこれからってトコっスかね」
今すぐにでも、助けに行きたい
「まだ時間はあるし、ちっとばかし福爾摩斯君」
「なんだよ、その呼び方……」
異国の響き。中国語あたりだろう。さっきはフランス語、次は中国語なのはわかったが、意味まではわからない。これは推測だけど、あの結界は俺の悪魔の力の大部分を封じているから、翻訳能力も失われたか、と思う。
「おお、pardon!(失敬!)
友人に中国人がいてね。ついつい口からでてしまうんだよ。
まあそれはさておき、魔術もろくに使えない君なんぞ一瞬でお陀仏だよ。やめときな。
それより、君は考えなかったのかい?」
「何を、だ?」
「全く同じ顔の少女」
やめろ
「『教会』の態度」
ヤメロ
「何よりあのちぐはぐさ」
やめてくれーーーーー
「聡明な君ならもう、わかっただろ?」
バサリ、と差し出された紙には。
何が書かれてあったのか、など。読めなかった。
読みたくもなかった。
きっと、セイについて書かれてあるにだろう。それも、真実を。でもーーーーーー
「いい」
パシッと紙を払う。
「ん?」
「セイのことはセイ自身に聞くよ」
たとえ、推理でほぼわかっていたとしても。目の前に答があっても。本人の口から聞きたいのだ、俺は。
「……流石、紳士的なこった
ま、それはそうとどうするんだい? 君は」
演技のような大げさな仕草で肩をすくめ、やれやれといった風体をされ、少しイラッとする。自称怪盗な不審者だが、ここから出るためには協力してもらはなければならない。
「ここから出たい」
「へー。で、対価は?」
お前、俺を困らせたいだけだろう……っつか、さっきまで対価なんて一言も口にしてなかったじゃねーか、と言ったところで馬の耳に念仏なのはわかっている。
「ーーーーーーーー俺の命」
「ほう」
「俺に死なれたら、お前、困るだろ?」
元から俺を連れだそうとしてたし。何より、嘘だとしても、怪盗ルパンを名乗るなら、人殺しは嫌うだろう。
「ーーーーん、ま、いいや」
軽い沈黙のあと、明るくそう言った不審者が、パチリと指を鳴らす。途端。
俺は、ローマの街角に立っていた。
「こんな簡単に……」
「ま、怪盗は逃げることなんてお手の物、ってワケだぜ」
「すごいな……」
珍しく、不審者に対して本当に感心すると、フフンと誇らしげに胸を張った……ウザイ
さて、これからどうするか。もちろん、セイの元へ行きたい。が、実力不足なのも確かだ。
「ああ、心配ないよ」
「は?」
俺の心を読んだかのように言う不審者は、さらにこう告げた。
「可愛い女の子は助けとくから。君は友達の、ショウタのとこでも行ってな」
これは俺にとって好都合だろう。まだ俺では踏みいるのに早い場所へと行って、俺に対して関係ないけど死んじまったら罪悪感がある少女を勝手に助けてくれるっつーんだから。
例え俺がセイのところへ行っても、実力不足のお荷物。反面、不審者なら紳士的にセイを助けてくれる。それは俺の頭で、推理でよくわかる。
だけど……でも…………それでも、俺は
「セ「犯罪者だ〜☆」
決意を口にしようとして、明るい、聞きなれた声に遮られた。
……は、え?
「おひさ〜、勇紀。元気にしてた〜?わけないか☆」
「み、い?」
「うん☆ ちょい待ってね。そこの犯罪者、滅するから」
「これはこれは可愛らしいお嬢さん。しかし私はお縄にかかる気も、勿論死ぬ気もないよ」
会話する二人に、当然ついていけない俺ーーーーーー一体全体、どういうことだ!?