第3話:悪魔デビュー……でも何もしてないな、これ
「でさー」
「え? マジで? やばくね?」
太陽の光。……少し肌に突き刺さるが、それでも俺が帰ってきたと感じられる。他愛のない人々の会話。それを聞くだけで、もう泣きそうになる。
ーー非日常。それもとびっきりのヤツを体感した俺としては、そんな平凡がどこまでも愛おしい。
ん? 何でイタリア人の会話がこんなにわかるんだ!? イタリア語が、日本語の会話のごとくスムーズに理解できる。おかしい………まさか、悪魔になった特権か。これは使えるな。正太にも自慢でき、る……
そうだ、正太の無事を確認しないといけない。いや、でも、先にイギリスに助けを求めた方がいいのか? ……おい、待て。イギリスに助けを求めるって抽象的すぎるだろう母さん! わからんよ。イギリスのどこだよ!?
とりあえず俺は無一文だし、正太と合流したい。イギリスに連絡するにせよ、なんにせよ金はいる。でもどう探すか……
路上。みんなの見上げている方を俺も見る。
大型スクリーンに美人のアナウンサーの姿が映る。こういうニュースとかは万国共通らしい。なんか新鮮な気分だな、アナウンサーも、周りの人もイタリア人だけだと。
「次のニュースです。フィウミチーノ空港付近のバス停で、日本人の少年の死亡が確認されました。ユウキ・ジンノ君、15歳です。他殺と判明しているとのことです。ローマ警察は、犯人の特定を急いでいます。同じく事件に巻き込まれたと思われる、ショウタ・モウリ君は警察に保護されましたが、ーーーーーーーーーー」
正太は警察に保護されてるのか。よかった……しかし、俺が死んだということになっているとは。いや、死んだが、実際。俺の今の悪魔の体は、前の人間の体とは違う、ということかな。実際の所はわからんけど、そんなとこだろう。うーん、俺の昔の体は警察んとこあんのかな? なんかすごく不思議な気分だ、体が2つとか。自分の死体を見たくはないな。
でも、こうなると俺はどうしようもできない。死亡扱いされているならパスポートも使えないし、口座から金を引き出すのも当然不可能。おいおい、詰んだだろ、コレ。
さて、俺はどうしたらいいのか。ぶらぶら街を歩きながら考える。……が、いいアイデアは浮かんでこない。
「そこの男よ。ここローマでお主のようなのが一人ぽつんと立っておると、すぐに祓われるぞえ」
時代がかった言葉に振り向くと、そこには綺麗な長い金髪の、豪華な着物を着た、Gカップのボンキュッボンなお姉様が立っていらっしゃった。……………下着を、付けてないだと!?
「どなたですか?」
まあ、まずそこだよな。ぶっちゃけ……この人、見た目と口調からして変な人としか思えないぞ。
「ふむ……妾は尾裂久留里。凰璃学園、移動教室中の一生徒じゃ」
凰璃学園!? あの超難関校の人なのか……?でもとりあえず下着と制服着ろよ。いや、眼福だけどな。
「あの……下着は付けないんすか?」
「ストレートな物言いじゃの。まあ、素直な者は嫌いではないぞい。それで……ああ、下着は一族みな付けぬからのう。妾もそれに倣ったまでじゃ」
なんて一族だっ! ありがとうございます。
「オイ、クルリ。はぐれるんじゃねえヨ。探すの手間取たネ」
いきなり後ろから声がしてびっくりした。
「すまぬ。つい、面白そうな男を視つけてしまった故な」
これまた変な人が出て来た。……移動教室って制服着ないのか? この人は俗に言うチャイナ服を着ていた。ここ、ローマだよな?なぜ日中の民族衣装が見れるんだ。
というか流石凰璃、移動教室で外国とは。羨ましいな。
「オマエ、反省してねえダロ。マ、早めに発見できて良かたヨ。オマエ独りにすると、絶対問題起きるネ」
「ひどい言い草じゃのう」
「事実述べただけネ。現に……」
バタバタと複数人の慌てた足音がした。なんだ?
「来たネ。対処は責任持ってジブンでしろヨ」
「……少しばかり手伝ってくれてもいいんじゃよ?」
来たって何が、と聞くひまも無かった。ガッと地面に打ち付けられる。俺は拘束された。多分、柔道の寝技に似た技だった。
……誰だ? 体がうつ伏せになっていて、顔も何も見えない。
「『教会』の者です。悪魔の反応があったので来たのですが、お2人は日本の魔法学校の生徒さんですよね? この悪魔と契約してるわけでもなさそうですし……まさか、襲われましたか!?」
俺は健全なお付き合いを望んでいるので、襲いなんかしないぞ、と主張しても無駄だろうなと感じた。猪突猛進なお姉さんっぽい。ふざけたことを言った瞬間に殺られるな、と思う。声からして綺麗な人なんだろうけど。
「新人! 突ッ走んなァ。ダルいだろーがよォ」
「もぐもぐ、もぐもぐもきゅ」
「クソねみぃ………」
おう、なんかチーム崩壊してる気がする。あと、俺を抑えてるお姉さん(黒のレース、C)。胸、当たってます。あざっす。ただ、ちょっと声大きいです。ボリューム下げないと他の人に聞こえ……いや、周りに人がいない!?
これも魔法、なのか? そういえば、俺が殺された時も周りに人がまったくいなかった。
「んでェ、結局この悪魔は知り合いかァ? お二人さんよォ」
「そうじゃ、一応じゃがのう」
「そうかァ。んじゃァ、新人、拘束解けェ」
「何でですか!? 悪魔はすべて滅するべきですよ!」
すごい殺気を向けられる。……こちとらついさっきまで平凡な高校生だったので、もちろん殺気を向けられたことなんぞない。結論。とっても怖いです。しかも密着してる状態で殺気を向けられてるので怖さ倍増だ。
「はァ……そっちのお二人さんともォ、人間じゃねェのくらい気づけやァ」
お姉さんは驚いたのか、ふっと殺気が消えた。ひとまずホッとする。
えっ……この尾裂さんも、チャイナ服の人も人間じゃないのか? 俺と同じく。
なら、この人たちに聞けばセイについて何かわかるかもしれない。まあ、それまで俺が生きてたらだが。いや、このお姉さんにすぐ殺される気がしてならないんだ。残念ながら殺気が消えても、まだ拘束は解いてくれていないのだ、このお姉さんは。
「どーでもいいからさっさと終わらせろよ。クソねみぃ………」
「もきゅ、もぐもぐもきゅもぐもぐ」
さっきからマイペースに食ってんな…………あれ? おかしい。俺はご飯をしばらく食ってないし、飛行機内でよく寝れなかったのに全然食欲も睡魔もやって来ない。
つまりは、悪魔の体のおかげだよな。すごいな、悪魔。便利すぎる。
まあ、今、俺は悪魔の体なおかげで拘束されて、命の危機にさらされ中なんだけどな。
「え? この生徒さんたちがですか!?」
「ほぅ。妾の方は兎も角、よくぞ栄仁の方がわかったのう」
あのチャイナ服の人は栄仁というらしい。名前的に男か。まあ、俺の推理力が働かない時点でわかってはいたが。
そしてどうしたものか。まったく会話についていけない。
「一応、コッチは教会の中でも精鋭とされてるんでなァ。てか、そこの悪魔さァ。記憶違いがなけりゃよォ、殺されたユウキ・ジンノかァ?」
「あー、はい」
いきなり話を振られてビビった。そして今、俺は地面とこんにちは状態なので結構しゃべりづらいことに気づいた。なるほど、新たな発見だな。……自分で言っててちょっとむなしいな、これは。
「え、元人間の悪魔!? そんな……まさか」
何かあるのだろうか。人間が悪魔になるのはおかしいのだろうか。いや、でも本とかではよく聞くんだがな。
しかし、自分の上にいる人がブツブツ何か言ってると実に怖い。丁度、耳元あたりだしな。
「そォか。……つかブツブツ言ッてねェでいい加減拘束解けよォ、新人。胸、当たッてんぞォ?」
「ふ、ふわわわわわわ。わ、私が、穢されたっ!!」
冤罪だ。そっちが勝手にやってきただけだ。俺は、無実だ。あと、表現がひどい。俺を汚物かのように言わんでほしい。俺のガラスのハートがブロークンされてしまう。
しかし、やっと立てたな。あの体制は少しつらかった。背中にあったふよふよした感覚が消えたのは残念に思うんだが。
初めてその姿を見れた4人は、女性2人はシスター服、男2人は神父服だった。え? なんでこんなコスプレ会場みたいになってんだ?俺だけ普通の服となってしまっているぞ。
……あと、声でわかっていたが、ご飯をずっと食べてる人と、立ったまま寝てる人がいる。協調性の欠片もないな! ある種の尊敬を覚えるレベルだ。
ちなみにあのずっと物を食べてる、上からネコ耳パーカーを着ている可愛い子は猫のプリントされたパンツに、Aカップだな。関係ないが。
立って寝てる方は男。しかもイケメンなので無視だ、無視。
「そんで、ソッチにも事情ってモンがあんだろォ? 事情がァ。話してみ………………カロリーナ!! 食ッてねェで防御体制だッ!!!」
直後。恐ろしい程にまぶしい光が俺たちを直撃した。
やっと凰璃学園が出てきました。はやくこの章が書きあがるといいなと思います。出来る限り頑張ります。