第2話:こうしてこうなった。反省はしている。だが後悔はしていない……はず
「ユウキ。ユウキ。おい。起きろや get up!」
「へ?」
女の人の声で目覚める。……俺は、死んだんだよなぁ。
ここは、どこだ?俺は……神野勇紀だな。
「ユウキ!」
そう言われて女の人に抱きつかれる。……………誰だ?ん?何となく見覚えが……
「母さん!?」
いつも見てたのは写真だったからわからなかったが……母さんだ。確か、メアリーという名前だった。
「そうよ、ユウキ、お母さんよ。…………大きくなったね。ずっと見てたわよ」
かあさん………………
「オマエがセクハラしてるところもなあ!!!!!」
「すみませんでした!!!」
土下座した。
「まったく。そんな子に育てた覚えはありませんですよ」
育てられた覚えもないです。と、言いたいけど言っちゃ駄目だよな。
………というか、この母さんは本物だろうか?魔法で化けたりとかも、出来るんじゃないだろうか。一度思うと不安になってくる。
「でも……元気に成長してくれてありがとう」
そう言って顔に浮かべられた笑みは。確証も何もないけど……ああ、母さん、俺の母さんだ、と俺に思わせるものだった。
「そして、ごめんなさい。ユウキが死んじゃったのは、ワタシのせいなのよ……」
「予想はしていたよ」
母さんの悲痛な顔を、見ていたくはなかった。だから母さんの言葉を遮った。
「だって父さんはただのサラリーマンだぞ? そんな父さん関連で命を狙われるとは思えないし。だとしたら、母さんかなーとは」
母さんが泣きそうな顔になる。慌てて俺は付け足した。
「いや、母さんを恨んでなんかないよ。悪いのは俺を殺したあの男だし」
実際に手を下したのはあの子、セイだろうなとはわかる。だけど……あの子を恨む気にはなれない。元凶は、あの男。そういうのは何故か本能でわかる。
正太は大丈夫だろうか。……すまん、俺には祈ることしか出来ない。でも、何となくわかる。大丈夫だ、あいつは生きてる。そう、感じるんだ。
「それに、俺が生まれてこれたのは母さんのおかげだから」
「でも…ワタシはーーーー家なのに。推理できなかった。ユウキを、巻き込んでしまった」
「ゴメン母さん、何家って言った?」
それは不幸か偶然か。勇紀はその言葉を聞き逃した。
「呼ばれてなくても飛び出してくる〜」
白。それが親子の前にいきなり現れた。
白い髪。白い肌。白い服。顔の上半分を隠す白い仮面。そして、白いウサ耳。圧倒的な白がそこに在った。
怪しい。そして……………危険だ。それが二人の共通した意見だった。
「あ、名乗ってなかったね。僕は白ウサギって呼んでね。今日は〜、不幸な神野勇紀クンのために! な、なんと! 生き返れる権利をプレゼントしちゃいまーす」
怪しい。胡散臭い。そんな二人の視線を気にもとめず、白ウサギと名乗った少年は話を続けた。
「それでは神野勇紀クン。天使とー、悪魔とー、ドラゴンとー、エルフとー、ゴーストとー、吸血鬼とー、獣人の中からー、好きなのを選んでね〜。いやー、昔より増えたんだよ〜、選択肢! 良かったね〜」
怪しくても生き返れるなら生き返りたい。勇紀はとりあえず話をすることにした。
「人間、というのはないのか?」
「ないよ〜」
勇紀は悩んだ。どの選択肢がいいか。天使は羽がはずかしいし、神の命令を聞かなくてはいけない気がする。行動も制限されそうだ。エルフは……なんというか、物理的に弱そうだし、俺には合わなそうだ。ゴーストは、普通の生活を送りたいからパス。吸血鬼は、弱点が多そうだ。獣人は、耳や尻尾からバレる気がする。ドラゴンか悪魔だな。男のロマン的にも。
……悪魔、かな。直感的にそう思った。
「悪魔、で」
母さんから心配そうな目線を向けられるも、大丈夫と目で返しておいた。
「はいは〜い、悪魔かー。えーと、よいしょっと〜。それじゃあ、新たな生をお楽しみくださ~い!」
身体が黒い渦に呑まれる。ぐるぐる、ぐるぐる…………熱い
「ユウキ! イギリスに助けを求めなさい!! メアリーの息子と言えばいいわ。そして、悪魔となったからには光が弱点! 天使には気を付けて!! ……悪いお母さんで、ごめんね。愛してるわ!!!!」
悪いお母さんなんかじゃない……と言おうとして、声が出なかった。俺も、母さんのことが好きだよ。声にならずとも思う。
イギリス……母さんの故郷。そこに何があるんだ。
あと、あの胡散臭い白ウサギはもう去っただろうか。母さんが心配だ。俺を生き返らせたから、いい奴かといえば違う。奴は、ただの実験としか思っていなかっただろう。……それでも、いい。俺は生きてやる。奴の計画を、予想をぶち壊すくらいに強くなってやる。奴は、生者だ。直感的にわかる。おそらく俺が生き返ったら一度は会いに来るはずだ。その時、俺は…………奴を、白ウサギを、打ち倒せるレベルになってやる。
母さんと、短い間とはいえ会えて嬉しかったよ。それが俺の紛れもない本心だ。
あり、が、とうーーーーーーー
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ユウキを、ワタシの家のことに、魔法世界に関わらせる気はなかったのに………」
メアリーはただただ悔いていた。自分が逃げだした家の、問題に息子を関わらせてしまったことを。魔法の世界……メルヘンな響きだがその実、命懸けの世界に引きずり込ませてしまったことを。
「家出したとはいえ、あそこの家の人が推理を外すなんて〜。おっもしろーい」
メアリーは白ウサギの、その、すべてを見透かしたかの様な言葉に戦慄した。そんな、英国でもトップ・シークレットの内容を知っているだなんて……
しかも白ウサギの正体は、メアリーの推理力をもってしてもまったくわからなかった。性別も、人種も、年齢も、何もかも。唯一わかるのは生者、ということ。それだけだ。
「どこまで知っているの? ……まさか、ユウキが死んだのもアンタのせいなんてことは」
最悪の想像
「なーいな〜い。そんなにヒマでもなーいし〜」
しかしそれは否定された。よかった、とメアリーは思う。もし、ユウキの敵がコイツだったら勝ち目は薄い。いや、メアリーの推理だと勝てる可能性はほぼ0%である。
「…………ユウキに手を出したら、承知しないわよ!!!!!」
たとえ力及ばずとも。ユウキの、愛しい息子の為なら、魂が消えようとも抗うつもりだった。
「お〜、こわーいこわーい。うーん、なんとも言えないかな〜。まー、お前程度じゃ逆立ちしても僕には敵わないよ〜。ザーンネンでした~」
ふざけているかのような軽い言葉には、恐ろしい程の『ナニカ』が秘められていた。メアリーは思わず後ずさる。
「っ!!!」
息を呑む。戦うのか………
「まー、じゃーね~。もう会わないと思うけど〜」
白ウサギが消えたことに、思わず安堵する。おそらく、生者の世界へ戻ったのだろう。
「ユウキ……アナタの無事を、祈ってるわ。………………もう、死なないで」
メアリーは、母として……ただ、祈った。神を知りしともーーーーー