プロローグ:それは不幸か幸運か
カランカランカラン
商店街にベルの音が鳴り響く
「大当たり〜。特賞、ローマペア旅行チケット〜。おめでとう、勇紀君!」
「よっしゃっ!! ありがとう、魚屋のおっちゃん! 今度何か買うな」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「てなわけで、これがうちの商店街のくじ引きで当たったチケットだ」
ババーンと効果音の付きそうな感じで見せびらかす。イメージは水戸黄門だ。いや、別に目に入れなくていいけど。それよりヘソで茶を沸かすのを見てみたい。誰かできないか?
「太っ腹だな、お前んとこの。へー、で、年齢=彼女いない歴の神野勇紀君は誰と行くんですかー?」
「うぐっ……」
はいはいどうせ俺は年齢=彼女いない歴の童貞ですよ。そんで父親と行こうとしたら、平日だからとあっさり断られた奴ですよ。
「うっせー、お前もだろうが。あーあ、せっかく人が誘ってやろうと思っていたのに」
「申し訳ありませんでしたっ! 勇紀さまっ!!!」
おい、ころっと態度変えやがったな。
「ただこれ、平日なんだ。テキトーに理由つけて休もうぜ」
入学したばかりの5月で休むのは、勉強についていけるか心配になるが、ま、いけるだろ。
「了解っ! いやー、海外旅行なんて初めてなんでな。サンキュな、勇紀」
「どういたしまし「きーいちゃった、きいちゃった☆ 学校サボるなんてうらやま……じゃない、いけないぞー」
おい、人の言葉を遮るな。さてと……
「げっ、聞いてたのかよ、三井!」
「きいてたぞー☆ 毛利やい」
見て、聞いて、考えろ。これは父親から教わったことだ。………
「わかったぞ! 今日の三井のパンツは……白のレース!!!」
俺の今日の推理。百発百中、外したことはない。俺の数少ない特技の一つであり、毎日、いや、いつでも行う趣味だ。
二つ目の特技は、胸の大きさを当てること。これも外したことはない。ちなみに三井はCだ。これは初対面のときに確認しているので、間違いない!
「何で毎回わかるの!? ていうか、ボクの下着の色をそんな大声で言わないで!!!」
羞恥心から顔を真っ赤にする三井。……いつものことなので何の感慨もない。ま、俺が原因だけどな。
「他の奴には言わないよ。俺が言うのは……お前だけだ」
ああ、気心の知れたお前にしか。……女子は。男子には言う。俺らは皆、仲間だから、情報を共有し合わなければいけない。これは常識。
「ゆ、勇紀……ううん、そ、そんなこと言ってもボクは騙されないんだからねっ!」
ちょっと騙されてないか? ま、とりあえず…
「本心だったんだけどな」
半分くらいは。
お、鳥塚はピンクの水玉、安藤は水色のリボン、山崎は青のストライプ、島田は黄色のフリルか。いやー、カラフルだなあ。ちなみにB、D、A、E。何がとは言わんが。
「ったく、何で勇紀はそんなうらやましすぎる推理力を持ってんだ!! テストの点はそんなによくないくせに!!! 何でハーフのくせに英語の点オレより悪いんだよっ!!!! オレも、オレも…………」
とりあえず、正太、英語の点は関係ない。俺も海外に行ったことがないんだ。ただ、この特技に関してはきっぱりと言える。
「持って生まれた素質と、努力の成果さ」
そう、あれはまさに血のにじむ様な特訓だった…
「いやいや、勇紀は完璧に女子の敵だから。一人だけでいいよ」
女子の敵とはひどい。俺はちょっと欲望に忠実なだけだ。そう反論しようと思ったら、三井が話をいきなり変えてきた。というよりも、元に戻した。
「そういえば、2人とも、パスポートは持ってるの?」
「「あ…………」」
そうか、パスポートが必要なのか。よし、うちに帰ったら父さんに相談するか。
「すっかり忘れてた。ありがとな、三井」
「まったく、しっかりしなよっ☆」
キーンコーンカーンコーンと鐘の音がした。雑談している内に、SHRの時間になったらしい。
「ほら、さっさと席に着け、正太」
「そうそう、さっさと席に着けやー、毛利!」
「オレだけ扱いひどくね!?」
気のせいだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「荷物の確認はしたかい?」
「大丈夫だよ、父さん」
パスポート、財布、ガイドブックーーーーーーまあその他もろもろ、きちんとある。
「気を付けて行ってらっしゃい。日本人はカモられるらしいしね。まあ、勇紀はハーフだから大丈夫かな?」
「俺は日本生まれの日本育ちだからな。関係ないだろ。ま、カモられないようには気を付けるよ。んじゃ、行ってくる」
玄関にある、母さんーーイギリス人の綺麗な一人だったらしい……の写真にも言う。これは日課だ。
「いってきます、母さん」
見守っててくれると、うれしい。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「来たぜ、ローマ!!!」
「来たな……」
ただ正太、周りを見てみたまえ。すっげえ注目浴びてるから。ま、俺も浮かれてるから、人のこと言えないかもな。と、発見。ホテルへの送迎バス乗り場はあっちらしい。
「正太、あっちだ。行こう」
「おう、合点だ!」
……何のノリだよ、それ。
俺たちは3泊4日の旅で、明日と明後日の2日間はツアーに参加することになっているが、今日は自由だ。ホテルでゆっくりするか。
「勇紀、バスしばらく来ないっぽい。ってなわけで、便所行ってくる!」
「はいはい、とりあえずここで待ってるからな」
正太はちゃんと聞いてたかはわからないがトイレへ駆け出していった。ま、この距離だし迷子にはなんねーだろ。
しかし暇だ。バスが来ないからか人はいなく、一人ポツーンと立ってるだけだし。空でも見てるか。ん?
「何か……落ちてきている?」
何だろう、と思いつつ見ていると……人だ!!
「人が落ちて来てる!!!!」
大怪我間違いなしだ。誰かに知らせるか?でも、俺はイタリア語は話せないし、英語も高一の平均以下レベルだ。どうする? もう、すぐこちらに……あれ? 思ったよりゆったり落ちて来ているぞ? これなら、受け止められる、はず! よし、受け止めよう!!
そんな俺の熱い決意は
落ちて来た少女の手に持つ
可愛い容姿と服に似合わない
真っ黒い銃によってあっけなく崩れた
「ユウキ・ジンノ………死になさい」
その時俺が思ったことは。何で初対面で金髪碧眼の美少女にそんな物騒な言葉をかけられたかでも、何で銃口がこちらを向いているのかでもなく……
「どうしてパンツが見えないんだっ!!!!!」
金髪碧眼のまな板胸(俺の推理ではAA)のゴスロリ美少女のくまさんパンツが見えないことに対する嘆きだった。
俺の推理でイメージはできても、実際に見るのとは全然違うんだっ!!!!!!
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カモられる・・・鴨は捕まえやすい鳥であるから騙される、利用されるという意味で使われる。ここではぼったくられるという意味。実際、海外の露店で現地の人に言ってた値の倍以上の値を言われたことがある。値切って現地の人に言ってた値より安くさせたけど……
お読みいただきありがとうございました。これは私の書いているもう一作の『巫女姫と魔法の暗殺人形』と同じ世界観なので、両方読んでいただけると幸いに存じます。