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はじまり、はじまり?

 ――国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった――


 ……じゃなくて。


 ――玄関のいつものドアを開けると異空間であった。腹の音が鳴った――



 ……正直すぎる、緊張感のない自分を嫌にもなるし、恨みたくもなる…。

 何せ自宅の玄関扉を「ただいま~♪」と開けたなら、目の前にあるのは見知らぬ風景。

 見渡す限りの花、花、花!!青い空、白い雲、そして果てしない花畑!

 ……一瞬、余所んちの温室にでも出たのかと思いました。


「すみません、間違えました~!!」


 条件反射で即、ドアを閉めましたとも。

 だが、脳内でもう一人の冷静なツッコミ家の自分がすかさずツッコミをいれる。おいおい、一体どんな豪邸だよ!と。うちの近所にはそんなものはないはずだし何より今は夜だよと。

 だが、我が心の叫びも空しく、音に出でるは情けなくも切実なそれだけで。


 ぐ~きゅるるるるぅ~ぐぐぅ~・・・・


 こういう異常事態の下、冷たく澄んだ冬の夜空の下で空しく叫んだそれは、再び己の欲求を訴え続ける私の素敵なほどに正直なmy empty stomach。

 ―――要は空きっ腹。


 だが仕方あるまい、と空いた胃の底で即座に居直る自分がいる。

 花も恥じらうぴちぴち乙女といえど、腹は減るしお腹も鳴る。是、当然の理。

 お腹も鳴らない、トイレも行かないのは少女漫画のヒーローと幼い少女の頭の中のアイドル像だけだ。

 大学の帰り、とっくの昔に夜もとっぷりとふけた時刻ともなれば胃が空腹を訴えてもしょうがない。

 ごくごく当たり前のこと、人間として当然の欲求であり生理現象だと。たとえ七面倒くさい今現在の状況とはいえど。

 人間、腹が減っては戦はできないと言うではあ~りませんか?



 同情の余地あり、異議ナーシ!

 独り胸の中、壇上の上から叫び、シュプレヒコール。会議は踊る、そして進みますとも。(何せ一人脳内会議ですからねー。敢えて言うならば「サクサクいこうぜ!」)

 そして一人で可決し、これまた一人で心の演壇から降りる。

 終わり、おしまい。これをもって第1回脳内会議に幕を下ろす。

 そこで一礼。

 紳士?としての嗜みだ。うむ。

 といっても脳内ですがね。私は女だけど女が紳士を気取って何が悪い?いや、そんなことはあるまい。(何かの構文みたいだな、オイ。笑)



 右手に持った豚まん(先ほど立ち寄ったコンビニで買った)をアテに、左手に持ったほかほかの烏龍茶の缶でひとまず休憩といきたいところだが、目の前の異常現象を前にふむ、と改めて考える。

 現状を把握すべく第2回脳内会議に突入すべく、再び思考タイムへ突入。

 暫し、沈思黙考というわけ。

 だが、豚まんを食べながら、烏龍茶を飲みながらでも考えることはできるだろう、何より冷めたらもったいないしね、と自分の中にすとんと明確かつ都合のよい解が落ちた。

 一石二鳥。空腹を満たすことは脳の活性化へ結びつく。

 お腹も満たされ、豚まんは美味しく食べられ、よい考えも浮かぶやもしれぬ。むしろ一石三鳥だ。



 というわけで、とりあえず我が家の門柱にもたれながら豚まん食べてます。

 所謂立ち食い、というやつですかね。お行儀が悪いですがどうかお許し下さいませ。腹の虫がどうにもこうにも切実な状態なんです。

 先ほどお聞きおよびのとおり、花咲く乙女としてはあるまじき状態なんです。



 ほかほかの豚まんにがぶり、と噛みつけばじゅわ~っと肉汁のジューシーな風味と筍の歯応えのある感触が口腔内に広がる。


 あー生きててよかった。


 豚まんと一緒に幸せを噛みしめる。そして、こんなささやかな幸せの積み重ねで人は生きていけるのだと思う。

 たとえ、目の前にどんな面倒な事象が転がっていようとも。問題の先送りだと、現実逃避だともう一人の私が意地悪くツッコミをいれようとも。



 ちなみにものすごく落ち着いているようだけど、ちょっとくらいは動揺してる。

 でもね、こんな状況には既になれっこ、なもんで今さら驚いたりはしないのだよ、ジェームズ君。(誰だよ、ジェームズって!)


 これがベタな少女漫画や物語の主人公ならば「きゃあ」とか「いやぁ~!」と可愛く悲鳴を上げて驚いてみせ、そこにすかさずヒーロー登場、あっという間に問題解決、そして二人は結ばれましたとさ、めでたしめでたし……となるべきなんだろうけれど、生憎私はそんなキャラじゃないし。


 可愛げは何処かに置いてきました。

 たぶん、母親の胎内に置き忘れてきたか、超絶美人な上に愛嬌まであるという、まさにミス・パーフェクツな姉君様がお生まれあそばされた際に、私の分までごっそりすべて根こそぎ持って行ってしまったのだろう。

 残されたのは冷めたピザよりもあやにくくも空しい、超絶現実主義というツッコミ体質だけ。


 間違いなく、私は少女漫画の主人公にはなれないタイプだ。いや、なりたいわけじゃないけれど。

 ……でも、そう言い切っちゃうあたり、本当に我ながら可愛げがない。

 でもそれはそれ、仕方がないと諦めてる。自分にできること、向いていることをコツコツ頑張る、それが賢い道かと。

「兎の上り坂」、「八仙海を過ぐるに、おのおの神通を顕す」とも言うではないか。

 私の場合、目指すはnotヒロインbutツッコミor傍観者希望!ってやつですかね。


 私こと高雄(たかお) かほり、本日をもって二十歳になりたてほやほや、華の大学2年生は、されど大いなる溜息をつきながらも、目の前の豚まんという唯一の幸福の塊にやけくそとばかりに噛みついたのであった。

メイン連載の上官殿もヒロインもボケボケしてるので、こちらのヒロインは1人ボケツッコミの自給自足、目指してます(笑)

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