表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/16

第一ヴァイオリン/フリーダ Ⅴ

 フリーダは呼び覚まされる感覚にとまどった。

 まったく質の違う二つの音は、絡まりあって新たな音色を創り出した。

 自分が己のパートを弾いている意識はある。しかし、相手の次の音が求めたタイミングで必ず与えられると、織り出される旋律のどこが自分のものなのかは定かではなかった。

 すべてがフリーダのもののようでもあったし、すべてがリーゼロッテのもののようでもあった。

 共鳴して融合する。

 響く音に一つ一つの細胞が慄く。

 侵食されて、境界は消えうせる。


 * * *


「ヴァイオリンを弾いてるとき、あんた気持ちいい?」

 家路につきながら横を歩くリーゼロッテに訊いてみると、彼女は生真面目な顔を崩さないまま首を傾げた。

 夜も更けたこの時間、ほかに人通りはない。街灯だけが規則正しい間隔を空けて、ぽつぽつと前後を照らしていた。

「……あまり考えたことないわ」

「そう」

 フリーダは多少落胆した。あれは、自分達に共通する感覚なのではないかと思っていたのだ。もっと説明するために言葉を探すと、通り過ぎた街灯から粉雪がぱらりと散り落ちてきた。

「デュエットのとき、ぴったり合うと、もうあれは性的な快感っていうか、それをはるかにしのぐっていうか」

 途端にリーゼロッテはぴたりと足を止めた。白色灯の明かりの下、こちらを軽蔑したように見やる目は青の濃度が増している。

「…………変態?」

 真剣な顔でそんなことを言うので、フリーダは噴きだした。無視すればいいのに、いちいち言葉を返されるとそれがどんな反応であれ、最初のリハーサルよりは格段の進歩だと思う。

「うまくいえないんだけど」

 性的な快感といっても、所詮、皮一枚隔てた外側だ。音によって体内から引きずりだされる、あの感覚とは比べ物にならない。

「悦楽というか陶酔というか恍惚というか、とにかく満たされたかんじというか」

 言葉を重ねるうちに無性におかしくなって、フリーダはまた笑いの発作に襲われた。離れていくリーゼロッテに辛うじて一番告げたかったことを口にする。

「あたしたちもっとよくなるよ」

 視界の端に、ためらいつつも手を振り返す彼女の姿が映った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ