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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

心優しき『暴虐』のはなし

作者: malaysia403
掲載日:2026/02/26



昔むかし、あるところに、それはそれは悪い魔法使いがいたそうじゃ。


嵐を呼び、怒れば家を吹き飛ばし、笑えば木々をざわめかせる__そんな恐ろしい女だと、人々は噂しておった。



その魔法使いの名は、----。






「__その魔法使いは、今も生きておる。だから、悪さをしてはならんぞ?

その魔法使いは、悪い事をした子どもをどこかへ連れ去って、あー…そうじゃな…


夜な夜な逆さ吊りの刑とかに__」




「そんな下らねぇ事しねぇよジジイ。テメェから逆さ吊りにすんぞ」






僕の住む山あいの小さな村には、すごい魔法使いがいる。


今お爺ちゃんに悪態をついた、----だ。



彼女はとにかく怒りっぽくて、口が悪い。


「こんな話、信じるなよ。

__信じたら、『逆さに吊って』隣村までぶっ飛ばす」



ちょっとだけ、頭も悪い。

魔法使いなのに。



「オマエ今なんか考えたか?あ?」

「なにも考えてない!」



考えを見透かされたようなことを言われ、咄嗟に言葉が出た。

これでは何か思っていたのがバレバレだ。


「このガキ__」




----は『スープが入った大鍋』をドン!と机に置き、


「隠し事してんじゃねぇっ!」


僕の頭を万力のごとく締め上げた。




「ほっほ、『暴虐』の魔法使いが暴れておるわい。

今のうちにいただくとするかの」


「コラ!クソジジイ!」





締められた頭が痛いけど、続けるね。



僕たちは、小さな村の端に三人で暮らしている。

僕と、お爺ちゃんと、----。



みんな、血は繋がっていない。




僕の家族は、みんな死んじゃっていなくなった。


行くあてのない僕は、途方に暮れていた。




「ガキ、行くぞ」


不器用な言葉が、急に僕に飛んできた。

目の前にいたのは、----だった。



僕はすぐに着いていった。


いつも口が悪くて、

すぐ魔法で当たり散らして、

おまけに、魔法無しでも暴力的で__




なのに、とても安心できる人だったから。



----は、僕が一緒に暮らし始める前からお爺ちゃんと暮らしていた。

血のつながりはないが、家族でもないらしく、


「ジジイはジジイだよ。気にすんな」


とだけ言われた。

僕も別に気にならなかったので、それから特に聞かなかった。







パッと万力が離れる。

ものの数秒程だっただろうか。


「食いながら、今隠したことアタシに話せよ」



そう言いながら、----は僕の分のスープをよそってくれた。


僕の好きな鹿肉と、僕の嫌いな人参がたくさん入っている。



----の方を見ると、彼女はニシシッと笑った。



本当に、どこまでも優しい『暴虐』の魔法使いだ。







----は普段、ギルドに行って冒険者として活動している。

僕とお爺ちゃんは冒険者は無理なので、村の手伝いなどをしてお金をもらっている。



「ガキもジジイも、村をウロチョロしてると目障りだろうがっ!」


大人しくしとけ!なんて言っていたけど、僕たちがそれを無視してずっと続けていると、



「…勝手に、しろよ」


とだけ言って、それから何も言わなくなった。




「じゃあ、行ってくるな。

ジジイは安静にして寝とけよ」


そう言って、----は風に乗って街の方へ飛んで行った。




今日は村長の家にお使いに行って、それから村の公民館を掃除する日だ。

爺ちゃんは、寝起きに腰をやってしまったらしく、今日は不参加。


なので、いつもより張り切ってやらなければならない。




僕は、今日の仕事に考えを巡らせながら、村長の家まで走って辿り着き__





村長の家の前に、謎の法衣の集団がいることに気付いた。




対応していた村長は、僕の顔を見て一瞬目を開いた。

その後、すぐに冷静な顔に戻り、


「おお、来てくれてありがとうな。

だが、見ての通り客人がおってな。こっちはいいから公民館の方を__」




「あれれぇ?なぁんか、気になりますねぇ?」


非常に不快な声が、村長の言葉を遮った。

法衣集団の先頭、村長に最も近い位置にいた男だった。



「村長、もしかしてこの少年、何か知ってるんですかぁ?」


妙な殺気が僕の方に飛んできて、背筋に寒気が走った。

よくわからないけど、逃げないと__



「----」


踵を返そうとした僕を引き留めたのは、男が発した僕の『家族』の名前だった。





「やぁっぱり__知ってましたねぇ」


男がニタニタ笑ってそう言ったのを最後に、



昏倒しろ(スタンスネア)



僕の意識は刈り取られた。







「う…」

どのくらい経っただろうか。

僕は目を覚ました。



やたらと、のどが渇いている。

目の前が焼けるように眩しい。





しばらくして、ようやく僕は状況を理解した。





村が、燃えていた。

僕は燃える村の前に転がされていた。



炎の中に、人を見つけた。

これだけ燃え盛っているのに、身じろぎ一つしていない。





「ん~、そろそろ来ますかねぇ」


不快な声が上から聞こえた。



「何するんだ!お前ら…なんなんだ!」


僕が起きていることなどとうに知っているだろう。

僕は構わず『敵』を威嚇した。



「何って…そりゃあ勿論決まっているでしょう?

『救い』ですよ。これは、救いの為の行いですよぉ?」




その異常性しか僕の頭には入ってこなかった。

違う世界の言葉を使っているのかと錯覚した。


次に叫ぶ言葉も、考えつかなかった。



「そろそろ、ニオイにつられて『魔女』が来る頃ですねぇ。


皆さんも準備を__」



突然、男の声が止んだ。

ドサドサッという音が僕の後ろの方で聞こえた。



「ハァッ…ハァ、生きておったか…

…無事で、よかったわい」



「爺ちゃん!」

僕が叫んで出来た隙に、爺ちゃんは反応した。


ヒィン、という風切り音と、トッ、という軽い音が二つ。



僕の前にいた二人の法衣が倒れた。


どちらも、目に深く矢を刺し動かなくなっていた。




「その腕前__

あなたぁ、もしや『暴虎』ですかぁ?」



「…やめんか。そんなもの、っ…とうに捨てたわ」



爺ちゃんは、息を切らしながら答えた。

僕を必死になって探してくれていたのだろうか。



トン、と音がして、僕の身体が急に自由になった。


「早く…逃げるんじゃ」




知らなかった。

お爺ちゃんが、こんなに弓の扱いが上手かったなんて。


僕は自由になった身体を捩って、逃げる体制を整え__





右の腹部が大きく抉れた、お爺ちゃんが視界に入った。

肩口にも大小数個の穴が空いているのが見える。



貫け(アーク)





男が魔法を行使し、何本かの線がお爺ちゃんを貫いた。


「ぐぅっ…!」


両手と、喉と、左胸。


遠くからでも分かる程の穴が、お爺ちゃんに空いた。



「に、げ…」


音の出ない喉を使い、それでもなお声を出した。


それを最後に、力を失ってお爺ちゃんは倒れていった。



「お爺ちゃ__」


僕は、倒れるお爺ちゃんを受け止めようと走り出し、






「ジジイ!!!」


急に吹いた『突風』で、思わず後ろに倒れた。



お爺ちゃんは、ーーーーがしっかりと抱きかかえていた。




「おい!!ジジイ!!

__てめぇら!何しやがった!!」



その瞬間、周りの空気が『滲んだ』。



そういえば、先ほどから後ろの熱を感じない。

後ろを見ると、村から上がる炎が消えていた。



ーーーーが村の炎を、風で全て巻き取っていた。





「何って、だから『救い』ですってばぁ。


…はぁ、同じこと言うの、嫌いなんですけどねぇ、ホントに」



縛れ(スネア)



その言葉と共に、僕の足は全く動かなくなった。


男が数歩ほど歩き、僕の元に来てーーーーに話しかけた。



「ーーーー、ワタシと一緒に来ていただけますかねぇ?

来てくれないと、もう少し『救い』の用意が必要になりそうなぁんですが」




僕だ。

僕がいるから、ーーーーは躊躇っている。


僕がいなければ、ーーーーは、こいつを倒せる。




僕は動く上半身を捻り、男の腰のあたりにあった短剣を抜き取る。


「ありゃ?」


男が間抜けな声を出したが、関係ない。


僕はその短剣を自分の喉に突き刺__




せなかった。



僕に向かって吹いた風が、僕の短剣を巻き取って遠くへ飛ばした。





「ガキは、離せ。

…アタシが着いていくから」


周囲の空気はまだ滲んでいる。


おそらく、僕の安全が担保された瞬間に相手を倒せるように、『何か』を仕掛けているのだろう。




「おぉ〜、怖いですねぇ。

『今すぐでもワタシを殺したい』って顔に書いてありますよぉ?」



「ガキを、離せ。

…頼む」




嫌だ。

僕がいるせいだ。


強くもない、賢くもない僕が、強くて賢いーーーーの足を引っ張っている。



「じゃあ、『救い』の為に場所を変えましょうかねぇ__」



扉を開けよ(アペリオ・ポルタ)








__暗い。

何も見えない。


僕たちはどこかに飛ばされたようだ。



ふと、風が僕を撫でた。




「テメェ…なんでガキを連れて来やがった…!」


ーーーーの声だ。



「いやぁね、ほら、アナタこの子がいないとワタシを殺しちゃうでしょう?

アナタを『リーン』に送るまで、ちょっとした保険ですよぉ__



なんて、ね」



男はそういうと、


明滅せよ(エクスアニマ)


何かの魔法を唱えた。






急に僕の全身から力が抜けた。

全身を襲う『死』の寒気に、意識が遠くなる。


それと同時に、

カチ、と音がした。



辺りが明るくなり始める。

地面に、壁中に描かれた魔法陣が輝き周囲を照らしてゆく。




「おい!!何しやがったんだ!!」


ーーーーが叫ぶ声が、随分遠く聞こえた。

まるで、魂だけが遠くに飛ばされているような感覚だった。



「おい!死ぬな!!目を覚ませ!!

__『カイ』!!!」





それ以降の言葉は、聞こえなかった。






ーーーーは、多分今、僕を抱きしめてくれていると思う。


__だって、もう、寒気が無くなったから。




光が、強くなっていくのを感じる。


__でも僕はもう、何も見えない。





身体のどこかに、温かいものがつたうのを感じた。



__泣かせちゃって、迷惑かけて、ごめん。





でも__




__最後に名前を呼んでくれて、嬉しかった





__いつも愛情をたくさんくれて、嬉しかった





__ありがとう、だいすきだよ





__『アミティア』




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