異世界で悪役令嬢の取り巻きのモブの私が、男装公爵の秘密を守っていたら逆ハーレムになりました 〜アレクシスルート:偽りを超えた真実の愛〜
異世界で悪役令嬢の取り巻きのモブの私が、男装公爵の秘密を守っていたら逆ハーレムになりました
〜アレクシスルート:偽りを超えた真実の愛〜
あらすじ
乙女ゲームの世界にモブ侍女として転生した私。
悪役令嬢アリシアが実は男装していることを知ってしまった。
その理由は、200年前の血の盟約――
「ヴェルナー家の長女は、必ず王子と婚約せよ」
盟約を破れば、領地は崩壊し、領民が死ぬ。
彼は生まれた時から女として育てられ、18年間、偽りの人生を生きてきた。
秘密を守ると誓った私は、いつしか彼の孤独に触れ、
本当の彼を知りたいと願うようになる。
だが、断罪イベントの日、すべてが暴かれようとしていた――。
これは、偽りを超えた真実の愛の物語。
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プロローグ:目覚めと記憶
目が覚めると、見覚えのない天蓋付きのベッドがあった。
「……ここは?」
体を起こすと、豪華な装飾が施された寝室が目に入る。壁には大きな鏡、窓からは美しい庭園が見える。そして、鏡に映る自分の姿――栗色の髪、緑の瞳、見慣れない侍女服。
記憶が一気に流れ込んできた。
私は日本で働くOLだった。27歳、独身、毎日終電で帰る生活。ある日、会社で倒れて、気がつけばこの世界にいた。
ここは、前世でプレイした乙女ゲーム『恋する王立学園〜薔薇と剣の誓い〜』の世界。私はモブキャラクターの侍女、エリナ・ロゼッタとして転生していた。
「嘘でしょ……本当に転生したの?」
ゲームの知識が頭の中で整理される。主人公は平民出身の少女で、王立学園に特待生として入学し、五人の攻略対象――第一王子、騎士団長、策略家の貴族、神官、そして自由人の芸術家――と恋に落ちる。
そして、彼女の前に立ちはだかるのが悪役令嬢アリシア・フォン・ヴェルナー。私が仕える主人だ。
アリシアは高慢で冷酷な令嬢として描かれ、主人公を陥れようとするが、最終的には断罪イベントで婚約破棄され、領地へ追放される運命にある。
「でも、私はただのモブ……アリシア様に従って、静かに暮らせば大丈夫なはず」
そう思っていた。
だが、その日の夜、私はアリシアの部屋で着替えを手伝う際に、信じられない光景を目にすることになる。
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ドレスを脱いだアリシアの胸元には、何もなかった。
コルセットの下から現れたその身体は、明らかに男性のものだった。筋肉質な胸板、引き締まった腹筋。
「……あ」
声が漏れた。
アリシアが――いや、彼が振り返る。その瞳には、鋭い殺気が宿っていた。
「見たな」
低い声。女性のものではない、男性の声だった。
私は凍りついた。声も出ない。体が震える。
「お前を殺すか、口封じの魔法契約を結ぶか、選ばせてやる」
彼は傍らの剣を手に取った。本物の剣だ。刃が月明かりを反射して鈍く光る。
「ま、待ってください! 私は何も言いません! 誰にも話しません!」
「信用できない。お前は昨日来たばかりの新入りだ。どこの馬の骨とも知れぬ侍女を、なぜ信用できる?」
「本当に、本当に何も言いません! お嬢様の秘密は守ります! お願いします、殺さないでください!」
私は必死に訴えた。死にたくない。この世界で、やっと新しい人生を歩み始めたばかりなのに。
彼はしばらく私を見つめた後、深く息を吐いて剣を下ろした。
「……魔法契約を結ぶ。お前は私の秘密を誰にも話してはならない。家族にも、友人にも、恋人にも。たとえ拷問されようと、死の淵に立とうと、決して口にするな。違反すれば、即座に命を失う」
「は、はい……承知しました」
彼が呪文を唱えると、魔法陣が浮かび上がり、私の胸に複雑な紋様が刻まれる。熱さと冷たさが同時に押し寄せ、心臓が締め付けられるような感覚があった。
「契約は完了した。お前は今、私の秘密に縛られた」
「……」
「私の本当の名はアレクシス・フォン・ヴェルナー。お前が知るべきはそれだけだ」
「アレクシス……様」
彼は疲れたように椅子に座り、窓の外を見つめた。
「もう下がれ。そして、忘れろ。今夜見たことは、なかったことにしろ」
「はい……」
部屋を出ようとした時、彼の声が背中に届いた。
「……すまない」
振り返ると、彼は月を見上げていた。その横顔は、どこまでも孤独に見えた。まるで、世界中の誰とも繋がっていない、たった一人で生きているかのような――。
私は何も言えず、部屋を後にした。
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第一章:秘密の重さ
翌朝、私は震える手で朝食の支度をしていた。
昨夜の出来事が夢ではなかったことを、胸の魔法刻印が証明していた。服の下、心臓の上に刻まれた紋様が、微かに熱を帯びている。
「エリナ」
アレクシス様が部屋に入ってきた。いつも通りのドレス姿、完璧に結い上げられた金髪、冷たく美しい令嬢の仮面。
「はい」
「昨夜のことだが……話がある。執務室へ来い」
「かしこまりました」
私は彼に従い、執務室へ向かった。扉が閉まると、彼は椅子に座り、私を見つめた。
「お前は、なぜ私が女として生きているのか、疑問に思わないのか?」
「それは……お嬢様の、いえ、アレクシス様のご事情があるのだと」
「話そう。お前は秘密を知った以上、理由も知る権利がある。でなければ、お前は私を化け物だと思い続けるだろう」
アレクシス様は、静かに語り始めた。
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「200年前、グランヴェール王国とヴェルナー公爵家の間に、血の盟約が結ばれた」
アレクシス様の声は淡々としていたが、その奥に深い疲労が滲んでいた。
「当時、王国は内戦の危機にあった。王家と公爵家が対立し、国が二つに割れかけていた。何万もの民が戦火に巻き込まれ、飢餓と疫病が蔓延した」
「……」
「それを止めるために、当時の王と公爵は、魔法による絶対的な盟約を結んだ。『ヴェルナー家の長女は、必ず王家の第一王子、または第一王女と婚約すること』。これにより、両家の血縁が保たれ、二度と対立が起きないようにした」
「それは……普通の政略結婚とは違うのですか?」
「全く違う。これは魔法的強制力を持つ契約だ。盟約を破れば、ヴェルナー家の領地を守る魔法結界が崩壊し、魔物が侵入する。領地には10万人以上の民が暮らしている。彼らは皆、一晩で死ぬ」
私は息を呑んだ。
「18年前、私が生まれた時、母は難産で命を落とした。最後の力を振り絞って私を産み、そして息絶えた」
アレクシス様の声が、わずかに震えた。
「生まれたのは男児――私だ。父は絶望した。盟約には『長女』と明記されている。男児では、盟約は成立しない」
「それで……」
「父は選択を迫られた。『長女がいない』と公表すれば、盟約は破られ、領地は崩壊する。10万の民が死ぬ。あるいは……」
彼は私を見た。
「生まれた男児を、『長女アリシア』として届け出るか」
「……」
「父は後者を選んだ。私を女として登録し、女として育てることを決めた。母の最期の願いも、『この子を生かして』だったそうだ」
アレクシス様は立ち上がり、窓辺に歩み寄った。
「生まれた時から、私は女として育てられた。物心つく前から、ドレスを着せられ、髪を伸ばされ、女言葉を教え込まれた。周囲の使用人にも、魔法契約で口を封じた」
「……」
「5歳の時、初めて気づいた。自分が他の男の子と違うことに」
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「父上、僕は……男の子なのに、どうして女の子の格好をしているの?」
幼いアレクシスは、ドレスの裾を握りしめて父に尋ねた。
父ヴィクトル・フォン・ヴェルナーは、執務室の椅子から立ち上がり、息子の前に膝をついた。
「アレクシス、お前にはまだ難しい話かもしれないが、よく聞きなさい」
「うん……」
「お前はこの家の、いや、この領地の全ての人々の命を背負っている」
「命……?」
「お前が女として生きることで、何万もの人々が守られる。お前が男であることを知られれば、盟約が破られ、魔物が領地を襲い、皆死んでしまう」
幼いアレクシスは、父の深刻な表情を見つめた。
「僕が……女の子じゃなくなったら、みんな死んじゃうの?」
「そうだ。お前の母も、お前を守るために命を落とした。お前は、母の命と、10万の民の命を背負っている」
幼いアレクシスは、泣きたい気持ちを必死に堪えた。涙を流せば、父が悲しむ。
「わかった……僕、ずっと女の子でいる。ママと、みんなを守る」
父は息子を強く抱きしめた。その腕が震えていた。
「すまない……本当にすまない。お前に、こんな運命を背負わせて」
「ううん、大丈夫。僕、強くなるから」
その日から、アレクシスは自分の性別を隠し、完璧な令嬢になるための訓練を始めた。
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「それから13年間、私は女として生きてきた」
アレクシス様の声には、諦めと疲労が滲んでいた。
「礼儀作法、舞踏、刺繍、ピアノ。全て完璧にこなした。令嬢として恥ずかしくないよう、誰よりも優雅に、誰よりも美しく振る舞った」
「……」
「だが、15歳の時、第二次性徴が始まった。声が変わり始め、髭が生え、体つきが男性的になっていく」
彼はシャツのボタンを外し、肋骨の周りに残る痣を見せた。紫色に変色した皮膚が、彼の苦痛を物語っていた。
「それを隠すために、毎朝4時に起きて髭を剃り、コルセットで体を締め上げ、胸に詰め物をし、声を高く保つ訓練を続けた。一日18時間、このコルセットを着けている」
「それは……」
「痛かったよ。コルセットは肋骨に食い込み、呼吸が苦しい。食事もまともに取れない。鏡を見るたびに、自分が何者なのか分からなくなった」
彼は窓の外を見つめた。
「でも、やめられない。やめれば、10万の民が死ぬ。母の命も、父の願いも、全て無駄になる」
「アレクシス様……」
「18年間、私は本当の自分を殺してきた。誰にも本当の姿を見せず、誰にも本音を言わず、ただ女として完璧に振る舞ってきた」
彼は私を見た。
「お前は、側近の三人以外で、初めて秘密を知った人間だ」
「……」
「だから聞く。お前は、私をどう思う? 化け物だと思うか? 気持ち悪いと思うか?」
私は首を横に振った。
「いいえ。あなたは……とても強い人だと思います」
アレクシス様は、少し驚いたような顔をした。
「強い?」
「18年間、誰にも本当の自分を見せず、10万もの人々の命を守るために生きてきた。それは、誰にでもできることじゃありません。私には、とてもできません」
「……」
「あなたは、英雄です。誰も知らない、誰も褒めてくれない、孤独な英雄です」
アレクシス様は、しばらく黙っていた。そして、ゆっくりと目を閉じた。
「……ありがとう。そんな風に言ってくれる人間は、初めてだ」
「私は、あなたの秘密を守ります。絶対に」
私は深く頭を下げた。
アレクシス様は、小さく笑った。
「ありがとう、エリナ。お前がいてくれて……少し、救われた気がする」
それは、初めて見る彼の本当の笑顔だった。
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第二章:偽りの日常と本当の絆
それから、私とアレクシス様の関係は少しずつ変わっていった。
昼間は、彼は完璧な悪役令嬢アリシアとして振る舞う。高慢で冷酷、誰にも心を許さない氷の令嬢。主人公に嫌味を言い、取り巻きの令嬢たちを従え、学園中から恐れられる存在。
だが夜、誰もいない部屋では、彼はアレクシスに戻る。
「ああ……やっと外せる」
ドレスとコルセットを脱ぎ、ズボンとシャツに着替えた彼は、深く息を吐いた。肋骨に残る赤い痕が痛々しい。
「毎日18時間、これを着けているんですね。本当に、よく耐えられます」
「慣れた。というより、慣れるしかなかった」
彼は窓辺に立ち、月を見上げた。
「エリナ、少し付き合ってくれないか」
「はい?」
「剣の稽古だ。昼間は女として振る舞っているから、思い切り剣を振るえない。夜だけが、唯一本当の自分でいられる時間なんだ」
「かしこまりました」
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中庭で、アレクシス様は剣を構えた。
月明かりの下、彼の動きは流れるように美しかった。一振り、また一振り。剣が風を切る音だけが、静寂を破る。
「すごい……」
「父に習った。『いつか自由になった時のために、お前の本当の力を磨いておけ』と言われてな」
彼は剣を振るい続けた。汗が額を伝い、シャツに染み込む。
「アレクシス様」
「なんだ?」
「あなたは、自由になりたいですか?」
彼は剣を止めた。
「……分からない。18年間、檻の中で生きてきた。自由が何なのか、もう分からないんだ」
「でも……」
「ただ一つ、確かなことがある」
彼は私を見た。その瞳には、月の光が映っていた。
「お前と話していると、少しだけ、檻の外の空気を感じられる気がする」
私の胸が高鳴った。
「私も……アレクシス様と話していると、この世界で生きている実感があります」
「……そうか」
彼は、また剣を振り始めた。だが、その動きは以前より軽やかに見えた。
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それから、夜の時間は私たちだけの特別な時間になった。
アレクシス様は剣を振るい、私は傍で見守る。時には、彼が昔の思い出を語ることもあった。
「10歳の時、初めて社交界に出た。皆が私を『美しい令嬢』と褒めた。だが、私は鏡を見るたびに吐き気がした」
「……」
「12歳の時、初潮の演技をしなければならなかった。使用人に血を用意させ、苦しむふりをした。あれは、最も屈辱的な日だった」
「辛かったんですね」
「ああ。だが、やらなければならなかった。女として完璧でなければ、疑われる」
彼は剣を鞘に収めた。
「お前には、全て話せる。不思議だな」
「それは……私が、アレクシス様のことを大切に思っているからです」
彼は驚いたように私を見た。
「大切……?」
「はい。あなたは孤独でした。でも、もう違います。私がいます」
アレクシス様は、ゆっくりと微笑んだ。
「ありがとう、エリナ」
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だが、平穏な日々は長くは続かなかった。
学園で、カイル・アッシュフォード騎士団長がアリシアを呼び止めた。
「アリシア嬢、少しよろしいか」
「何かしら、カイル様」
「先日の剣術の授業だが……あなたの剣捌き、ただ者ではありませんでしたね」
アレクシス様の表情が一瞬強張った。だが、すぐに冷たい笑みを浮かべた。
「私は公爵家の令嬢ですもの。護身術くらいは習っています」
「いや、あれは護身術の域を超えている。まるで……男性騎士のような、実戦的な動きでした」
「失礼ですわ。私を男だとでも?」
「いえ、そうは言っていません。ただ……」
カイルは鋭い目で彼を見つめた。
「あなたには、何か隠していることがあるのではないかと」
「妄想も大概になさい。私には隠し事などありません」
アリシアは冷たく言い放ち、その場を去った。
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その夜、アレクシス様は苛立っていた。
「カイルは勘が鋭い。あの男、戦場で数多の敵を見抜いてきた歴戦の騎士だ。気をつけないと」
「大丈夫です。私が守ります」
「お前が?」
「はい。どんなことがあっても、あなたの秘密は守ります」
彼は私を見つめた。
「……なぜ、そこまでしてくれる?」
「それは……」
私は、自分でもよく分からなかった。ただ、彼を守りたいと思った。孤独な彼を、一人にしたくないと思った。
「あなたが、大切だからです」
アレクシス様は、少し驚いたような顔をして、それから優しく微笑んだ。
「ありがとう、エリナ。お前は……私にとって、唯一の光だ」
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第三章:断罪イベント
そして、運命の日がやってきた。
学園の大広間に、全校生徒と教師が集められた。何事かと騒めく生徒たち。壇上には、第一王子レオンハルト・フォン・グランヴェール、そしてアリシア――アレクシス様が立っていた。
私は使用人席から、固唾を呑んで見守った。
「静粛に」
レオンハルトの声が響き、会場が静まり返った。
「本日、皆を集めたのは他でもない。重大な告発があったからだ」
彼はアリシアを見た。
「アリシア・フォン・ヴェルナー、あなたに告げることがある」
「何でしょうか、レオンハルト様」
アレクシス様は、完璧に冷静だった。
「あなたは、婚約者である私を裏切り、他の男性と密通していた。証拠もある」
彼は手紙を掲げた。
「これは、あなたが貴族の男性に送った恋文だ。筆跡鑑定も済んでいる」
会場がざわめいた。
「まあ、アリシア様が浮気を!」
「信じられない!」
だが、アレクシス様は動じなかった。
「それは偽造です」
「偽造だと? では、この手紙を書いたのは誰だ?」
「私ではありません」
「証拠はあるのか?」
その時、私は席を立った。
「あります!」
会場の視線が一斉に私に集まった。使用人が口を挟むなど、前代未聞のことだった。
「あなたは?」
「アリシア様付きの侍女、エリナ・ロゼッタです」
「侍女が何を言うか」
「その手紙は、確かにアリシア様の筆跡に似ていますが、決定的な違いがあります」
私は壇上に上がり、手紙を受け取った。手が震えていたが、声は必死に絞り出した。
「アリシア様は、手紙を書く時、必ず文末に小さな薔薇の印を入れます。これは、亡き母君から教わった習慣で、幼い頃から続けているものです。でも、この手紙にはそれがありません」
「それだけでは証拠にならない」
「ならば、筆圧を見てください。アリシア様は左利きですが、この手紙は明らかに右手で書かれています。インクの滲み方、線の引き方、全てが右利きの特徴を示しています」
カイル・アッシュフォードが手紙を受け取り、仔細に調べた。
「……確かに、右手で書かれている」
「さらに、魔力の痕跡を調べれば、誰が書いたか分かるはずです」
レオンハルトは宮廷魔法使いを呼び、手紙を鑑定させた。
老魔法使いは、手紙に魔法をかけ、しばらく調べた後、顔を上げた。
「……この手紙には、アリシア嬢のものではない魔力が残っています」
「では、誰の魔力だ?」
「それは……貴族の男性、クリストファー・ハートレイ様のものです」
会場が再び騒然となった。
「クリストファー! お前が偽造したのか!」
壇上の隅に立っていた若い貴族が、顔を青ざめさせた。
「ち、違います! 私は……」
「では、なぜお前の魔力が手紙に残っている?」
「それは……」
クリストファーは言葉に詰まった。
カイルが彼の部屋を調べさせると、アリシアの筆跡を練習した紙が大量に見つかった。彼は、アリシアを陥れるために偽造手紙を作ったのだ。
「クリストファー・ハートレイ、貴様は王家への反逆罪で拘束する」
騎士たちが彼を取り押さえた。
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「アリシア、申し訳なかった」
レオンハルトは深く頭を下げた。
「あなたを疑ってしまった」
「……構いません」
アレクシス様は、冷たく答えた。
「ですが、私からも一つ、言わせていただきます」
「何だ?」
「私は、あなたと婚約を続ける気はありません」
会場が静まり返った。
「理由を聞かせてもらおう」
「私は、18年間、血の盟約に縛られて生きてきました。ですが、もう限界です」
アレクシス様は、ゆっくりとドレスの胸元に手をかけた。
「私は……女ではありません」
会場が息を呑んだ。
彼はコルセットを緩め、詰め物を取り出した。現れたのは、男性の胸板だった。
「私の本当の名は、アレクシス・フォン・ヴェルナー。18年前、男児として生まれましたが、血の盟約のために女として育てられました」
「そんな……」
レオンハルトは絶句した。
「盟約を守るために、私は自分を殺してきました。毎日コルセットで体を締め上げ、髭を剃り、声を偽り、女として完璧に振る舞ってきました。ですが、もう終わりにします」
アレクシス様は、私を見た。
「エリナ、お前がいなければ、私はこの決断をできなかった。ありがとう」
「アレクシス様……」
「私は、お前と共に生きたい。それが、私の選んだ自由だ」
会場は静まり返っていた。誰もが、この衝撃的な告白に言葉を失っていた。
レオンハルトは、しばらく考え込んだ後、口を開いた。
「……分かった。盟約を改定しよう」
「改定?」
「ヴェルナー家の後継者が、性別に関わらず家督を継げるように。そして、婚姻は任意とする。これで、お前は自由だ」
「それは……」
「私も、あなたを縛り続けるのは間違っていたと思う。200年前の盟約は、時代に合わせて変えるべきだ。あなたは自由に生きるべきだ」
アレクシス様は、深く頭を下げた。
「ありがとうございます、レオンハルト殿下」
会場は、やがて拍手に包まれた。
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エピローグ:偽りを超えて
それから二週間後。
アレクシスは、正式に男性として認められ、ヴェルナー公爵家の当主となった。血の盟約は王家によって改定され、彼は18年間の呪縛から解放された。
そして今、彼は私の前に立っている。庭園の薔薇が咲き誇る中で。
「エリナ」
「はい」
「お前に、渡したいものがある」
彼は小さな箱を差し出した。
開けると、美しい指輪が入っていた。月の光を宿したような銀の指輪。
「これは……」
「婚約指輪だ。お前がいなければ、私は今でも偽りの人生を生きていた。お前が、私を救ってくれた」
「アレクシス様……」
「私と共に、新しい人生を歩んでくれないか? もう偽る必要はない。本当の自分として、お前と生きていきたい」
私は涙を流しながら、頷いた。
「はい……喜んで」
彼は優しく微笑み、指輪を私の指にはめた。
「ありがとう、エリナ。お前は、私の光だ」
「こちらこそ……ありがとうございます」
月明かりの下、私たちは抱き合った。
偽りを超えた、真実の愛を胸に。
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(おわり)
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ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
本作は全7ルート展開の第一弾です。同じ世界で、エリナが別の選択をすると、どんな物語が生まれるのか――それを描いていきます。
次に読みたいルートを教えてください。
1) レオンハルトルート(氷の王子)
2) カイルルート(騎士団長)
3) フェリクスルート(策略家)
4) セラフィムルート(神官)
5) 逆ハーレムルート(全員選択)
6) 友情ルート(恋愛なし)
感想、好きなシーン、希望ルートなど、一言でも嬉しいです。
評価・ブックマークもお待ちしています。
次の物語でお会いしましょう。
作者より、感謝を込めて。
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