表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/18

15話 波乱の舞踏会

『貴女、そのドレスは何?』

『これ見よがしに殿下の髪と目と全く同じ色……なんて図々しいこと』

『最近は平民にまで擦り寄っていると聞きましてよ?見境が無いのもいい加減になさいまし』


 原作第九章『運命の舞踏会』の冒頭のシーン。

 元婚約者に夜逃げされたシェイラは、ついにパートナーを見つけられないまま王宮のパーティに参加することになる。

 夜逃げのショックのあまりドレスの準備もままならないでいたところ、ある日突然匿名でドレスが送られてきて、不思議に思いながらもそれを着ることにしたシェイラ(何故かサイズもピッタリと合っていた)。

 しかしそれが偶然にもレオネクス国第一王子フレデリックの髪と目の色と全く同じであったことで、以前より王子に度々声をかけられていたシェイラを妬んでいた令嬢達により取り囲まれ、糾弾が始まってしまう。

 これは親切な誰かが匿名で送ってくれたドレスだとシェイラが訴えるも、聞き入れられることはなく。


『そんな図々しいドレス、こうしてあげるわ!』


 令嬢達の一人がワイングラスを掲げ、シェイラに投げつけようとしたその時。


『おや、これはいったいどういうことだい?……僕が贈ったドレスに何か問題でも?』

『フ、フレデリック殿下!?』


 煌めく金髪と鮮やかな青い目のフレデリック第一王子が、ワイングラスを弾き落とし、シェイラの目の前に立っていた——。



 ◆◆◆



「貴女、そのドレスはなに?」

「これ見よがしに青や金から遠い色……私達とは違うことをよっぽど自慢したいようね」

「そんなワザとらしいドレス、こうしてくれるわ!」


 パーティ会場の片隅にて。淡いピンクを纏った一人の少女に向かい、ワインで満ちたグラスが宙を舞った。


「危ないっシェイラ!」

「クロード!」


 原作と違うのに同じだなぁ、と思いながら、クロードがワインで濡れて張り付いた髪を片手でかき上げた。もう片方の手には何とかキャッチした空のワイングラスが握られている。

 弾き落とすなんてとんでもない。これ一つでいくらすると思ってる。


「大丈夫!?クロード」

「ああ、少し髪が濡れただけだ」


 心配げに顔を覗き込むシェイラに頷き返し、何事もなかったように近くの給仕を手で呼んでワイングラスを託す。

 それにしても、王子という存在はこうも年頃の女性を狂わせるものなのか。原作では王子の髪と目の色と同じドレスであったことで絡まれていたシェイラだが、今は全く違う色のドレスであるのに同じことになってしまった。

 なんと王子の目の青も髪の金もどこにも使わず、近い色ですらなかったそのドレスが『逆にワザとらしい』とのことで、令嬢達に責め立てられてしまったのだ。

 言われてみれば他の年頃の令嬢達のドレスはあの原作表紙のドレス程ではないものの、青や金を一部に取り入れたり、それに近い色のものが多い。

 パートナーの色を身に纏うというのは古い慣習であるが、最近は女性側からさりげなく好意を示す手段として、意中の人の色を身に纏うという新しい流行もあると聞く。

 フレデリック王子の成人を祝するパーティとなれば、暗黙の了解でその妃選定の側面もある。よって、王子に憧れる令嬢達は皆精一杯アピールをする。

 そんな中シェイラの『不自然なまでに一切のアピールをしない』装いは、『そんなことをしなくても王子は私を見てくれる』と自慢しているに他ならない……らしい。

 パーティが始まる前に修羅場が始まってしまった。給仕か城の使用人にでも間違えられたのか、隣にクロードというパートナーがいたというのにお構いなしである。

 ただ取り囲む令嬢達の中にリリーアンヌはいないことだけは救いだったが。

 しかし王子は何をしている。いちゃもんの細かい内容は変わったとはいえ、原作通りのイベントならば王子が助けに来てもいいはずなのだが。


「……シェイラ?これはいったいどういうことだい?僕が贈ったドレスは……」


 そうクロードが思った途端、ニュアンスはだいぶ変わるが原作に近い台詞が飛び込んで来た。


「フレデリック殿下!」


 シェイラの言葉に、クロードは背後の気配が予想通りの人物であると悟った。


「ご挨拶が遅れ申し訳ございません、フレデリック殿下。この度はご成人、誠におめでとうございます。そして……改めて紹介させてください。こちら、クロード・ウィズボーン。つい先日、ようやく正式な承認が降りまして……正真正銘、私の婚約者となりました!」


 フレデリックに会えたことより、クロードを正式な婚約者と呼べることの方がよっぽど嬉しいらしい。

 シェイラはかつてカフェでもした紹介をそれは誇らしげに繰り返した。


「……再びお目通り叶いましたこと、光栄に存じます。クロード・ウィズボーンです。ご成人、お祝い申し上げます」


 シェイラに続いて頭を下げながらも、クロードは静かに警戒しつつ王子の様子を窺った。


「まあまあまあ!なんて素敵な光景でしょう!」


 クロードが顔を上げるより先に、聞き覚えのある声が頭上に降りかかった。


「あい変わらず、お似合いのお二人ですわ。ねぇフレデリックさま? わたくし達を見ているようで……」

 

 リリーアンヌ・ティグレス。家柄と身分においてこの場で王子に次ぐ存在。

 シェイラを取り囲んでいた令嬢たちの輪には入っていなかった最有力妃候補が、王子の後ろから優雅に姿を現した。

 どうやら彼女はパーティの最初からフレデリックのそばを離れていなかったらしい。


「リリーアンヌ様!ありがとうございます!」


 ここ最近、リリーアンヌへの評価が天井を突き抜けているシェイラがはしゃいだ声を上げる。


「ええ、ええ。本当に、おめでたいことでしてよ、シェイラ様。ようやくご自身の分というものを理解されたようで……今後は、決して余計な——」


 しかし、その続きは驚く程冷たい声にかき消された。


「そこまでだ。ティグレス公爵令嬢。僕はこれまで一度として君の振る舞いを許した覚えはない」


 いつものように妃のごとく振る舞うリリーアンヌへ、フレデリックがピシャリと言い放つ。

 その氷のような冷たさに誰もが言葉を失い、その場の全員の視線が王子へと吸い寄せられた。


「ふふ、君は本当に面白いね、シェイラ。くるくる変わるその表情も、突拍子もない行動も、いつだって僕を飽きさせない」


 リリーアンヌへ向けた冷たい声とは打って変わり、甘い声でシェイラに向かって語りかけるフレデリック。しかしその瞳はまるで獲物を逃さない猛禽のように鋭く、熱を帯びている。


「でも……今回はちょっとだけ、うん、“あわてんぼう”が過ぎたかな?まさか――“運命の人”が迎えに来る前に、間違った者の手を取ってしまうだなんて」

「……?申し訳ありません、どういう意味なのか……クロード以外の人なんて、私には」


 相変わらずの婉曲的な表現に、それでも聞き流せなかったのか、シェイラが怪訝そうに問いかけた。

 それと同時に、会場の奥から華やかな音楽が流れ始める。パーティ開始の合図だ。


「君は忘れているよ。その男よりもっと近くにいる……"運命の人"を。さぁ、思い出させてあげよう」


 不穏な台詞を言い放ち、王子は踵を返した。慌てて追いかけるリリーアンヌには目もくれずに、国王達の居る壇上へと向かって行く。


(なんだ……?何をする気だ……?)


 遠くなる背中を見送りつつ、クロードは己の背筋が寒くなるのを感じた。

 壇上にはすでに国王と王妃が並んでおり、音楽の調子が変わった。場内のざわめきが静まり返る。


「——今宵、皆が我が子フレデリックの成人を祝うために参じたこと、喜ばしく思う」


 最初は国王、次に王妃、最後にフレデリックによる挨拶をしてパーティが始まる予定だ。

 しかし、王子はそこで何かをしようとしているらしい。


(今さらシェイラに告白でもするつもりか?黒歴史になるだけだろ)


 自信過剰な王子のことだ、愛を伝えさえすればシェイラは喜んで自分の元に来ると思っているのかもしれない。

 だがそんなことはあり得ない。例え王子の気持ちに気づいたとしても、今さらシェイラがクロードから王子に乗り換えるわけがないと胸を張って言える自信がクロードにはある。


「クロード……」

「大丈夫だ、シェイラ。でも一応離れないでいてくれ」


 王子の狙いはわからずとも何かを感じ取ったのだろう、不安げな様子を見せるシェイラにクロードは安心させるように微笑んだ。

 壇上では王妃の挨拶が終わり、王子が進み出ている。


「フレデリック・レオネクスだ。今日は僕のためによく集まってくれたね。今宵、僕は成人を迎えたことで正式に王太子として認められるわけだけど、まあ、これはわかりきっていたことだからね。伝えたいことは別にある」


 大丈夫。妨害策は全て跳ね返した。クロードとシェイラはもう名実ともに婚約者であるし、リリーアンヌも健在だ。万が一のときはすぐにシェイラを連れて逃げられるよう、ダイキチも待機させている。

 今更王子がどんなにシェイラを望もうと、それが許される状況ではない。


「君たちには、証人になって欲しいんだ。今から僕が言うことに対して。無かったことになんかさせないために、ね」


 そこでフレデリックがシェイラの居る方向に向かってふわりと微笑んだ。無意識に後ずさったシェイラを庇うように、クロードが半歩前に出る。

 そんなクロードを憎々しげに睨みつけたあと、すぐに皮肉るような笑みを浮かべ、王子は次の瞬間高らかに宣言した。


「この僕、フレデリック・レオネクスは……"悪しき商人"クロード・ウィズボーンに囚われた"姫"、シェイラ・プリムローズを解放し……彼女を生涯ただ一人の妃として愛することを、獅子神レオンクールの名に、誓う」

さあどうなる…!?


最後まで応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
 キショいし話が通じない奴は本当ウザいんですよ思わず真顔になったじゃねーか。  でもどんな展開になるかはちょっと胸が踊っているw
明日、完結なんですね!楽しみです〜!
 婚約者の居る令嬢にプロポーズするなんて、暴君のすることだなあ。やっぱり裏で糸引いている奴居るだろ。正式に落とすために  リリーアンヌと言い王子と言い、平民を馬鹿にして居るなあ。  シェイラに気持ちを…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ