第8話 皇帝
皆さん御覧いただいてありがとうございます。
こんな好き勝手な話ですが、何卒お付き合いのほど。。。
あと、気に入られたら評価を頂けますとうれしいです。
ノーグ大陸の西部に、かつてアイゼンという国があった。今はもうない。百五十年前に滅び去った。
広大な平原を領有し、強力な騎馬隊で武勇を誇った大国だったが、現在では古い地名に名残を留めるだけだ。国の存亡を巡って激戦が繰り広げられたという王城の跡地は市民公園になっており、陸上競技大会の開催地として知られている。
しかし今の大陸に暮らす者にとって、アイゼンの名は特別な意味を持つ。とうの昔に滅んだ国にも係わらず、誰に聞いても名を知らない者はいない。
昔話、学校の授業、教会の訓話、この大陸の過去を語ろうとする時、アイゼンの姿は必ず現れる。
当然だ――アイゼンは抜きんでた軍事力をもって、他国を次々と併呑し、大陸全土の支配にあと一歩まで迫った。
そして、歴史上初めて現れた後継者によって倒された国だからだ。
当時の大陸には、大小さまざまな国がひしめいていた。武力による領地の奪い合いは日常茶飯事であり、力をつけた臣下が王を裏切ることも当たり前だった。他者を蹴落とし図抜けた一国になるべく、各国はお互いの様子を虎視眈々と伺っていた。
アイゼンにサウマン帝が即位したのは、そんな時である。弱冠二十二才だった。
彼は若く怜悧な資質を持っていたが、心中は猜疑心に満ちていた。現在に残る肖像画でも、その目は異様に鋭い。理由は戴冠までの経緯にあった。彼の家は弱小の傍系であり、およそ王に選ばれる家柄ではない。有力貴族たちが擁立を巡って争った結果、いつでも挿げ替えられる妥協としての皇帝であり、彼自身もそれを理解していた。
皇帝即位に伴う祝宴の夜、彼は一部の貴族と結託し、出席した有力貴族を皆殺しにした。
そうしなければ自分はいずれ消される、という彼の読みはおそらく正しかったが、やり方が性急に過ぎた。殺された貴族には他国の王族に連なる者も多数含まれており、隣国の王たちは激怒した。
彼らはアイゼンへ攻め込んだ。縁戚の復讐が名目であったが、貴族を躊躇なく殺したサウマン帝を、彼らは何より危険視したのである。
懸念は正しかった。攻め込んだ彼らの軍は、待ち構えていた大軍によって一蹴された。頭目を失った貴族たちの勢力を、サウマン帝は混乱に乗じて速やかに掌握していたのだ。
戦いはそれで終わらなかった。貴族政治への反逆者と見なされたことを、サウマン帝は理解していた。
全ての脅威を排除すべく、彼は他国への侵略を開始した。




