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「後継者」戦線――炎の後継者  作者: 相楽一生
第一章 百五十年後
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第6話 『崩壊』の後継者と、その死③

「お前の見解は十分だ。あとは、リムトーグに軍の後継者を送ればいい」

 グランスは首を振った。

「残念ながらそうはならなかった。軍の上層部及び大臣は、これを罠だと結論した。リムトーグはさほど大きな街ではない。『崩壊』の情報をエサとして、共和国の後継者を遠隔地に誘い出し、特定または抹殺するための偽情報だと」

 サグジントは鼻を鳴らした。

「阿呆らしい。迂遠すぎるだろう」

「先の戦争の失態から、現政権への風当たりは強いなどというものではないからな。今の大臣も派閥内の力関係でいやいや割り当てられただけの無能な男だ。限られた後継者を失う、というリスクを避けたくて必死なのさ。今回は行動しないことが最大のリスクであることを理解できていない」


 グランスはサグジントを指さした。

「そこで、君だ。私は上層部に掛け合い、極めて優秀な退役軍人が探偵業を営んでいることを話した。あくまで外部への調査業務の委託として、君を送りこむことに許可を得た」


「ふざけるなよ」

 サグジントは立ち上がり、ドアを指さした。

「とっとと帰れ。間抜けな大臣のせいで軍が失敗しようが俺の知ったことじゃない。お前らの組織内で解決すべき問題だろうが」

「私はこれを、一つの機会だと考えている」

「何?」

「共和国と連邦が融和ムードなどと言ったところで、戦争で停滞した経済発展を取り戻すための一面的なキャンペーンに過ぎん。君も聞いたと思うが、『戦争は終わり、平和になった』などという演説があったが、的外れもいいところだ。あの戦争で後継者の重要性が改めて証明されてしまったせいで、ノーグ連邦と我々共和国の間で、後継者を巡る暗闘は激化する一方だ。そして後継者の所属数が極端に傾斜したとき、戦争は再び始まってしまうだろう。在野で治安維持に協力する君の姿勢には感服するが、限定的にでも現場に復帰するべきだ。より大きな視点で安全保障を考えた場合、我々の作戦に協力する方が賢明ではないかな」

「もう一度言うが、俺は軍の仕事は受けない。理屈を並べたところで、お前らが戦時中、どれだけ調子に乗って失敗したかを忘れると思うなよ。それにあの時、俺に何をしたのかもな」


 グランスは立ち上がり、頭を下げた。

「あの件では改めて謝罪する。我々の力不足で、君に大変な迷惑をかけてしまった」

 サグジントは何も言わない。

「これは個人的な依頼でもある。先も言った通り『崩壊』を連邦が確保してしまえば、両国間の関係が悪化するのは必至だが、それだけではない。一般人と後継者間の感情も更に悪化することになる。それは君の目的とも合致しないのではないか」

「……どうだろうな」


 サグジントは、グランスが応接机に置いたシガーケースから葉巻を抜き出した。サグジントにはナイフもライターもいらない。目が薄く光り、収束した炎が吸い口を炭にした。

 サグジントは炭を払って葉巻を咥え、火をつけ、煙を吐き出して言った。

「グランス、逆に質問する。仮に俺がうまくやって、『崩壊』の後継者を連れて帰ってきたとする。その裏でお前らが後継者を別からも確保していて、戦力的に優位に立ったから開戦しよう、なんてことにはならないだろうな」

「勿論だ」

「お前個人に聞いてるんじゃない、お前を軍の代表として聞いていることを忘れるな。もしそうなったら、大臣が無能だった程度の言い訳で済むと思うなよ。俺たち後継者の能力が、暗殺に最も向いていると発見したのはお前らだ。真っ先にひどい目に会うのはお前だぜ」

「判った」

 グランスは頷いた。

「最悪の事態を防ぐべく、私も全力を尽くす。君の怒りも、多少なりとも理解しているつもりだ。甘んじて受けよう」

「いいだろう、仕事を受ける。契約書と資料を大至急持ってこい。敵も後継者というなら、あの服はまだあるのか?」

「化学繊維を用いた最新型がある。同じく届けさせよう」

「明日の昼までには出る。急げよ」

「無論だ」


 グランスは立ち上がり、ドアの前で言った。

「改めて言うが、感謝している。君は私の知る限り最強の後継者だ。今日は安心して眠れそうだよ」

「俺は仕事をするだけだ。寝る暇があったらとっとと資料をまとめろ」

 ドアが閉まった。

 サグジントは葉巻を灰皿に強く押しつけて、消した。

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