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「後継者」戦線――炎の後継者  作者: 相楽一生
第一章 百五十年後
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第4話 『崩壊』の後継者と、その死①

 事後処理を終えた頃には、とうに日が暮れていた。サグジントは事務所に帰るため、近道を使うことにした。サグジントは街灯のついた道を外れ、立ち入り禁止のロープで区切られた暗がりに足を踏み入れた。


 戦争が起きるまでは、一番街と呼ばれていた区画である。サグジントはその南西部を突っ切って歩いた。他に歩いている者は誰もいない。先ほどの銀行強盗に限らず、首都全体の犯罪率が上昇してから、人気のない夜道を歩く者は少ない。

 しかし、この近道を人々が使わない理由はそれだけではない。


 一番街は廃墟と化していた。広大な区画のあちこちに、巨大な瓦礫が山をなしている。ただの廃材ではなく、磨かれた建材や明らかに高価だったであろう彫刻の破片など、歴史ある建築だったことが推察されるものばかりだ。戦争末期まで、この区画はアルトラース共和国の政治の中枢であり、内閣府、国民議会、政府運営に関わる官庁街などが密集していた。


 何があったかは、かろうじて原型を留めた建物の残骸から判る。どの建物も、屋根が大きくひしゃげたり、あるいはフロアの一部をえぐりとられて倒壊するなど、およそ自然現象ではありえない破壊の爪痕を残している。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 戦争末期、ノーグ連邦が送りこんだ災害級後継者による破壊の痕だ。


 サグジントは大陸でも限られた後継者の一人だが、災害級後継者は能力ごとに一、二名程度しかおらず、希少性と、何より破壊力は桁違いである。

 一番街の犠牲者はあらかた回収されたが、戦後の政治的混乱に治安の急速な悪化が重なり、復興は遅々として進んでいない。言うなればここは、共和国が戦争で負った傷の象徴だった。


 廃墟を抜け、しばらく歩くと、四番街の街灯の明かりが見えてきた。

 一番街が壊滅した結果、政治中枢の組織は都内の各所に分散された。四番街には官庁の一部が移転したため労働人口が増え、戦争前以上の賑わいを見せている。

 事務所に向かおうと大通りに入ると、帰途に就く政府職員や会社員に向けて、大声で叫ぶ男がいた。


「皆さん! 国境戦争で、後継者の危険性は十分に証明されました! どれほどの人が、後継者の力で命を落としたでしょうか! 彼らは我々の守護者ではない、危険な殺人者なのです!」


 サグジントは舌打ちしたい気分で男を見た。

 男はたすきをかけ、支持者らしい十人足らずの聴衆の前で叫んでいる。終戦後、急速に増えた泡沫政党の政治家らしい。次期選挙に向けた演説だろうが、不快な内容だった。

「我々の税金が後継者のために使われている! これはとんでもない無駄遣いです! もう戦争は終わった! 彼らのために使う費用など――」

 サグジントは男の声を意識から遮断し、足を速めた。


 繁華街を通り抜け、店もまばらになった裏路地に、サグジントの事務所はあった。点々と灯る酒場の明かりの一つ、客入りもそこそこのバーの二階が、「サグジント探偵事務所」だ。

 暇そうなバーテンに会釈し、階段を上る途中で、サグジントは足を止めた。事務所のドアが半分開き、光が漏れている。


 サグジントは足早に階段を上り切った。ネームプレートのついたドアを乱暴に開けると、見たくない顔がサグジントを出迎えた。


「業務ご苦労。活躍したようだな」


 一目でそれとわかる高級な仕立てのスーツに身を包んだ、切れ長の目の男は、来客用のソファに座り、葉巻をふかしていた。室内に甘い香りが漂っている。

「何の用だ」

 サグジントは応接室を横切って窓を開けた。街の生ぬるい風が吹き込み、葉巻の煙が散った。

「君が元気でやっているか心配になってね。顔を見に来た」

「暇つぶしなら別でやってくれ。俺は疲れている」

 サグジントは冷たく言ったが、男は気にせず続けた。

「先ほど報告を読んだ。武装した強盗団を単身で壊滅させ、犠牲も少数で抑えるとは、腕が鈍っておらず安心したよ。そこが懸念だったからな」

 男――アルトラース共和国陸軍・陸軍情報部戦略課、グランス大尉は葉巻を灰皿に押し付けると、膝の上で両手を組んだ。

「君に緊急の仕事を依頼したい」


「断る」

 サグジントは言った。グランスはにこやかに言った。

「誤解があるようだな。君の能力にふさわしい依頼を持ってきたつもりだよ。無論報酬もはずむ」

「金の問題じゃない。俺はもう軍の仕事は受けない」

「いや、受けてもらう」

 グランスは続けた。

「この情報を聞けば、君も我々の切迫した状況を理解してくれるはずだ」

 一拍おいて、


「『崩壊』の後継者が死亡した」


 サグジントは目を見開いた。

「本当なのか」

「事件性のない病死だったそうだ。実際の死亡日は三ヶ月前。この事実は共和国首相および軍上層部にしか知らされていない。私も知ったのは一週間前だ」

「そうか……災害級後継者が亡くなったか。共和国軍にとっては大きな痛手だろうな」

 サグジントは腕組みした。

 後継者を何名擁しているかは、軍の戦力に直接影響する。一番街の破壊痕が示すように、災害級後継者ともなれば影響はさらに大きい。

「だが、それが俺への依頼とどういう関係がある」


「次なる『崩壊』の後継者の捜索を依頼したい。ある街において」


 サグジントは眉をひそめた。

「そんなことは後継者管理局か、自治体警察の仕事だろう。何故俺に依頼する。それに、街の見当がついているだと?」

「色々と経緯があってね。説明させてもらうが、引き受ける気は満々と考えていいのかな?」

「話だけは聞いてやる。暇つぶしにな」

 サグジントはグランスの前に腰を下ろした。応接テーブルを挟んで向かい合う。

 グランスは話し始めた。


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