表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「後継者」戦線――炎の後継者  作者: 相楽一生
第一章 百五十年後
4/10

第3話 戦闘

 まず一人。

 一階のロビーで機関銃が爆発したのを確認すると、二階の窓から侵入したサグジントは身を屈めつつ、渡り廊下を疾走した。

 突然炎の塊と化した仲間に、強盗たちは驚愕して動きを止めている。

 奇襲は成功したが、人質が多いのが厄介だった。敵が混乱しているうちに、一気に片をつける必要がある。


 サグジントは手摺から身を乗り出し、ロビーを眼下に収めた。手近な強盗に目を向け、力を発動させる。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。絶叫して転げ回る。

 これでも手加減してるんだがな、とサグジントは思った。発火能力で人体の表面を炙っただけだ。本当に殺すなら体内から発火させている。

 今のサグジントは警察の立場なので、出来る範囲で人死には避ける。


「貴様っ!」

 二階にいた、ギースと呼ばれていた男がサグジントに気づいて拳銃を抜いた。

 サグジントは柵の陰に身を隠した。

 乱射された拳銃の弾が、サグジントの頭上を抜けて壁にめりこむ。サグジントは屈んだまま床を蹴った。四足獣に近いフォームで、黒い塊となって疾駆する。

 曲がり角で、こちらを覗きこんだギースと鉢合わせた。

 一般人同士であれば、立って銃を手にした相手に対し、這った姿勢のサグジントが明らかに不利だ。ギースが拳銃を構え、歪んだ笑みを見せた。

 しかしギースが引き金を絞るより早く、その上半身が炎に包まれる。サグジントは悶絶するギースを蹴り倒し、疾走を再開した。


 気づいた強盗たちがサグジントに向けてライフルを撃ち始めたが、走り続ける相手への射撃など、そう当たるものではない。

 サグジントはロビー全体を視界に収め、強盗たちを次々に燃やしていく。


 これが『火』の後継者の能力だった。物理法則を無視し、視界内の空間に炎を現出させる。あるいは、特定の物体の温度を急激に上昇、燃焼させる。能力の使用に制限はない。

『火』の後継者の前に立ったものは、例外なく炎に包まれ、焼き尽くされる。先の戦争で猛威を振るった力である。


 サグジントは渡り廊下をほぼ一周し、ロビーを見下ろした。

 強盗たちは全て床に倒れ、黒煙のただよう中で呻いている。数は六名。

 二階にいた男を合わせても、ヨシュアから聞いた人数より一人少ない。

 姿が見えないのは偶然ではない、とサグジントは判断した。後継者の能力は視界内に限定されるため、身を隠して視線を避け、狙撃を図るのが対後継者戦の基本だ。しかしこの見遠しのいい銀行内で、そう都合のいいポイントはない。

 とすれば、相手の次の行動は一つだ。


 サグジントは踊り場を経由し、一階に飛び降りた。


「動くな!」


 野戦服の男が叫んだ。



 男は右手に拳銃を持っていた。だが狙っているのはサグジントではない。人質の一人である白髪の老婦人を脇に立たせ、こめかみに銃口を突きつけている。

 後ろ手を取られながら、老婦人は固い表情で言った。

「信じられないわね、この恥知らず」

「死にかけは黙ってろ」

 老婦人に限らず、人質たちの身なりは良かった。その顧客層ゆえ、この銀行が狙われたのかもしれなかった。


 サグジントは野戦服の男に歩み寄って、言った。

「つまらんことは止めろ。罪が重くなるだけだぞ」

「近づくな!」

 野戦服の男は怒鳴った。

「余計なことをすれば、この婆あの頭をぶち抜くぞ」

「その場合、お前がどうなるか教えてやろうか?」

 サグジントは静かに言った。

「俺が能力を叩きこめば、お前は目と鼻と耳と口から火を噴き出して死ぬ。こうして話している途中にだって出来る。俺は温情で話しているんだぜ」

「この野郎……」

 言い返しようがなく、野戦服の男は顔を歪めた。

「お前一人では金を奪って逃げるどころか、ここから出ることもできない。諦めた方が利口だと思うが」

 しばらくの間があり、男は拳銃を下ろした。

「どうやら、そうらしいな」

 男は人質の老婦人を突き放し、サグジントに一歩歩み寄った。両手を差し出す。

「手錠をかけてくれ。他の警官に撃たれたくない」

「賢明な判断だ」

 サグジントも歩を進めた。


 瞬間、野戦服の男は床を蹴った。サグジントに向かってステップし、顔面に向けて右のストレートを放った。


 サグジントは上体を反らしてかわした。

「どういうことだ?」

「お前ら後継者の力は、接近戦じゃ使えない。戦場じゃ有名な話だったぞ!」

 事実だった。視点と意識が一致して発揮される後継者の力は、めまぐるしく動き回る接近戦では有効でない。集中する間がないのだ。


「よく勉強しているじゃないか」

 野戦服の男が連続して繰り出す拳を、サグジントは手で弾き、身を引いてかわした。目、顎、喉の急所を鋭く狙った拳は、サグジントに反撃の隙を与えない。

 距離を取るため後ろに跳んだサグジントに、野戦服の男は素早く合わせてついてきた。

 サグジントは内心で感心していた。接近戦で後継者の集中を乱す、言うのは簡単だが実行は遥かに難しい。無理矢理にも掴まれて、数秒の間が出来ればそれで終わりである。一定の距離を保ちつつ、かといって離れ過ぎず、致命的な打撃を繰り返す技術があってこその戦法だった。


 しかし所詮は一般人の悪あがきだ、とサグジントは思った。一瞬のミスも許されない状況がもたらすプレッシャーは、肉体、精神に段違いの疲労を与える。サグジントは男のミスを待てばよい。

 拳を弾きながら、サグジントは言った。

「いいのか? 応援の警官に射殺されるぞ」

「その前にお前を倒す」

「出来るかな」

 男は答える代わりに、目を血走らせ、連続で突きを繰り出した。

ある種の意図を察しながら、サグジントは男の左拳を掌で受け止めた。

「馬鹿が!」

 男は下半身を捻り、ローキックを繰り出す。次に大振りの拳を当てるための、牽制としての蹴り――男の服装の意味を知らなければ、普通はそう判断するだろう。


 だがサグジントは蹴りを受けずにあえて一歩踏み込み、力を込めた左の掌打を、男のみぞおちに叩き込んだ。


「ぐはっ!」

 男が空気を吐き出し、痙攣する。返す右のフックが顔面に直撃し、男はもんどりうって倒れた。

 サグジントは息をついた。

「引っかかると思ったか?」

 言いながら、倒れこんだ男の足を軽く蹴る。


 臙脂の絨毯に、銀色の刃が光を放った。

 仕込み靴である。


「ノーグ連邦の暗殺部隊が使っていた靴だな。お前が共和国の野戦服を着ていたのは、連邦のアーミーブーツを履いていることを誤魔化すためか。平服じゃあ、嫌でもごつい靴に目が行くからな。かといって連邦の軍服では、この国では目立ち過ぎるし仕込み靴も連想されてしまう――そんなところか」

 本当に牽制の蹴りであれば、サグジントの攻撃を防御できただろう。右足のナイフを当てることに集中しすぎたのだ。

「くそ……後継者が、どうして警察に……」

 男は悶絶しながら言った。

「お前に教える必要はない。牢屋の中でせいぜい悩め」


 サグジントは男に背を向け、人質だった老婦人に手を差し出した。

「大丈夫ですか」

「ええ、ありがとう。何だかもう、目が回っちゃったわ」

 老婦人は周囲を見回しながら言った。三十分前に強盗が乱入し、数分前に強盗の大半は炎に包まれ、次は銃を突きつけられてと、もはや何を言えばいいのか判らない、といった様子である。

「あなた、強いのね。後継者なの?」

「そうです。すみません、危ない思いをさせてしまって」

「いいのよ」

 老婦人は初めて笑みを見せて、首を振った。


「今日は主人の代理で来たんだけど、銀行がこんなに騒がしいなんてね。けど初めて会った後継者が、感じのいい人で良かったわ。新聞は悪口ばかり書いていたけど、あんまりあてにならないわね」

「血に飢えた野獣、みたいなやつですか?」

「レストランの料理がまずかったらコックを殴る、なんて書いてあったのよ」

「半分は合ってますね。さあ、外に出ましょう」


 広場に面した玄関の扉が開き、ヨシュアたちが恐る恐るロビーに入ってきた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ