第2話 強盗たち
「このノロマが」
若い銀行員目掛けて、巨漢の男は無造作に拳を振るった。
銀行員は頬を打たれ、悲鳴を上げて倒れた。
「高い金をとったくせに、散々待たせやがって。話が違うじゃねえか」
「俺のせいじゃない!」
倒れこんだまま、銀行員は必死に言った。恐怖で脂汗を流している。
この若い銀行員は強盗団の内通者である。すでに武装警官隊が到着しかねない時間にも関わらず、強盗団が銀行内に留まっているのは、彼の失敗に起因していた。
強盗団は事前に金を払い、男から銀行の内部情報――警備情報と定期的に変わる金庫の開錠方法を入手した。計画通りに銀行を制圧したが、情報は不完全だった。
慌てて支店長を脅し、何とか金庫は開いたものの、予定以上の時間が経過していた。
「言い訳はいい」
巨漢は長大な機関銃を持ち上げた。
共和国軍で正式採用されている、三十三年式機関銃である。
弾帯も含めば二十ガラム(≒十五キロ)に達するそれを、巨漢は小銃のように軽々と取りまわした。
「詫びとして、入り口から出て走れ。弾除けをやってもらう。タインドクス警察の銃は豆鉄砲だし、二三発撃ちこまれても平気だろう。頭に穴が開いても走ってたら褒めてやるぜ」
冗談めかした口調だが、視線に一切の同情はない。
男が蒼白になったところで、後ろから声がかかった。
「その辺にしておけ。仕事中だぞ」
「ふん」
巨漢は大人しく従った。
声を掛けた男は、共和国の野戦服を着ていた。他の男たちはハンチング帽にハンカチで顔を隠し、開襟シャツにカーゴパンツという、首都の労働者風の服装で揃えていたが、その男だけは濃緑の野戦用ズボンを履いている。戦争が終わり、大量の放出品が出回った首都では珍しくない服装ではあるが、何か理由があるのかもしれなかった。
銀行のロビーは異様な雰囲気だった。武装した強盗が立てこもっているのだから、当然である。強盗は数十人の人質たちをロビーの奥に座らせ、それぞれがライフルを持ち、窓から外を警戒していた。
三人の男がカウンターの奥からやってくると、野戦服の男の足元にずだ袋を放り出した。中には共和国紙幣と金塊が詰まっている。一人が汗をぬぐいながら言った。
「待たせたな」
「構わん。あのガキが役立たずだったせいだ」
「あいつか」
と視線をやり、言った。
「金で転ぶ奴はやはり駄目だな。もう用は済んだし、撃たないのか?」
「ガスが名案を出してくれた。脱出の際、俺たちの先頭を走らせて弾除けにする」
「悪くないな」
二人は低く笑った。
強盗たちは台車を用意して、金の詰まったずだ袋を乗せた。
これを持って逃げ切れれば、彼らにこの仕事を斡旋した組織に分け前を渡しても、男たちは一生遊んで暮らせる。
逃げ切れなければ、一生牢の中で暮らすか、死ぬことになる。
野戦服の男が声を張り上げた。
「武装警官隊が来るまで十分もないはずだ。外の警官を蹴散らして、それぞれの車まで走るぞ。ギース!」
野戦服の男は上方に向けて叫んだ。銀行のロビーは三階まで吹き抜けになっており、一本のらせん階段が三階から一階を繋げている。
「広場の状況はどうだ。変化なしか」
二階のテラスで機関銃を撃っていた男が、渡り廊下から顔を出して応えた。
「変わらんな。警官どもはブルったままだ。少し前、車が一台だけ来た」
「少ないな。応援か」
「黒いジャケットの男が一人降りた。すぐに警官たちと同じ場所に隠れて、それからは判らん」
「何だそりゃ」
巨漢の男は、機関銃を構えなおしながら言った。
「雑魚が増えたところで変わりゃしねえよ。纏めてミンチにしてやる」
強盗の目的を半ば達成し、本性が急速に露わになりつつあった。粗暴な金銭欲に顔がぎらついている。
野戦服の男だけが顎に手をあてて、言った。
「黒いジャケットか」
「知ってるのか?」
「首都警察は軍と仲が悪いだろう。軍に頼らず威信を守るために、後継者を直接雇ったという噂がある。そいつは黒づくめの服装らしい」
後継者という言葉に、一同に緊張が走った。
しかしそれを打ち消すように、巨漢の男はわざとらしく笑い声を上げた。
「噂だろ。後継者は軍が大事に抱えてる。渡したとして、戦闘訓練もしてない雑魚しかいねえよ」
次の瞬間、巨漢の男が抱えた機関銃が急激に赤熱し、炎を撒き散らして爆裂した。




