我は皇帝だ
翌々日、曇が空を濁している午前のまだ早い時間。サラはキューテストの拠点にいた。ソファにだらっと寝そべり、天井を見上げていた。
レインがノートパソコンをちいさな影の傀儡に持たせてながら言う。
「サラ、皇帝の情報が判明したよ。」
サラは起き上がって、レインはその隣に座る。
カタカタとキーボードを叩き、彼女は画面に映った文字を読み上げる。
「皇帝の名は...」
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数日前
ルージュマンがツイハを吹き飛ばした後、彼の胸部には激痛が走っていた。されど溺れず、石垣を掴み外濠の水から這い出でた。
「あいつら...必ず...。」
テテンを纏った姿ではなく、元の姿で水浸し。その表情は苦悶に満ちている。
「大丈夫?ツイハくん。」
低い視線に誰かの足元が現れる。見上げると同じクラスの生徒、ユメアが心配そうにこちらを眺めていた。
彼女の背後には黒い装備に身を包んだ兵士が何人もいる。
「ねえ、わたしについてくる?」
軽い声色だ。不思議な気配も相まって状況がまるで理解できなかった、ツイハは問う。
「あなたは...誰なのですか?」
ユメアはしゃがむと彼の顎の下に指を添える。そしてくいっと首の向きを上げてから言う。
「我は皇帝だ。」
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「名は...ユメア・ゾラ。」
それを聞いたサラは表情がないまま、レインに寄りかかる。レインも特に気にせず受け止めるのだった。
「レインさん、誰かを失っても...心が動かない。」
「そんなもんだよ。」
「そっか...。」
扉をバタンと開けて、アイシーが元気よく飛び出す。
「おはよう!部屋暗いな。」
ペタペタと裸足でリビングまでくると、窓辺に目を向ける。
「あれ、まだ育っていないぞ!」
先日学校に行く前。サラの発想で高級カップアイスに土を入れ、花の種を植えた。
「まだ3日しか経ってないよアイシー。芽が出るまでもっと時間がいるよ。」
「これだから地球の生命はなあ...早くどんな花となるかが見たいんだ。」
「我慢しなさいアイシー。」
レインは皇帝の情報を漁りながら言うのだった。
花の種はカイが用意したもので、何の花かは“お楽しみ”とのこと。
「んもう、カイのやつは死んだから聞き出せない...不服だ。」
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昼頃
キューテストがそこに集まった。皇帝の情報は共有されて、これからについてのことが話される。
報告には討伐したルフトのことや魔王と化したツイハのことも含まれていたが、カイの話題は全くない。
会議が終わると、各々の仕事のためにキューテストたちは部屋をでた。
サラには休暇が与えられた、とはいえどこに行く気もしないのだった。アイシーと自分の分の料理をしたが、その味は少し薄く感じられる。
夕方にアイシーは専用の冷蔵庫にこもって昼寝を開始する、サラはソファでSNSを惰性でスクロールし続けていた。
すると都心に新しくゲームセンターがオープンするという情報を見つけ、反射的にその画面を自身の隣に向けた。
「ねえカイ、今度ここに3人で行かな...い?」
ーーあれ、何してるんだろわたし。
心にはどこまでも暗い空洞があるということに彼女は気づく。サラの隣には誰も座ってはいなかった。




