尽くす思い、そして奏でる
減転とは代償を支払って得られる威力の重ねがけである。
攻撃に条件を仕掛けたり、身体機能の一部を支払うことで自由に能力の威力をあげることができる。
原理は不明、裁量も不明。
その最上級の代償は、自身のすべてである。
「減転・尽。」
待ち受けるのは万死、されどそれに見合った力の取り引き。
カイは落ち着いた声色で契約を申し込む。
「もう動けるか、サラ。」
サラは傷口を鱗で覆って、応急処置を施した。彼女は立ち上がる。
「<恋の龍>も出せるよ。でも期待はできない。」
カイとサラの後ろには向こうの景色が見えるほどに半透明の龍が現れる。
「ねえさっきの減転・じんってなに?カイ。」
「ああ気にするな。とりあえずあいつの次の攻撃に耐えたあと、“今だ”といえば前方に全ての炎を噴射してくれ。」
「うん。」
テテンはゆっくりと降下して、そっと着地をすればゆっくりと歩き出した。
彼らとの距離が10メートルほどの距離となった時、立ち止まる。
「これから愚か者が顔を出すが、ボクと一緒にしないでくれよ。」
すると体の力が抜け落ちて、地面に倒れる。サラとカイは拳を構えながらその不思議な様子を見る。
そして眠りから覚めたかのように顔を見上げた彼は、卑しい笑みを浮かべるのだった。ツイハである。
「カイ!キューテストの全員の死体を、カドモトさんに捧げてやろう。」
ツイハが宣告すると3対の翼を広げる。規則的な音とともにその羽の全てが発射され、カイらを追尾する。
それを見たカイは氷の幾つもの礫を空中に形成して、羽を迎撃しようとする。
サラはまだ動き出していない。
発射されたナイフのような羽は氷の礫を躱し、カイとサラに向かった。
「くそ...。」
サラが前に一歩出て、両手を羽が迫ってくる方にかざす。
「まだだ、サラ。」
サラはその声を聞いて静かに頷く。迫り来る羽に対してカイはまたしても氷のドームで自分らを包んだ。
嵐に打たれた家屋のよう。羽はざくざくと氷のドームを貫いている。それに対してカイは内側から氷を発生させ続けるので、こちらにはなかなか到達しない。
カイは自身の手がひび割れつつあるのをサラには隠した。
雨音が鳴り止んだ。イグルーを崩して、外にいる天使と顔を合わせた。ツイハの背後より、3匹の螺旋状の大蛇が顔を覗かせる。
先ほどのものの3倍以上はある体長、内側から金色と白に光っている。楽園の蛇を彷彿とされるような、なかなかに神々しいデザインだ。
3匹は一斉に動き出した、ジェットほどの速さで向かってくる。してもサラとカイは動じない。
「今だ!」
カイが合図を出すとサラは前方に手をかざす。 < 恋の龍> が炎へと形を変えて2人の前へと流れる。
そしてカイは叫ぶ。
「 <カタルシス↓↓> !!」
雪崩が2人を避けて背後より押し寄せる、そして前方に噴き出された炎と混ざり合ったのだ。
決して交わらないはずの氷と炎、その性質をカイは能力 <カタルシス↓↓> によって打ち消したのだった。
カイとサラが作り出したその未知の物質は紅色となった。水のような清らかな流れをもつ静かな物質。
カイが拳を握るとその物質は、流れるように人の形を形成した。
「ルージュマン。」
カイはそう呼ぶ。パーツのボヤけた物質の塊だが、確かに人のように動いていた。
3匹の大蛇が、突如出現したルージュマンに襲いかかる。されどもそれの片手が触れた途端、3匹の動きは止まる。
そしてゆっくりと透過していき、消えるのだった。
「なんだこれは...。」
「3次元では対応できないであろう物理現象だ。」
氷と炎が混ざり合うという、全くの未知の現象。それは現存する物質を打ち壊す。
サラも唖然とした、夕日がそれを照らしている。形成が逆転したという喜べる光景のはずななのに、そのどこかに哀愁があった。
ルージュマンは歩みを進め、ツイハは後退。そのうち彼は背を向けて翼を広げ、上空に逃げようとする。
しかし、ルージュマンの腕はその脚を掴んだ。ツイハを勢いよく引きずり下ろし、彼の左肩をその手で握る。
動けないツイハを前にしてルージュマンは拳を振り翳す。
絶望に顔を歪めたツイハが何かを言おうとしたが、その時にはもう拳は彼の腹部にめり込んでいた。
少し遅れて、ツイハは体の中心から崩れる感覚を覚えた。そして後方へと突き飛ばされた。
後方の外濠に勢いよくダイブイン。ともにルージュマンは風となって消えた。
...
...
息を荒くして立つカイの脚はその力を失い、倒れそうになる。それをサラは支えるのだった。
彼の顔には大きな亀裂が走っているのが見えた。
「カイ...。」
「大丈夫だ。」
サラの手にそっと触れて、カイは無理やり立ち上がる。
一歩ずつ前に足を進め、3歩目のところで夕日に顔を向ける。
その光がカイの顔を照らししていた。荒い呼吸はそこで止まり、彼は優しく呟いた。
「アイシーとまた3人で...ゲーセンにいきたいな。」
おくる言葉も見つからないうちに、カイはゆっくりと地に倒れた。




