恋の龍は興味なし
ツイハの背後にいたのは、龍と言っても過言ではない姿のサラマンダー。
以前よりも大きく、教室の半分ほどの体長である。
真紅の鱗、床に食い込んだ爪。
大地が唸るような声を轟かせて、剣のような牙で彼を喰らわせんとす。
ツイハはその気配に気づき、慌てて避けるのだった。その拍子に彼は転んでしまうが、サラマンダーの噛みつきを免れる。
「なんなんだこの龍は...!?」
テテンは無機質な声で言う。
「おそらくボクと同じ、彼女の能力だろうな。」
「これが...?」
サラは腰を抜かしたままのツイハに視線を向ける。
「...あぁ...この大きさではもう<サラマンダー>とは呼べないね。」
すると突然、教室が揺れる。下の階から何かが崩れる音が聞こえる。
「何かが起きてる...。」
サラはツイハに視線を戻すと彼はその場から姿を消していた。
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「テテン、なんだ今のは!」
ツイハは浮遊するテテンとともに廊下を駆けていた。
「光と音、その波をボクが操作した。だが奴は必ず残り香を辿ってくる、距離を離せ。」
「ああ。」
ーー「<恋の龍>。」
背後からそのような囁き声が聞こえたのとともに、教室から巨大な炎が噴き出した。
「教室にはもういなかったか...追うよ。」
振り向くツイハの目には地獄が映っていた。廊下は炎の渦に包みこまれ、こちらに迫っている、そしてその主人と目が合う。
彼は階段を駆け降りて他の生徒を掻き分けながら正門を目掛ける。下駄箱を踏み越えてやっと外に出る。
「止まれツイハ。」
ツイハは慌てて足を止める、すぐに一粒の光が正門のあたりに降り落ちて。刹那の静寂ののち、内側から弾け飛んだ。燃え盛り、複数の生徒もそれに巻き込まれるのを見た。
サラ・ムツキの能力だろう、畏れたツイハは踵を返してグラウンドの先にある裏門に行先を変更する。
人工芝のグラウンドを突っ切る行為は相手にとっての格好の的、それしかできることはなかったのだ。
とにかく走った。とはいえツイハは芯の弱さを自覚する。あの恐ろしい気配を無視することができない。
どうしてもツイハは振り向いてしまった。
すると校舎の上に立っている1人の影がこちらを伺っているではないか、サラは特に動きを見せない。
絶望の化身とも言えよう、背中が凍りつく感覚とはこれだ。ツイハは立ち止まってしまうのだ。
「...こっちだ!はやく!!」
エンジン音を派手に鳴らし、グラウンドに突入してきた一台の車両。
車両はタイヤを滑らせながら、ツイハの前に停車する。中から声をあげていたのは以前、ツイハを拘束していた刑事の男である。
ツイハは我に返って助手席に滑り込み、男は扉を閉める間もなくアクセルを全開に踏んだ。
人工芝をひっぺがしながら学園を飛び出して、車道に出る。この時間は車通りが少ないのが救だった。
「あれは“キューテスト”だ!」
「でもなぜあなたが、俺なんかを...。」
「説明なんかできる状況じゃないだろ!とりあえずあの化け物から距離を離さなきゃいけねえ!」
時速90キロを超える速度で車は走った、物理的な距離がツイハたちに細やかな安心を与えた。
ツイハの息切れがおさまった頃だろうか。
ツイハの横目、雑居ビルの上に映るのであった。巨大な龍に寄りかかってくつろぐ少女、龍の口元は太陽の何倍にも発光しており“何か”が放たれようとしていた。
そのまま車内までもが白昼のように、目を開けていられないほど眩しくなる。
刑事の男は急いでハンドルを横に切るが、間に合うはずもない。
けたたましき光線はすぐ近くの地面を抉る。その衝撃は車両をミニチュアのように軽々と吹き飛ばした。




