同情者
いつものように三田奈学園での1日は始まった。
空席は多い。ユメア、シャルテ、ミナ、アンなど。どの生徒に関しても納得のいく個々の事情が説明され、それを疑問に思う生徒はいない。
少し涼しくなった九月の1日、教室の窓は開放されて、風は秋をほんのりと運ぶ。
黒板を走るチョークの音、レイ・リン先生の眠りを監視する目。そして珍しく板書をするカイ。
サラは横目でそれを眺めていた。別に彼がやる気を出した理由など気にしていなかった。
ただ自分と同じ空間で、同じことをしているということに小さな悦びを感じる。
ベルトラン先生は不在で、体術の授業は自習となった。その時間からだんだんと曇り初めて、昼食を食べ終える頃には分厚い雲が空を暗く濁していた。
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「連絡事項...特にないと思います。あれどうだったっけな?まあ大丈夫かさよならー。」
号令もまともに済ませずに、そそくさとレイ・リンは教室を出た。
クラスメイトたちもそれには慣れた様子であった。
「じゃ、いってくるか。また後でなサラ。」
「じゃあね!」
カイとサラは軽い微笑みをかわすと、教室の扉付近で待っているロラに視線を移し、彼らは深く頷く。
カイはロラを追うように教室を出る。彼らは校長室に訪れている理事長が持っているという皇帝の情報、そのラストピースを取りに向かうのだ。
教室に残っているのは2人だけであった。
「話って。どうしたの?」
サラが振り向く先にいたのはツイハ。緊張した様子だが、視線を逸らさず真っ直ぐと彼女の目を見ていた。
「ムツキさん...わざわざ帰りたいだろうに、ごめんね。少し聞いて欲しいことがあって、実は...。」
ツイハがそう言っているうちにサラは、彼の方へだんだんと歩いていく。
「うん。」
サラがその言葉を発するころにはツイハの目の前にいた。
どことなく感じる圧力はツイハを苦しめる。
「大丈夫だツイハ。このコンパスは彼女を指していない。」
ツイハの能力、テテンの手のひらに乗った”殺意“を感知するコンパスはサラを指していなかった。
カイは勇気を振り絞り、唾を飲み込んでから言う。
「カイは...カイ・ユムラは殺人者なんです。」
「え?」
落ち着いた声色でツイハは手のひらをサラに見せる。するとそこに現れた純白の白い羽はくるくると回っていた。
それはサラにも見えるものだ。
「これは、俺の能力です。殺人者を指し示すコンパス...これがカイ・ユムラの方を指し続けていたんです。なので俺は、個人的に彼を追跡しました。」
ツイハの目は潤む。ふと顔を見上げると同情してくれたのか、サラの優しい瞳がツイハを見つめていた。
彼女はツイハの手の上に自分の手のひらを重ね合わせ、なだめるように言う。
「続けて...。」
緊張はほどけ、少しだけ感情が軽くなった。
「友達だったカドモトさんは彼に殺されました。ここに座ってたアンって子も...空席が増え続けるこのクラスの異常さは、ムツキさんも気づいているでしょう。」
サラは彼の手に触れたまま黙って話を聞いていた。
「...ごめんなさい、信じれないですよね...こんな話。」
ーー「信じるよ。」
サラは言葉を差し込んだ、ともに彼の手を強く握る。
「ありがとう...警察もぜんぜん取り合ってくれなくて。ムツキさんはお強い上に能力の覚醒者だとも聞きま...」
ーー「それで。」
ツイハの言葉を遮るようにサラは口を開く。
「それで、彼1人なの?彼以外にも協力者とかは。」
ツイハは一度息を吸い込んでからはっきりと話す。
「はい。ロラ・ミツデラと最近欠席のシャルテ・センリが、カイの協力者だと確信してます。」
「...他にはいなさそう?」
「彼らだけです。おそらくこの学園に潜り込んでいた...」
ーー「ねえ、ハヤザキくん。」
「はい。」
「良かったよ、それしか知らないんだったら。」
「え...?」
サラは彼の手のひらをそっと離す。
曇った空は気まぐれに夕日を取り込んだ。差す光はサラの顔を陰らした。
ツイハの目には映るのだった。蝋燭の炎のように揺れ動くサラの金色の瞳。
「我々“キューテスト”の追跡者、ツイハの抹消は指示されている。」
ツイハは震える手のひらをサラの前に差し出すが、やはりその羽はぐるぐると回っていて、サラのほうを指してはいない。
「そんなはずは...!
俺を“殺す気”であれば...俺と“命のやり取り”をするのであれば、コンパスはムツキさんを指すはずだ...そうだろテテン!」
浮遊しているテテンに問う。それは何も言わずにゆっくりと頷いた。
その疑問に答えるのはサラ。
「わたしにとってこれは“命のやり取り”ですらない。残念だよ…恨んでもいいよ。」
ツイハの顔は恐怖に歪んでいった。
蹂躙が始まる。




