絶望の氷山
商業施設内を歩いていると、アイシーは何かを見つけて立ち止まる。
「なんだここは。」
アーケードが並ぶゲームセンターである。彼女は妙な興味をここに示した。
「ゲーセンじゃん、行くか。」
「時間も潰さないとだしね。」
「“げーせん?”」
暗い空間に誘われる。多色に光るアーケードがアイシーの目に新鮮に映る。
「この光はまるで母船のようだな。」
興味津々なアイシーは、爪先立ちになって景品を覗く。
そしていくつかの筐体を見たあと。アイシーの目に止まったのはやはり、アイスクリームが景品に設定された台。涼しい環境で中の氷山を中心のアイスが回転して舞っているのがなんとも幻想的であった。
「なんだこれ!?夢か!?この筐体を買って帰ろうぞ!」
「こんなもの家に置いてどうするんだ...。」
カイは筐体に寄りかかりながらため息をついた。
「というかサラ。これは見たことがないアイスだ!」
アイシーが指差すのはカップに入ったアイスである。たいへんな量を食べるアイシーに与えるには少し高価であったので、サラは買い出しでも控えていた。
「高級品だよ、アイシーが昨日食べていたもののおそらく5倍以上の値だよ。」
「5倍以上...だと!」
アイシーは流れるアイスを見ながら、拳を強く握りしめていた。何か我慢しているようにも見えたので、サラは声をかける。
「何回かやってみる?」
「いいのか!」
アイシーの純粋な眼差しは微笑ましいものであった。サラは黒色の財布から銀色のコインを何枚か出して、筐体の縁に置いた。
「なるほど。これを対価として挑戦権を与えられるのだな...!」
アイシーは賽銭を扱うかのように丁寧にコインを差し込んだ。
ピュルリン!
「起動音か...。」
アイシーの中でとてつもない緊張が迸った。彼女の中で、時は非常に遅く流れた。
ーー確実に一つ獲得するには...単純に考えて正確に一つずつを狙うのが良さそうだ。しかし...乱数的状況も考慮しよう、ここは...!
アイシーは赤いボタンを叩く。筐体のクローが掬い上げたのは、アイスの群れたエリアであった。
しかし、ショベルのように一方向の動きをするクローから全てのアイスが転がり落ちた。
...
「...失敗か。」
うつむき落胆するアイシーの肩を誰かが掴んだ、カイである。
「俺に任せろ、必ず獲ってみせる。」
カイは自分の財布から取り出したコインを差し込む。
ピュルリン!
この起動音と同時!カイは赤いボタンを早くも叩いた。するとクローは正確に一つのアイスを掬い取ったのである。
アイシーもこれには驚愕する他なかった。
「の、乗った!」
彼女は思わず人間のようにガッツポーズを作る。
「このくらい大胆に行かなきゃ取れないぜ...。」
カイは額に汗を浮かべ、アイスを眺める。
筐体の中心を回る氷山にアイスを転がすことができれば勝利だ。
ーーゲーム設定的に、難しいのはアイスをクローに乗せること。ならば次が難しい必要は...無い!
ボタンを弾き、クローは縦方向に回転する。されどアイスは氷山の峰を転がり落ちる。
急に重力が強くなったかのように2人は崩れ落ちる。
ーー「くそ...あと1ミリ右だった...。」
ーー「なんて冷酷な機械なんだ...。」
絶望のどん底であのアイスを口にするという希望は潰え、2人はひたすらに嘆いた。
彼らから見た氷山は恐ろしいほどに高く聳え立っていた。
しかし負傷した兵士を眺める軍師はそこにいたのだ。彼女は腕を組み堂々たる立ち振る舞いで、鶴の一声を発した。
「何を諦めている、立ち上がれ。」
サラは残像を残すほどの手捌きでコインを掴み、それを筐体に差し込んだ。
ピュルリン!
それはゲーム開始の合図だ。
サラは流れるアイスに目を通すと。
「ここ。」
赤いボタンをそっと押し、クローは縦に回転する。そして一切のブレもなく、その手中に収まる。
「正確だ...。」
ーー「横向きのカップを狙う...そうすれば勝手に収まる。」
カイとアイシーは立ち上がり、拳を握りながらその様子を見守る。
続いて彼女は回転する氷山の穴とアイスの位置を交互に確認する。
ーー「入手...完了。」
ボタンを再びそっと押す。すれば、横向きのアイスは見事穴に転がり入ってゆく。
ーー「中央から少し右。軌道を意識すれば必ず手に入る...。」
2人は歓喜した。絶望の障壁をこのサラは打ち破ったのだと。
そして受け取り口に現れたそのカップアイス。
アイシーにとってそれはまるで宝石のように輝かしかった。




