瞳に燃ゆる金色の火
「魔王...。」
サラはその言葉に唖然とした。と同時に自らを惹きつけるその何かが魔性によるものだと分かった。
彼女は疑いもせず、この目の前にいる女性こそが魔王なのだと本能のレベルで実感した。
「おとなしい子だね、普通なら逃げるところじゃないの。私たちの1人を殺したとのことなら尚更...。」
サラは困惑する。押さえつけられているのにどう逃げ出せるものか。
「でも、押さえつけられて...」
サラは違和感を覚えて振り向き、背後にいる人物を確認する。しかしその気配は振り払われるように消えた。
レイ・リンはほのかな笑みを浮かべる。
...誰も自分を押さえつけてなどいなかったのだ。
サラは自身に乗っかるこの魔王の気配によって誰かに押さえつけているような錯覚を覚えていた。
レイ・リンにとって、自分を目の前にするとどの生物も決まって恐怖する。威嚇の隙など毛頭ない。
キューテストのメンバーも大概でなく、出会った当初は動物が自然の雄大さに畏怖するようにおののいたものだ。
しかし龍を連れた少女は怯えることなく、代わりに果てしない憧憬の眼差しを送った。
ーー目の前にいるのはわたしの果て。
周りでくつろいでいた猫たちは目を見開いて、毛を逆立てる。蝋燭が揺れた。
レイ・リンは変わらずの表情で再び問う。
「いいね。キミみたいなのは初めて見たよ...どう、私の仲間にならない?」
サラは是が非でもと答える。
「...ぜひ!」
すると仲間のうちの1人は、レインに問う。
「この子がロイを倒したのなら、もう1人はどうした?」
レインは彼の問いに答える、
「私があの兵士を葬りました。ボスの画策に軌道を乗せられるチャンスだったので。」
「そうだね。これで“皇帝”とは距離を取れる。ロイたちは確かに仲間だったけど、皇帝の使いを置いておくのはこれからの私たちにとってジャマだった。」
澄ました顔でレイ・リンは淡々と述べる。
「なら、異論はないな。」
メンバーの中年の男は飯を頬張りながら、低い声で呟いた。
周りの者たちは無表情でただ見つめるのみ。
続けて中年の男はいう。
「だが、条件がある。俺らは仲間を殺された。ロイは武力では折り紙つきの人間、それをこの嬢ちゃんが倒したという...。」
するとレインはしかめた表情で強く遮る。
「...ベルトラン!私がその場で見たと言っただろう..!」
「そういう問題じゃねえんだ...。たとえリンさんが認めても、オレは認めねえ。」
「なぜも、そうも頑なに...!」
「”金色の太陽“。それを嬢ちゃんにとってきてもらおう。そうだ、いいチャンスだ..もう1人甘ったれた奴がいたな。
ここにはいないが...クローガ。奴と共に。」
レインはえも言われぬ表情を見せる。
「!!」
「あとな、レイン。信頼ってのは行動によって初めて示される。」
レインは苦虫を噛み潰したような顔をする。なお、何も言い返せず。
彼の言葉にレイ・リンはにんまりと頷く。
ーークローガか。あの獣とならこなせるかも?それにこの子の眼、金色の瞳...とても似ているな...。