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救いはひたむきの夏

「わかった、ありがとうクローガ...ところでキミはどう思う?」


...


「ちがうちがう、試してるつもりはないよ。」


...


「面白い。そういうポストに慣れて欲しいところもあるしね。」


ツーツー


職員会議を抜け出したレイ・リンは一本の電話に応答していた。


なにかゾクゾクするような、発想に心の底から湧き立つような面白みを全身で感じ取る。


第二の災厄の到来、それを感知した金色の太陽。そしてその実質的な所有者であるサラ。


笑みを浮かべて、レイ・リンの思考は言葉となって溢れ出た。


「皇帝との会談には彼女サラも出席させよう。」


---


それから5日が過ぎた、皇帝との会談まで数日である。


どんよりとした曇りの日、特に涼しいというわけもなく少し蒸されているような心地である。


廃墟とカビ臭いような二階建てのアパートが交互に建てられているような不思議な区画。


ツイハは1人で下校をしている最中、背後から自分を呼ぶ必死な声に驚いた。


「ツイハくん!」


それはカイの追跡に協力している女子生徒、カドモトであった。彼女はカイの背中を見て、慌てて駆け寄ったのである。


「カドモトさん、どうしたの?」


息が上がっていて、彼女は呼吸をゆっくりと整えながら話しだす。


「私、ミツデラさんとカイが密会してるのを見たかも...。」


「ミツデラ...?誰だっけ。」


2人は並んで歩きながら話を続けた。カドモトはポケットから出したハンカチで夏めく汗を拭う。


彼女とは何度も追跡についての計画を立てていた。


「《《ロラ》》・ミツデラさん。あの後ろの方に座ってるちょっと怖そうな子だよ...ほら制服にフードつけてる子。」


ツイハはそのミツデラという人物は数日前に自分を睨んでいた生徒だということに気づく。


あれはカイとシャルテを追跡したのとほぼ同刻であったこともあり、不気味な予感する。


ツイハは自身の能力で学校にいる間はカイとツイハの発する言葉を常に盗聴している、にも関わらずカイとミツデラが密会しているというのだ。


「それも、ツイハくんが帰った直後だった。」


予感が厚く黒い雲のような確信へと変わる。


何か恐怖というか不信を通り越して、吐き気がする。


ーー俺はとんでもないところに足を踏み入れたのか...空っぽの正義感とか...。


いつでも引き返せるという甘ったれた慢心は消え去った。


突っ立ったまま。怖いのに寂しく、その目には涙が浮かぶ。


カドモトはツイハの表情を見ると、同様に寂しく口を結ぶのだった。


本人は決意にみなぎったつもりであったのだろう。カドモトから見た彼の背中は小刻みに震えており、立ち向かう者にしてはあまりにも貧弱に見えるのであった。


「こんな時に変かもしれないけど...これから、カフェでも行かない?」


風になびく黒い髪と振りまかれる笑顔は次第にツイハの静かで重い恐怖を少しばかり和らげた。


ツイハは目の前の女性が機転を効かせてくれたことに気づいていた。それでも藁にもすがる思いで彼女の言葉がとても心地よかったのだ。


暗い世界が眩しく見えた。いつのまにか重い雲は晴れて、日が祝福のように差していた。


自分のささやかな気持ちにも気づき、なんとも言えない表情になるのを隠す。


人が集まる駅の、少しだけ値段の高いカフェに入店。2人は同じアイスコーヒーを頼んで、自身を分かち合うかのように腹を割って話した。


ーー「今年は夏が終わる前に海に行きたいんだ、私。」


ーー「妹がいてね、もうほんとに大変。宿題は私がいつも...」


ーー「ツイハくんは、彼女とかいたことあるの?」


アイスコーヒーの氷がほとんど溶けるまで話していた。その時間はあっという間であったのに、ツイハは存分の夏の陽気に包まれた。


柔らかい間接照明が2人を照らして、窓の向こうの大衆はぼやけていた。


2人は帰り道がほとんど同じだったので、今という時間が惜しくてゆっくりと歩くのだった。


鼓動がドラムロールのように時めき、ツイハはか細い勇気を振り絞った。


「海、もしよかったら一緒にいかない?」


カドモトの顔はいつも以上に晴れて、こちらに目を見開いていた。


「え、いいの!?もちろんだよ...。」


そして少し恥ずかしくなったのか、目線を逸らしてしまう。その頬は夕日のせいか、少し赤く見えるのだった。


「じゃあ、学校でまた話そう。」


「うん。」


やがて十字路で夕日と共に別れて、ツイハはまたくる明日の再会に心を躍らせた。


その頃にはカイの追跡とか一切どうでも良くなっていた気がする。


---


---


---


ーーツイハくん、嘘...ついてごめんね。


思い出作れてよかった。でも最後に欲張りさんになっちゃうなら、海に行きたかったな。


お願い、私のところには来ないでね...。


雑木林の中で、ミナ・カドモトは倒れ込んだ。目の下のクマは土汚れというほどに深く、口から血が滲み出ていた。


仰向けで見える景色に空はなく、揺れる笹の葉が彼女の最後の景色となった。


彼女の瞳が綴じて、口元は寂しそうな笑顔を作った。


「アンという子に続いて、この子も政府軍の鮮鋭だったね。」


「少し変じゃなかったか?」


ロラとカイは亡くなったカドモトを見下ろしていた。


「たしかにね。彼女の能力は集団戦闘向けだったはず、無理矢理私らに襲いかかったのは不思議。」


「...急いでたんだろう。命令か何かは知らないけど。」

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