蝶の音は銀色の福音
聞いた者の20秒間の記憶を一切消すという、シャルテの能力、<直近記憶削除>。
戦闘における優位性が極めて高いため、誰の記憶を消すかは指定できないという代償のもと成り立っていた。
「おれ、何してたんだ?」
“聞いた者”に効果が発揮されるため、当然カイもその対象に含まれていた。
「作戦終了ですよ。」
「あぁ。そっか。」
さらに巻き込まれるような形で鳴らされた指を盗聴していたツイハにも効果が及ぶのであった。
ーー今俺はなにを?尾行していて...あれ、思い出せない...。
彼はなんとも不思議な感覚に襲われた、こうしてキューテストの秘密の犯行はシャルテ以外の誰にも記録されることなく終わった。
ツイハから見たカイとシャルテは何もせずにただ立ち去っていく。
---
キューテストの第二拠点。首都の南部、穏やかな川と自然に面した街”ニコ“。
ここで行われていたことは、“金色の太陽“の研究・解析であった。
ラウルスと皇帝が欲しがるそれの活用法はキューテストにとって一切不明であった。
彼らに雇われた研究員は30名、多くは博士号を取得した後の薄給に苦悩していた者たち。
元は大きな体育館として使われていた廃施設を研究施設として臨時的に設計したもの。
クローガは過去に科学業界にいたことがあったため半ば強制的ではあったものの、責任者としてレイ・リンに指名されていた。
「クローガさん、この波長を見てください!」
ある研究員はいくつもの管に繋がれた金色の太陽の波長を記録しており、ガラス越しに彼女はそこに懐疑点を抱くのであった。
クローガは白衣のまま急いで駆け寄る。
研究員が持つタブレットの黒い画面を覗いた。いくつものの波長を捉えていてその中の特に異質な部分を拡大して見せるのであった。
「まさかだな。この波長の特異性は...。」
画面に羽ばたくような波のグラフは両翼を大きく広げた蝶のような見た目である。
「4日前から記録されています。これはあの“ボッチ蝶波長“であったりしませんか?」
「レイ・リンに知らせる必要がある。再び近づきつつある”二つ目の災厄”に反応しているかもしれない。」
この世界は三つの厄災によって荒れていた。
一つ目は大国同士の核戦争。
そして二つ目は、<宇宙からの侵略>。
ボッチ蝶波長とは宇宙生物が発する特殊な波長であり、金色の太陽はその波長にまるで呼応しているようだった。
135年前と同じように、銀色の空船は近づいていた。




