復古/創生/破壊
政府の長官、シェパードは地面に伏していて、頭から血が流れていた。
秘書のヤマムラは顔面蒼白。椅子に倒れかけていて、先ほどまでの生き生きとした姿はない。まるで干物のような死体。
「シュタイナー殿、ありがとうございます。」
アンの教官であったサイヨウはレイナに感謝を告げていた。その一度の銃声はサイヨウの心の底をにある何かを守ったような気がしていたのだ。
ところで、レイナという偽名はこの政府に立ち入るのに便利であった。どうも以前サクララという存在がここでは除け者にされいたらしい。
「シュタイナーじゃなくて、サクララでいいよ。」
彼女は桜色のリップをポーチから取り出して、繊細に塗る。それを見たサイヨウは静かに頷いた。
唇をルビーレッドに濡した後、サクララはある人物を呼ぶ。
「...ラビも出ておいで。」
その途端、ぬるっと机の影から姿を現したのはウエスタンハットを深く被りコートを羽織っただけの男性。
サイヨウはその登場にも動揺することなく口を開く。
「ラビ、あなたの能力か。この死体を操るものは。」
「ええ。サイヨウ殿、潜入にうってつけでありますよ。それよりこれからはどうされるのですか?」
サイヨウは自身の顎をにんまりとした表情で撫でながら答える。
「私が鍛えた兵を使わずには死ねませんねぇ
...。」
その答えを聞いたラビも満足そうな表情。
「奇遇。サクララの行く道に死路はありませんよ。」
サクララも同様に笑みを浮かべると、頭にかけていたサングラスを指で弾いて下ろす。
腰掛けていたハイヒールの音が暗い会議室に響く。
「起こしておいて。」
オークの扉へと向かう、去り際の背中は軽い命令を下した。
それを聞いたウエスタンハットのラビはしゃがみ込んで、床に張り付いているシェパードの頭を鷲掴み。
すると死体は一度雷に撃たれたかのように痙攣してから寝起きであったかのようにゆるりと立ち上がる。
その顔の血色は生前さながら。立ち上がったのち、横にいるラビの顔を横目で一度みてからその笑みを模倣するかのように笑う。
サイヨウ少し離れたところで腕を組みながら真顔でその光景を眺めていた。
ラビは能力によって起き上がったシェパードの死体と顔を見合わせながら興奮したように話し出す。
「私たちの敵は多い、ラウルス...皇帝...キューテスト。全部ぶっ潰すぞ。」
ラビの目に浮かぶのは果てしない欲望。
体系への失望。そして“荒れた世界”への回帰である。
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皇帝直属の部下ケルベロスの1人目。ユメアの同僚であるシーレンは、黒いベールに隠された玉座を前にしていた。
同様にひざまづいている者はもう1人。白いワイシャツに黒いポニーテールを揺らす人物。ケルベロス隊の2人目である。
宮殿には大きなシャンデリアが輝き、間を照らしつつも皇帝が抱える暗さに同調するようにぼやけたような明るさ。
「皇帝、申し上げます。サクララ・シュタイナーが動き始めました。」
「シュタイナーか...我みづから殺したはずだったがな。」
地鳴りよりも低い声が響く。ベールの向こうのぼんやりとしたようなシルエットのみが見えており、その後ろから指す光が太陽よりも明るく見える。
「シーレン、クエン・リム。二隊は総員出動の備へを成せ。ユメアには別勅を下す。」
風も音を鳴らさないような数秒の静かさの後、皇帝は姿を見せぬままに宣告する。
「...今より以て、サクララ・シュタイナー率ゐる政府軍、朝敵と為す。」




