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一閃をつらぬくが如く

サラはロイのわずかな呼吸の乱れをうかがう。


問題は一つ。


――確かにこの人の脇を殴った。代償は大きいけど威力は申し分なかったと思う。おそらく岩も砕けるほどの拳だったはず。


でも、まるで効いていなさそうだ。たしかに眉をひそめたものの、それだけ――。


(爪だけではなく、もう一つ別の力が....?)


敵との間合いは2メートルほど、1歩踏みせば拳の射程圏内だ。


まず動き出したのはサラであった。彼女は左足から踏み込み、拳に能力を纏わせ――。


しかしロイは先ほどとは違い、じっとサラを観察し待ち受けていた。


無防備である。


サラは構わずサラマンダーを纏った拳をロイの顔面に叩き込む。依然、ロイは動かず。


さらに間髪入れず腰を捻り、一路に彼の左脇を狙うが、肘でガードをされる。拳が深く鈍くめり込む感触がした。


しかし連続で拳を放ったことにより代償でサラから血が抜ける。視界の彩度が落ちて、立ちくらみのような状態になる。刹那だが注意が逸れた。


その隙にサラの腕はロイに掴まれる。そしてロイは不適な笑みを浮かべる。


サラは焦りつつもすぐにその手を振り解き、間合いの外へ跳んだ。


サラにはロイの行動の意味がわかっていた。

血液を失い、反動を喰らうこの攻撃は打ててもあと1、2発。ある程度代償があることを理解しているロイはそれに耐えようというのだ。


おそらく相手は、特定の部位を硬化することができるのだろう。ゆえに避けるよりも着弾部位をよく観察して、確実な防御姿勢をとる方が合理的。


「痛ってえ。」


ロイは左腕を押さえてつぶやく。鼻からは若干血が流れている。


ーー相手の左腕は粉砕した。やはり硬化するには若干のラグがある。


サラは血を失ったことにより気の遠のく感覚に襲われつつも脚と拳に力を入れて、再びロイに飛びかかる。


彼女が打てる最後の一撃であろう。拳にサラマンダーを纏わせ、火花が散る。一閃を繰り出す。


「弱点はこれだろ。」


ロイは再び爪の能力を右手に出現させていた。サラの一撃がたどり着く前に彼女の左胸を鋭く貫く。


 「あの力みかた、呼吸を止めることを条件にしているな。不運だな...俺もそれをトリガーにしていたことがある。」


胸を突き刺されたサラは、耐えれず嗚咽を漏らす。共に拳のサラマンダーが解除される。

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