冷たい夢、凛と問う
夢をみていた。暗い霧に包まれて、その静けさに溺れている。
あれは....人....?
そのシルエットは姿を覆い隠しながらもこちらへ近づいていた。
姿はわからないが、それの金色に輝く瞳のみがこちらを見る。
すると身を押し潰されるかのような圧迫感、自らの身体に天体が一つ乗ったかのような堪え難い重量感。
その金色に宿るは全てを内包した「不」であった..。
< わたしを覗く魔王の気配。>
...静かに微睡みは晴れる。
ーー目が覚めるとわたしは誰かに担がれていた。霧のようなモヤ。あの女の子、キューテストにつかまったのか...。
頭が朦朧とした中、貫かれた胸に手を当てる。
痛みがない...それどころか、傷口は癒えて塞がっている。どういうことか。
レインは影で形作った兵士にサラを運ばせていた。彼女はサラが起きた様子を見て言う。
「起きたのね、もうすぐで着くから安静にしてて。」
誰かに治させたのか? 眠っている間にあれだけの傷を...。かつて能力で傷を癒して回った医者の話は聞いたことあるが...。
周りに目を向けると、小洒落た路地。石のタイルと飲食店が立ち並んでいた。
しかし人は見当たらない。
「おう!レイン。」
とある飲食店のテラス席から声がした。レインを呼んだ男性の他にも5、6人が一つの丸いテーブルを囲んでいた。
飲みかけのワインやピザやらハムやらが机に不整頓に置かれていて、皆で食事をしているようだった。
何人かはサラとレインには目を向けず、談笑をしていた。
サラから見て正面には黒いナチュラルウェーブの髪をした女性が、座ってこちらを見つめる。
柔らかな美しさを纏っていた。
周りに他の客はいなくて、代わりに何匹もの猫がくつろいでいる。
レインの黒い影はそっとサラを地面に置いた。
先ほどの黒髪の女性がレインに目を向けから訊く。
「レイン、このお嬢ちゃんは?」
「名は知りません。彼女がロイを殺しました。」
「え??」
レインの言葉に、談笑をしていた者たちまでもが愕然として場は静まり返った。
混乱と大事をもたらしたサラは気まずそうに目を逸らす。
彼らがキューテストのメンバーであることはおおよそ見当がついていた。仲間のうちの1人を殺した、自らはどうなるのか想像に容易い。
「へえ。」
サラの身体は完全に癒えており、湧いてくる力が彼女の余力を示していた。しかし身体を押さえつけられているので、今は隙を待つ他ない。
黒髪の女性はにこやかにサラを見つめて問う。
「ねえ、キミ。名前は?」
包まれるかのような気配を感じる。彼女の言葉には、いちいち引きずり込まれそうになる。
サラは少し他のメンバーにも目を向けると、全員サラを凝視していた。黒髪の女性以外は一寸の動きも見逃さないような眼差し。
しかし構わず、サラはこの女性の目の離せない何かに取り憑かれて訊いてしまう。
「サラと言います...あなたは何者ですか、?」
女性は微笑むと囁くように答える。
「私はレイ・リン......魔王だ。」
サラはようやく先ほどの気配、包み込まれるような妖気の正体に気づいた。
それは、「魔性」。