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鉄の掟は取り立て人

「誰に言われてここに来たの。」


サラの腕を流れるように火がまとわりつく。腕はルビーレッドの硬い鱗で覆われて、爪も刃物のように鋭く変化した。


まるで竜人の腕。サラの体の周りにも薄い炎が滲み出ているようであった。


「教えてくれたら“太陽”くれるの?」


この敵対する生徒、アンは意地の悪い笑顔を向けながら言う。そして抱えていた大きな茶色のクマのぬいぐるみを路地に落とす。


そのぬいぐるみはふわりと地面に転がり、黒かった両目がフルビームのように発光して立ち上がる。


中に機械でも詰めたかのような挙動を見せたクマ。立ち上がったと同時に今度はアゴが大きく下に落ちて、口の中から大砲の筒のようなものが露出する。


「太陽はあげない。」


「んじゃあ、死んでね。」


クマは口の筒を通して、周りの空気を一斉に吸い込む。すぐに大砲のようなそれは金色に光り始める。


「セントリーベア!!」


一気に質量は放出される。まるでサラの“魔法少女アルトラ”のような光線。


サラはすぐに体を下に落として躱わす。


振り向くと煉瓦造りの壁には円形の焦げ跡、煙が上がっていた。これをまともに喰らえば自らの身体が焦がされる。


しかし軌道は見えやすい。アンがいちいち調整している様子もなくて、かなり単純な狙撃である。


サラはすぐに振り切ったように地面を蹴って、風を取り巻きながら前方に跳ぶ。


このクマを破壊する必要があると判断するのであった。同時に嫌な予感が背後から自分を睨んでいるような気もしたが...。


クマは空気を吸い込んでいる段階である。前例をみると、ここから発射されるまで最低でも2秒はかかるので余裕で辿り着くことができる。


クマの頭部を目掛ける。握った拳は炎を巻き上げていた。やがて鱗に覆われた拳はクマのヘッドランプのような目を殴打。


鉄の掟(アイアン・ディーズ)。」


サラはクマを殴打した。ながらも拳を振り切ることができないのだ。


クマに目を向けると、殴った箇所から血のように吹き出していたのは銀色の液体。


銀色のそれは、すぐにサラの拳を包み込むとまるで金属のように硬化してしまう。


さらにクマの大砲機能も失われておらず。筒は黄色にチカチカと光を増幅させていたのである。


放出されるまでは瞬きほどの時間もない、サラは拳に力を入れ直す。そしてほぼ同時に無慈悲なレーザーは爆発音を立てる。


一方後ろでクマを操作しているアンは無表情。放たれる寸前に何かを見たからである。


周り壁や地面を巻き込んだことによって、土埃は煙幕のように周りに広がっていた。そしてサラの肉を抉られた死体の代わりに、土埃の奥からゆっくりと歩いてくる1人の影。


下に垂れた右腕を押さえたサラであった。


「痛いでしょう。金属を腕ごと自分の炎で焼いて溶かしたのなら。」


腕の皮膚は爛れて、もはや動かすこともできまい。


アンはふざけたようにクマに寄りかかって言う。


「ねえムツキさん、ここで諦めて“金色の太陽”を渡してくれたらその腕も治してあげるけど。」


サラは手の甲をアンに向けて、指先からパズルのピースがはまっていくように。カタカタと鱗が覆っていく。鱗で傷を覆うことで一時的なあれこれを和らげるという意図。


アンの質問には答える価値がない。


もう考えるより先に体は動いた。踏み出した脚はアンの方へ一直線で向かう。


不意打ちすら狙ったものではない。もうすでにボロボロになった右腕を振りあげて、燃え盛るような火傷に油を注ぐ。


メラメラと火を吹いて、今度は本体であるアンの腹部に拳が直撃。


「ごり押しやっぱりつまんない。」


アンは、サラに朗らかな笑顔を向ける。このような拳撃が人にあたれば、普通は弾け飛ぶ。


でもアンは一歩も動かずにそっと彼女の拳に手を添えるだけ。


「私に当たった時点で、隕石だって石に変わるよ。」


やけに哀れみをも含んだような言葉に、果てしない挑発を感じ取り、サラは再び後ろに飛んで距離を空ける。


本体にも、クマにもダメージが0(ゼロ)。これほどまでの“初見殺し”...。


「お礼の約束をしたなら、守ろうよ?ムツキちゃん。」


おそらく”金色の太陽“を渡さなければ、本体にもクマにもダメージを与えられない。


ーーこのアンという少女は。たぶん今の状態だと、無敵だ。

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