畳み掛けるように現れる
「次回は単語テストからだからね!」
国語の授業が終了して、情報量の多い黒板を背に、レイ・リンは教室を去っていく。
「ボスの授業...疲れるな...。」
カイは机にぐったりとしていた。どうせ潜入だからと学問というものを侮っていたのだ。
「漢文なんて、できたからといって何なんだよ。」
「まぁ...国語はできたらすごいわけじゃないけど、できなかったらすごくないからね!」
嘲笑も混じったような言葉とともに、何とも不自然な笑みとグッドマークを見せつけるのだった。
カイにはわかっていた。それはマウントであるということを。
「魔王志望っていうからサラもぶっ飛んでるのかと思ったら、そうだよな...元々有望だもんな...。」
魂の抜かれた亡霊のようにカイは落胆するのであった。あまりにも落胆するのだから、煽ったサラも少しだけ反省して宥める。
「まあまあ。基礎踏まないとわからないものだよ、先生の授業は...。」
ふと一緒に潜入しているシャルテの方に目を向けると、彼女はいたって余裕そうである。手際よく教材をしまってから次の授業に備え始めている様子であった。
また何となく廊下側一番後ろの席に座っているロラに目を向けるが、全く動いていない様子であった。
サラはカイに囁く。
「ねえ、あれ。」
頭にはてなを浮かべたような表情の後、カイは体を後ろに回してサラの視線の先に目を向ける。
ロラの目は回っていて、実にコミカルな風貌であった。彼女はフリーズでもしたかのように全く動かず。開きかけの教材がパラパラと風に捲られていた。
「あぁ。ありゃだめだ。」
「結構クールな印象が強い、ロラさんがね...。」
「一気に古文・漢文を頭に叩き込もうとでもしたんだろ、完全に頭がパンクしているな。」
隣の席のユメアも興味深そうに見つめていた。
「...次は体術の時間だっけ。ユメア一緒に行こ。」
ユメアは喜びの眼差しを向けて頷く。
「うん!」
更衣室で着替えを済ませて、明るく大きな体育館に出る。教師が来るまで待機だと伝えられていた。
しばらくすると鐘が鳴る。教師はまだ来ていなく、生徒たちはがやがやと雑談をしていた。
すると、古い鉄製の扉が凄まじい勢いで開かれる。体術の教師が巨大な音圧とともに登場したのである。
「待たせて済まない!」
サングラスをかけたジャージ姿。彼はキューテストのベルトランであった。
ーーもう驚かないよ...。
2連続でキューテストの授業を受けることに対して、やや呆れる。カイやロラなど、他のキューテストもこの状況には苦笑いであった。
さらにそのジャージ姿とサングラスもいかにもって感じの体育教師の形で、ぴったりと似合っているのだ。
周りの生徒たちは「こわそー」、「スパルタかな。」などと、あまりベルトランに良い教師としての印象を持っていない様子であった。
彼は扉の方からゆっくりと歩いてくる。
「私は体術担当のベルトランだ。この世界は最悪。だからこそ自分の身は自分で守れるようにしなければ、秒で死ぬ!」
続けて、
「男女別に整列!先に5回、相手に膝をつかせればその後は自由に過ごしても良い。グランの使用はもちろん禁止だ。
名前を言っていく!最初はそうだな...サラ・ムツキ、シンヤ・ハシモト、前へ!」
「え、いきなりわたし?」
「頑張れ、サラちゃん。」
ユメアはガッツポーズとともに、静かにサラを応援するのであった。




