レイ・リン先生!
「うん、よろしく。」
ユメアはサラの挨拶に朗らかな笑顔を向けてから、扉の方に目を向ける。
「先生が来たね。どんな人だろ。」
「優しい人ならいいけど...。」
モザイク掛かったガラスの扉の向こうには、何者かの影があった。
ーーどうしてユメアは先生が来たってわかったのだろう。
扉をスライドさせて、名簿を腕に挟んだ先生が部屋へと入ってくる。
その人物はしわひとつないジャケットに身を包んでいて、黒いナチュラルウェーブの髪型にメガネをかけていた。
無言で教卓前にやってくる。黒板に名前を書き出してから、一度クラスを全体的に見渡す。
感じの良い笑顔を見せてから、その女性教師は口を開いた。
「担任になります、レイ・リンと申します!」
「えぇ...。」
思わずサラは、困惑とやや呆れに近いような感情を漏らす。カイとロラの方を見ても、彼らは愕然とした表情を向けていた。
「担当教科は国語です!何か質問ありますか?」
すると1人の男子生徒が手を挙げて、快活な表情で問う。
「レイ・リン先生、彼氏はいますか!」
周りの生徒達もこのふざけた質問に笑うのだった。
レイ・リンは笑顔を崩さずに答える。
「いません!」
教室にいるキューテストは、自分たちのボスが笑いの対象にされていることに全員妙な感情を覚える。
反対にレイ・リン自身は非常に楽しんでいるように見えた。
「今から始業式だから、体育館に移動するよ。」
一斉に教室が体育館に向かう生徒の列で、サラはカイに囁くのだった。
「レイ・リンさん、こんなに堂々としてていいの?」
「俺もわかんねえよ...。まあボスのことだし、大丈夫だとは思うけど。」
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「我々の姉妹校で、悲劇的なことが起こりました。」
「多くの師、そして学友を失いました。我々がせめてできることは、我々の元へ来た生徒達を彼らが託してきた未来として羽ばたかせることでしょう...。」
始業式、三田奈学園の校長は失われた者と生徒達の未来について語る。
空気はどんよりと重たくて、生徒も皆静まり返っていた。
ただ。キューテストには命の演説などそのリアリティを欠いていて、特に響く様子もなさそうだ。
カイなんて大きな欠伸をかいているのだ。
サラは彼らの不可思議なモラルに同意はせずとも、関心するのであった。
生徒たちはパイプ椅子に座っていたが、どうやらもう1人眠りに落ちそうな人物がいた。
ユメアという同じクラスの生徒。彼女も首の力が抜けるかのように、うとうとしている様子であった。
そして、その隣には黒髪赤目の生徒、ツイハが座っている。彼はキューテストのどのメンバーとも面識がないし、会ったばかりで彼らの名前すらも知らない。
彼の手のひらには一枚の透き通ったような白いの羽が乗っており、その先は前列で面倒くさそうに話を聞くカイの方を指していた。
それをじっと見つめるツイハは焦った。
ーーこの生徒...近いうちに人を殺す...。




