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不純な威力は契約によるもの

もちろん残酷なことである。グランという器官を取り除けばヒトは死ぬ、それを刈り取るキューテストはまるで死神のようだ。


桃色の髪の生徒がこちらへと近づいてくる様子に、


ロイは鯛を釣りあげたかのような喜びに包まれた。しかし同時にどことない違和感を感じ取っていた。


その生徒は俯き、何かを深く考えているような様子であった。思わず彼は話しかける。


「なあキミ、名前は?」


サラは一瞬ロイへ渋い表情を見せた。そして少し煙たがるように口を開いた。


「おじさん..ちょっと待ってて。」


ーー「は?」


ロイは、自己を否定されたような屈辱感を味わった。困惑と共に湧いてきたのは怒り。


別にそれがサラの本意であったわけでもなく、ただロイはそれを挑発と受け取り、瞬時にこの娘を“狩りの対象”とした。


力量差は明らかである。ロイには長年狩るものとして、それが見えている。


それでもどこよりか沸き立つような、心地の悪い憤怒が判断を若干曇らせ、違和感を無視することとなった。


ロイは自身の爪を能力で、出刃包丁のような鋭い鉤爪に変化させ、一直線にサラへと飛びかかる。風を切るような速さはまるで空間を裂いているかのようであった。


しかし飛びかかるまでのその刹那に、サラはロイと目を合わせた。そして鉤爪を自身に到達する寸前で右へ躱す。


サラの純粋な身体能力は、彼を見切るのには十分。


ロイはこの娘に技を見切られたことはとくに気にせず、代わりに自身が感じていた違和感に気を取られるのであった。


彼らの間に距離はほとんどなくて、結果これがロイにとっての隙を生み出すこととなる。


間髪入れず、サラは爬虫類の鱗で覆われたような拳を現す。自身のトカゲの能力、<サラマンダー>を右手に纏わせたのである。


サラは横腹を目掛けて拳を叩き込む。全身に重低音が響くような、鈍い一撃であった。


拳を受けたと同時にロイは後方へと跳んで、彼女との間合いを広げる。その痛みは気をやらず、自身がつかんだ違和感の正体に安堵して言う。


「お前もそっち側かよ。重い一撃。だけど...これは違うな、純粋な力じゃない。」


サラは鋭くロイを見つめていた。


続けてロイは言う。


「“減転”か。デメリットだったり条件をつけることによって、能力にバフをかけているな。」


ーーさきほどこの娘は何かを深く考えているようだったがコレか...。そしてあの一撃は、いくつもデメリットを重ねがけした賜物か。


サラはロイの言葉に耳を傾けず、依然として拳を構えたまま突き刺すように相手を見つめている。


実際、ロイの述べたように、サラは“減転”、すなわちいくつものデメリットを能力に設けていた。


まるで諸刃の剣。


その技術、“減転”によって繰り出される底上げされた攻撃は、受ける側にとって何層もの攻撃を喰らったかのように感じる。


この攻撃をするにあたって、


ー息を止めなければならない

ー自身に2割の反動を加える

ー片耳のピアスがどのような形でも破壊されれば即死

ー片目の視力を皆無とする

ー攻撃するたびに血液を失う


サラにとって、純粋な力量の差を片っ端から受け止めた姿勢。


サラはこれらの条件を果たしてやっと、先ほどの威力を出せたのである。気配でもわかるような力量差に打ち勝つためにはこうする他なかった。


ーー勝算はほとんどない。


でも勝てたらリターンが大きい。あのナイフのような爪の能力を喰らって自分のものにしたい....。


さらにこの人が本物の“キューテスト”だとすると、魔王への道がずっと近くなる。ーー


サラは、初めて相対する強敵を千載一遇のチャンスと見做した。


緊張によるブレはすでに殺されていて、ただ虎視眈々と相手の動きを観察する。

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