あくびとともに報復措置 その②
レイ・リンは、グラン人間の灰色の腹部に手を添えて、そこから能力を流し込む。
彼女のたった一つの能力、欲望をエネルギーに変換するというもの。
そのエネルギーはこの世で彼女しか生成できない特異なもの。
“猫エネルギー”
猫エネルギーは純粋な質量となり、ときには汚染させた自然物を変化させる。とにかく猫云々の止まないその力を、皆はこう呼ぶのだ。
「大猫元。」
レイ・リンの手が当たったあたり、グラン人間の腹部はオレンジ色の光を放つ。
そして、まるで灼熱の日光に照らされたアイスクリームのように腹部を中心に、グラン人間は“融解”していく。
1秒も経たないうちに彼は肉片と化すのであった。
レイ・リンはその姿を眺め続ける。
ガラス片のようにも見えるその異質な肉片は、うごめいているではないか。
「雨の雫ほどの、私の大猫元を受けてもなお再生するのか。」
すぐにその肉片は、人の形へと変化してうめき始める。
「ラウル...オノレ...。」
「まったくひどいな...ラウルスの連中。」
レイ・リンは不動のまま、凛とした視線で対象を眺めたとたん。細切れにされたかようにグラン人間はその形を崩す。
しかし、予想通り。
グラン人間のブロック状にされた断片は数秒形を崩したのみで、間も無くパズルのように重なりはじめる。
「ヒトにとって、グランはまとわりつく影のようなもの。影が肉体の主導権を握るような行為はあってはならない。」
新しく風を切るような音が聞こえて、彼女は耳だけを傾けて察する。さらに大勢のグラン人間がこちらに近づいていることを。
「100年前、宇宙生物とヒトの合意であったはず...。」
すぐに大砲のような音が響き渡る。到着した彼らはベランダやキッチンから漆黒の眼差しをむけていた。
「理論上は可能か。」
それでもレイ・リンは俯いたまま。身を動かすことはなく。
「ラウルスがそれを成し遂げたのは、“金色の太陽”があったから...ゆえに皇帝が必死に求めている。」
「グラアアア!!!」
グラン人間どもの襲来の雄叫び、レイ・リンはその短い時間の中で笑みを浮かべる。
「金色の太陽があれば、この世界の理屈も覆せる!それほどの...!」
レイリンは手に持っていた歯ブラシを自らの前に突き出して、力強く握りしめる。
オレンジ色の眩い光が糸を引くようにその歯ブラシの先端に集まってくる。
サイクロンの中ような激しい風圧。その目は猫のように鋭く、尖らせた牙とひきつられて歪んだ笑顔は悪魔のよう。
彼女は出せる全ての質量を、
「十三猫九!!!!」
最も乱雑に解き放つ。
音は消えて、金色にときめく光が流れるように全てを包み込むのだった。
キューテストのメンバーたちは己の気配に気づいて、とっくに身を隠しているだろうと確信していた。
花も生活も、誰かの思い出も。街はレイ・リンの光に包まれ、
天まで届くほどの巨大な光のドームに覆われた。
興奮状態でありながらも、不死身のグラン人間による未曾有のバイオハザードを防ぐため、レイ・リンは全てを蒸発させるのだった。




