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暮れる薔薇のパフューム

「なんで殺したほうがいいと思うんだ?」


カイはメガネの女性に問うと、怯えた様子で彼女は続ける。


「だってその子、政府の、レイナ・ムツキの娘なんです!」


その発言に一番驚いたのはサラであった。役所勤めだという話は聞いたことあるものの、政府だとは思ってもいなく。


「そうなの?」


「だからいますぐ処分すれば...なんとか...。」


レインは奥に一つ置かれたソファに腰掛けてただ黙るのみ。カイはサラの顔をじっと見つめて問う。


「レイナ・ムツキ本当に母親なの?」


サラは全く知らない事情に脅されて、焦るように並べる。身に降りかかる圧に押しつぶされそうになるのだった。


「うん、レイナ・ムツキは確かに母親だけど...政府の人間だなんて、全く。」


カイの眼差しも、仲間には向けるものではなく、


「彼女は軍の“佐官”だよ、キューテストを半壊にまで追いやったこともある。確かに送り込まれたとしたら大変だ。」


その気配は暗くて、じっと狙われているような感じがしていた。


「問題はないよ。」


フェミニン、薔薇のパフュームが風に乗り背後から声がする。若い女性のもの。


メガネの女性は焦りを捨てて、続いて真剣な眼差しでぶつぶつと続ける。


「...その保証はどこで取れるのですか。」


ーー「彼女の兄はラウルスだし。」


「ラウルスと政府が手を組んでいる可能性は。」


ーー「彼らの利害関係は元より機能していない。」


「そもそもムツキが秘密警察という噂もあります。」


ーー「そこは、君が一番知ってるでしょう。シャルテ。」


その言葉にシャルテは若干萎縮したのか。言い返すことをやめて、少しの静寂が漂った。


「...警戒は、続けますからね...。」


そう言い残して部屋に引っ込むのだった。


「レイ・リンさん!」


レイ・リンはサラに優しく微笑むのだった。


---


ベルトランの絶品オムレツを食べてから、レイ・リンはサラを少し外を歩かないかと誘う。


日が傾いていて、赤い空は直接自分たちを照らしていた。


住宅街の、帰宅途中の人々とすれ違う中。


「昔、夏はもっと暑かったらしいよ。」


「これ以上暑いことなんてあるんですね。」


「ほんと。毎日が36℃以上だった年もあったらしいよ。今の夏でも十分暑いのにね、災厄が何一つ起こる前ね。」


夕陽がレイ・リンの横顔を照らしながら問う。


「ところでサラ、君は何を目指してるの?」


「魔王を。」


レイ・リンはこの言葉に聞き覚えがあった。どこか懐かしいような言葉。


夕暮れの生暖かい風が吹いてから、この少女の金色の目を深く見つめて聞く。


「魔王になるには、何が一番手っ取り早いか知ってる?」


顔を見合わせてから、サラは首を横に振る。高架下に入り、レイ・リンの顔は影が覆い隠す。かすかにこぼれた笑みが見えるのだった。


「私みたいな魔王を喰らうことだよ。」


その言葉の異質さにサラは目を丸くするのだった。影が顔を覆ってもレイ・リンの瞳は青白く光り続ける。

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